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51 閃き
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今から約十年前。
とある事件が王国中を震撼させた。
それは「コンラード伯爵が王の殺害を企てた」というものだった。
驚くことに、当時の国王陛下にその証拠を提出したのはレスタリア公爵だった。
事の発端はコンラード伯爵邸にある伯爵の部屋から王殺害の計画書が見つかったことだった。
証人も次々と現れ、コンラード伯爵は王家の騎士によって捕らえられた。
その後コンラード伯爵は全ての罪を白日の下に晒された後に処刑され、伯爵家は取り潰しとなった。
これが、コンラード伯爵家が取り潰しになった経緯である。
これだけ聞くとレスタリア公爵が王を守った英雄のように見えるかもしれない。
しかしあの男が王を守るなどありえない。
むしろ王を攻撃しようとする側だろう。
(……レスタリア公爵は欲深い男だ。あの行動にも何か意味があるはずだ)
当時のことを考え込んでいた私にヴェロニカ公爵が声をかけた。
「陛下、コンラード伯爵の件についてですが……」
「ああ、公爵」
「もう一度念入りに調べてみたのですが、伯爵が王の殺害を企てたのは紛れもない事実かと……」
「そうか……」
「手掛かりを得られず申し訳ありません」
「いいや、かまわない。ご苦労だった」
公爵の持ってきた調査結果は私の予想通りだった。
あの父上が冤罪で処刑するだなんてそんな過ちを犯すはずがない。
それだけは私の中でハッキリとしていたからだ。
しかし、もしそうだったとしたら一つ引っ掛かることがあった。
(それなら何だ?あの男は本当にただ悪徳貴族を断罪しただけだと言うのか?)
レスタリア公爵の性格からして、それは信じがたいことだった。
「――陛下」
「……!」
そのとき、執務室の窓から中に入ってきたのは諜報員だった。
諜報員は慣れた様子で執務室の床に着地すると私の前まで来た。
「執事長の身元について分かったことがあります。あの男がペラペラと自分のことを喋ってくれたおかげで特定するのが随分簡単でしたよ」
「そうか、どうだった?」
「執事長の本当の名前はクロード。どうやらエイルは偽名だったようです」
「……偽名だと?」
「はい。彼は元々市井で暮らしていた平民で十歳で両親を殺害され、十二歳の頃にレスタリア公爵に拾われています」
「なるほどな……」
「両親を殺害されてから公爵閣下に拾われるまでの二年間はたった一人で路上生活をしていたようです」
「……」
どうやら執事長の過去は私が思っていたよりも随分と酷かったらしい。まだ幼い子供が一人でそんな境遇になったのだ。想像するだけでも胸が痛くなる。
「公爵閣下に拾われてからは公爵邸で様々な教育を施されたようですね。マナーや礼儀作法、剣術など全てです」
「……ただの執事にそこまでさせる必要があるのか?」
「それは私も思いましたが……どうやら教育はかなりスパルタだったようです。上達が遅いと体罰を受けることもあったのだとか」
「……体罰だと?」
私はその言葉に思わず眉をひそめた。
(何だそれは。私の受けた王太子教育ですらそこまで厳しくはないぞ)
私はそこで過去に受けた王太子教育を思い浮かべた。
たしかに厳しかったが、体罰などはもちろん無かった。
そんなことをすればその講師はすぐさま処刑されることになるからだ。
おそらくフランチェスカが受けた王妃教育も同じだろう。
「……」
一介の執事に何故そこまで厳しくする必要があるのだろうか。
私にはそれがどうしても分からなかった。
それ以前にまだ幼い子供に体罰など、人のすることではない。
私はそこでハァとため息をついた。
(まるでどっかの暗殺者集団みたいだな……)
一流の暗殺者集団では、暗殺者を引き入れるのではなく育て上げるのだと聞いたことがある。
行き場の無い幼い子供を組織に入れ、殺しの術を学ばせる。
幼い頃から専門的にただそれだけを学ばせることによって一流の暗殺者が出来上がるという仕組みだ。
(ん……?育て上げる……?)
私はその言葉が妙に引っ掛かった。
(もしかして……)
そして、ある一つの結論に辿り着いた。
私はすぐに椅子から立ち上がり、部屋の扉へ向かって歩き出した。
「……陛下、どちらへ行かれるのですか?」
ヴェロニカ公爵が私に尋ねた。
「取調室だ」
「も、もしかして何か分かったのですか!?」
公爵は嬉しそうにそう言いながら部屋を出た私について来た。
(……もしかしたら、執事長にとっては残酷な真実を聞くことになるかもしれないな)
私はそう思いながらも取調室へと向かった。
とある事件が王国中を震撼させた。
それは「コンラード伯爵が王の殺害を企てた」というものだった。
驚くことに、当時の国王陛下にその証拠を提出したのはレスタリア公爵だった。
事の発端はコンラード伯爵邸にある伯爵の部屋から王殺害の計画書が見つかったことだった。
証人も次々と現れ、コンラード伯爵は王家の騎士によって捕らえられた。
その後コンラード伯爵は全ての罪を白日の下に晒された後に処刑され、伯爵家は取り潰しとなった。
これが、コンラード伯爵家が取り潰しになった経緯である。
これだけ聞くとレスタリア公爵が王を守った英雄のように見えるかもしれない。
しかしあの男が王を守るなどありえない。
むしろ王を攻撃しようとする側だろう。
(……レスタリア公爵は欲深い男だ。あの行動にも何か意味があるはずだ)
当時のことを考え込んでいた私にヴェロニカ公爵が声をかけた。
「陛下、コンラード伯爵の件についてですが……」
「ああ、公爵」
「もう一度念入りに調べてみたのですが、伯爵が王の殺害を企てたのは紛れもない事実かと……」
「そうか……」
「手掛かりを得られず申し訳ありません」
「いいや、かまわない。ご苦労だった」
公爵の持ってきた調査結果は私の予想通りだった。
あの父上が冤罪で処刑するだなんてそんな過ちを犯すはずがない。
それだけは私の中でハッキリとしていたからだ。
しかし、もしそうだったとしたら一つ引っ掛かることがあった。
(それなら何だ?あの男は本当にただ悪徳貴族を断罪しただけだと言うのか?)
レスタリア公爵の性格からして、それは信じがたいことだった。
「――陛下」
「……!」
そのとき、執務室の窓から中に入ってきたのは諜報員だった。
諜報員は慣れた様子で執務室の床に着地すると私の前まで来た。
「執事長の身元について分かったことがあります。あの男がペラペラと自分のことを喋ってくれたおかげで特定するのが随分簡単でしたよ」
「そうか、どうだった?」
「執事長の本当の名前はクロード。どうやらエイルは偽名だったようです」
「……偽名だと?」
「はい。彼は元々市井で暮らしていた平民で十歳で両親を殺害され、十二歳の頃にレスタリア公爵に拾われています」
「なるほどな……」
「両親を殺害されてから公爵閣下に拾われるまでの二年間はたった一人で路上生活をしていたようです」
「……」
どうやら執事長の過去は私が思っていたよりも随分と酷かったらしい。まだ幼い子供が一人でそんな境遇になったのだ。想像するだけでも胸が痛くなる。
「公爵閣下に拾われてからは公爵邸で様々な教育を施されたようですね。マナーや礼儀作法、剣術など全てです」
「……ただの執事にそこまでさせる必要があるのか?」
「それは私も思いましたが……どうやら教育はかなりスパルタだったようです。上達が遅いと体罰を受けることもあったのだとか」
「……体罰だと?」
私はその言葉に思わず眉をひそめた。
(何だそれは。私の受けた王太子教育ですらそこまで厳しくはないぞ)
私はそこで過去に受けた王太子教育を思い浮かべた。
たしかに厳しかったが、体罰などはもちろん無かった。
そんなことをすればその講師はすぐさま処刑されることになるからだ。
おそらくフランチェスカが受けた王妃教育も同じだろう。
「……」
一介の執事に何故そこまで厳しくする必要があるのだろうか。
私にはそれがどうしても分からなかった。
それ以前にまだ幼い子供に体罰など、人のすることではない。
私はそこでハァとため息をついた。
(まるでどっかの暗殺者集団みたいだな……)
一流の暗殺者集団では、暗殺者を引き入れるのではなく育て上げるのだと聞いたことがある。
行き場の無い幼い子供を組織に入れ、殺しの術を学ばせる。
幼い頃から専門的にただそれだけを学ばせることによって一流の暗殺者が出来上がるという仕組みだ。
(ん……?育て上げる……?)
私はその言葉が妙に引っ掛かった。
(もしかして……)
そして、ある一つの結論に辿り着いた。
私はすぐに椅子から立ち上がり、部屋の扉へ向かって歩き出した。
「……陛下、どちらへ行かれるのですか?」
ヴェロニカ公爵が私に尋ねた。
「取調室だ」
「も、もしかして何か分かったのですか!?」
公爵は嬉しそうにそう言いながら部屋を出た私について来た。
(……もしかしたら、執事長にとっては残酷な真実を聞くことになるかもしれないな)
私はそう思いながらも取調室へと向かった。
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