お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
39 / 87

39 調査結果

しおりを挟む
フレイアのお披露目会が開かれた数日後のことだった。


――コンコン


「陛下、失礼します」
「入れ」


私がそう声を掛けると、ドアが開いた。
部屋に入ってきたのは黒いローブを着ている男だ。
一見怪しく見えるが、彼はれっきとした王家の諜報員である。


私はあの後、お披露目会から戻ってすぐ諜報員にレスタリア公爵家の調査を依頼した。
公爵夫人のことが気になったというのもあるが、この先対立するであろうレスタリア公爵家のことをもっとよく知っておく必要があると思ったからだ。


「では、調査結果を報告します」


諜報員は私以外に誰もいないことを確認して口を開いた。


「ああ、頼む」


諜報員は真面目な顔で言葉を続けた。


「――数日間、レスタリア公爵家の前で張り込んでおりましたが邸に出入りしていた公爵家の人間は公爵閣下とご子息、そしてつい最近養女となった公女様だけでした」
「……公爵夫人の姿は見なかったのか」


私の問いに諜報員は軽く頷いた。


「はい、夫人に関しては一度も私共の前に姿を現すことはありませんでした」
「そうか……」


やはり公爵夫人のことについては分からなかったらしい。


(…………本当に公爵邸に住んでいるのか?いや、そもそも生きているのかすら怪しいぞ)


公爵夫人が社交界から姿を消したのは二十年以上も前の話だ。
こんなにも長い間ずっと外に出ないことなど普通の人間なら不可能だ。
やはり公爵夫人に関しては既に亡くなっているか、邸には住んでいないという説が有力か。


私が考えを巡らせていると、諜報員が驚きのことを口にした。


「それと、実は公爵家の人間が邸にいない間にメイドに扮した部下を公爵邸に潜入させたのです」
「何だと!?」


そんなことが出来たのか。
私は彼らに感心した。
あのレスタリア公爵家の厳重な警備の目をかいくぐるとはさすがとしか言いようがない。


「それで、どうだったんだ?」
「それが……部下は厨房にいたメイドたちの会話を盗み聞いたそうなのですが、どうやら使用人たちは主人であるレスタリア公爵を物凄く恐れているようです」
「……まぁ、そりゃあそうだろうな」


(……高位貴族ですら恐れる男だぞ。公爵邸で働いている使用人たちは毎日恐ろしい思いをしていることだろう)


あのレスタリア公爵のことだ。
少しでもミスをすればすぐに殺されそうである。


しかしその次に、私に告げられたのはさらに驚くべき事実だった。


「いえ、それがですね……旦那様は数十年前からずっと狂っている、だとか誰もいないはずの部屋から旦那様の声が聞こえる、だとか意味不明なことを口にしていたそうです」
「…………何だと?」


それを聞いた私は訝し気に眉をひそめた。


(……レスタリア公爵が狂っている?誰もいないはずの部屋から公爵の声が聞こえる?一体どういうことだ?)


「真相は私共にもよく分かりませんが、たしかにそう言っていたようなのです」
「……そうか」


王家の諜報員たちは特別な訓練を受けているため、かなり耳が良い。
聞き間違い、ということはまずないだろう。


(……ということは本当にそれを聞いたのだろうな)


私はついこの間見たレスタリア公爵を思い浮かべた。
たしかにあの男は恐ろしい男だとは思う。
感情がまるで読めず、何を考えているのか分からない。
だが、狂っていると感じたことは一度も無かった。
レスタリア公爵はいつも冷静で、とてもじゃないが気が狂っている人間には見えない。


(…………ただ表に出していないだけか?それとも思考が狂っているという意味か?)


私はそう思いながらも諜報員に尋ねた。


「他には何かないか?」
「いえ、特には……」
「そうか、分かった。ご苦労だった。今日のところはもう休め」


私がそう言って退出を促すと、諜報員はグッと俯いた。


「――陛下、有力な手掛かりを得られず申し訳ありませんでした」


彼は深々と頭を下げた。


「……」


彼らが謝罪する必要など少しも無い。
むしろ危険なレスタリア公爵邸に潜入までしてくれて感謝しているというのに。


「……何を言っているんだ。そんな危険を冒してまで私のために動いてくれたんだ。謝罪などするな。私はいつも、君たちに感謝している」
「陛下……!」


私の言葉を聞いた諜報員は感動したかのような顔になった。


「これからもよろしく頼む」
「はい!もちろんです!」


諜報員は明るい声でそう言って部屋を出て行った。
アレクは用事で出掛けているため、執務室にいるのは私一人になった。


「……」


私は椅子に座ったまま、先ほどの諜報員の言葉についてじっくりと考え込む。
もしかしたら深い意味は無いのかもしれない。
ただのメイドの戯言という可能性だってある。


だけど、何故だか……


あの言葉の真意を知れば、何かが解けるようなそんな気がした――


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...