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それが何なのかは分からない。
根拠なんてどこにもない。
ただの勘だ。
しかしレスタリア公爵家には底知れない闇を感じる。
私が見たレスタリア公爵はいつも目の奥が笑っていないのだ。
優しかった母上と同じ瞳の色をしているのに、公爵の瞳はどこか濁って見えた。
レスタリア公子に関してもそうだ。
彼は女性に興味が無いというよりかは、他人に興味が無いというように思える。
親しくしている令息もとくにいないようだし、他人と必要以上に関わっていないように見えた。
私は思考を巡らせながらも廊下を歩き続けた。
そしてしばらくしてようやく執務室に到着した。
そのままゆっくりと扉を開けた。
「あ、陛下!戻られましたか!」
「ああ、すまないな」
「どちらへ行っていたのですか?」
「…………庭園に」
「……!」
私の答えにアレクは一瞬だけ驚いた顔をした。
しかしその後すぐにいつもの優しげな表情に戻る。
「……そうでしたか」
そう言ったアレクの顔はどこか嬉しそうだった。
(……そういえば元々アレクはこういう男だったな)
私はそう思いながら執務室の椅子に座った。
フレイアがここに来てからのアレクはフランチェスカと同じでほとんど笑わなかった。
アレクとは私もフランチェスカも長い付き合いで、いわゆる幼馴染というやつだ。
だから私もアレクには何でも話すことが出来た。
「……庭園でフレイアとレスタリア公子に会った」
「はい、そうなんですね………って、ええ!?」
私が何気なく放った一言にアレクは驚愕した。
「フレイア様はともかく、レスタリア公子が何故王宮の庭園に!?」
「さぁな。フレイアとは随分親しそうにしていたが」
「……」
私がそう言うとアレクは表情を失った。
そして突然体中から殺気を放った。
「やはりあの女は今すぐ殺すべきです。陛下がやらないのなら私が……」
「………落ち着け」
またしても部屋から飛び出していきそうなアレクを何とか抑え込む。
「アレク、お前はレスタリア公爵家について何か知っているか?」
私が尋ねると、アレクは落ち着きを取り戻して私の問いに答えた。
「…………いえ、全く。レスタリア公爵は残忍な性格をしていて、裏でとんでもないことをしているというのは聞いたことがあります。……まあ、それすら噂で聞いただけですがね」
「……そうか」
その噂は社交界で広まっているもので、貴族なら誰もが知っていることだ。
悔しいが、公爵家に関する情報は今現在そのくらいである。
黙り込んだ私にアレクが尋ねた。
「……レスタリア公爵家が気になりますか?」
「……?ああ、そうだな。あいつらが何を企んでいるのか正直気になる」
「そうだったのですね……」
私の言葉にアレクは考え込むような素振りを見せた。
そして突然、何かを閃いたといったようにポンと手を叩いた。
「そうだ!それならレスタリア公爵邸に一度行ってみてはいかがでしょうか?」
「…………レスタリア公爵邸に?」
「ええ、フレイア様が正式に公爵家の養女になるのであればきっと公爵邸でお披露目会が開かれるはずです」
「……!」
私はその言葉にハッとなった。
「フレイア様は陛下と関係が深いですからきっと招待状が届くでしょう。行ってみたら何か分かるかもしれませんよ?」
「……たしかにな」
言われてみればそうだ。
私は今までレスタリア公爵邸に行ったことは一度もなかった。
婚約者であるフランチェスカの生家ヴェロニカ公爵家がレスタリア公爵家と敵対していたからだ。
(…………敵対というよりかはレスタリア公爵家がヴェロニカ公爵家を一方的に敵視してたんだよな)
何故レスタリア公爵家がヴェロニカ公爵家を敵視していたのかまでは分からなかったが。
今思えばどこまでも謎めいた家門だ。
だが、しかし――
(…………行ってみる価値はありそうだな)
そう思った私はレスタリア公爵邸を一度訪問することを決めた。
根拠なんてどこにもない。
ただの勘だ。
しかしレスタリア公爵家には底知れない闇を感じる。
私が見たレスタリア公爵はいつも目の奥が笑っていないのだ。
優しかった母上と同じ瞳の色をしているのに、公爵の瞳はどこか濁って見えた。
レスタリア公子に関してもそうだ。
彼は女性に興味が無いというよりかは、他人に興味が無いというように思える。
親しくしている令息もとくにいないようだし、他人と必要以上に関わっていないように見えた。
私は思考を巡らせながらも廊下を歩き続けた。
そしてしばらくしてようやく執務室に到着した。
そのままゆっくりと扉を開けた。
「あ、陛下!戻られましたか!」
「ああ、すまないな」
「どちらへ行っていたのですか?」
「…………庭園に」
「……!」
私の答えにアレクは一瞬だけ驚いた顔をした。
しかしその後すぐにいつもの優しげな表情に戻る。
「……そうでしたか」
そう言ったアレクの顔はどこか嬉しそうだった。
(……そういえば元々アレクはこういう男だったな)
私はそう思いながら執務室の椅子に座った。
フレイアがここに来てからのアレクはフランチェスカと同じでほとんど笑わなかった。
アレクとは私もフランチェスカも長い付き合いで、いわゆる幼馴染というやつだ。
だから私もアレクには何でも話すことが出来た。
「……庭園でフレイアとレスタリア公子に会った」
「はい、そうなんですね………って、ええ!?」
私が何気なく放った一言にアレクは驚愕した。
「フレイア様はともかく、レスタリア公子が何故王宮の庭園に!?」
「さぁな。フレイアとは随分親しそうにしていたが」
「……」
私がそう言うとアレクは表情を失った。
そして突然体中から殺気を放った。
「やはりあの女は今すぐ殺すべきです。陛下がやらないのなら私が……」
「………落ち着け」
またしても部屋から飛び出していきそうなアレクを何とか抑え込む。
「アレク、お前はレスタリア公爵家について何か知っているか?」
私が尋ねると、アレクは落ち着きを取り戻して私の問いに答えた。
「…………いえ、全く。レスタリア公爵は残忍な性格をしていて、裏でとんでもないことをしているというのは聞いたことがあります。……まあ、それすら噂で聞いただけですがね」
「……そうか」
その噂は社交界で広まっているもので、貴族なら誰もが知っていることだ。
悔しいが、公爵家に関する情報は今現在そのくらいである。
黙り込んだ私にアレクが尋ねた。
「……レスタリア公爵家が気になりますか?」
「……?ああ、そうだな。あいつらが何を企んでいるのか正直気になる」
「そうだったのですね……」
私の言葉にアレクは考え込むような素振りを見せた。
そして突然、何かを閃いたといったようにポンと手を叩いた。
「そうだ!それならレスタリア公爵邸に一度行ってみてはいかがでしょうか?」
「…………レスタリア公爵邸に?」
「ええ、フレイア様が正式に公爵家の養女になるのであればきっと公爵邸でお披露目会が開かれるはずです」
「……!」
私はその言葉にハッとなった。
「フレイア様は陛下と関係が深いですからきっと招待状が届くでしょう。行ってみたら何か分かるかもしれませんよ?」
「……たしかにな」
言われてみればそうだ。
私は今までレスタリア公爵邸に行ったことは一度もなかった。
婚約者であるフランチェスカの生家ヴェロニカ公爵家がレスタリア公爵家と敵対していたからだ。
(…………敵対というよりかはレスタリア公爵家がヴェロニカ公爵家を一方的に敵視してたんだよな)
何故レスタリア公爵家がヴェロニカ公爵家を敵視していたのかまでは分からなかったが。
今思えばどこまでも謎めいた家門だ。
だが、しかし――
(…………行ってみる価値はありそうだな)
そう思った私はレスタリア公爵邸を一度訪問することを決めた。
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