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34 レスタリア公爵家の闇

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(…………ようやく行ったか)


私は庭園から二人の姿が見えなくなったのを確認して一息ついた。
まさかここであの二人に会うとは思わなかった。
とくに驚いたのはレスタリア公子のほうだ。


私は舞踏会で見たレスタリア公子の姿を思い浮かべた。


類稀なる美貌を持ち、紳士的な性格をしているレスタリア公子はいつも貴族令嬢に囲まれていた。
しかしホワイト侯爵令嬢と同じようにそんな彼にもまた婚約者はいない。
いくつもの縁談が来ているそうだが全て断っているらしい。


そんなレスタリア公子に令嬢たちは将来を誓い合った身分の低い恋人がいるのではないかと騒いでいた。


(……まさか、それがフレイアだったのか?)


私はそこまで考えて慌てて首を横に振った。
貴族の噂話などほとんど当てにならない。
王たるもの、自分の目で確かめて判断しなくてはならない。


しかし――


(……あんなレスタリア公子は初めて見た)


私はフレイアと共にいたときのレスタリア公子の姿に驚きを隠せなかった。
彼は紳士的でたしかに女性に優しいが、あんな風に顔を近づけたりするような人間ではない。


どちらかというと貴族令嬢と一定の距離を保って関わっていた印象だ。
少なくとも、私が舞踏会で見たレスタリア公子はあまり女性に興味が無いように見えた。


「……」


レスタリア公子はともかく、フレイアの方は本気であの男のことを好いているようだった。
あの顔は作れるものではない。


一体いつどこで二人が出会い、どのようにして親しくなったのか。
レスタリア公子はフレイアのことをどう思っているのか。


気になることはたくさんあるが、それは今やるべきことではないだろう。


(………敵は四方八方にいるんだ。少しの油断が命取りになる)


王という地位は元々そういうものだ。
ウィルベルト王国の歴代の王たちだってきっとそうだっただろう。
無能な王はすぐに玉座を奪われ、優秀な王は何十年もその椅子に座り続ける。


(…………そろそろ戻るか)


私はそこで一旦考えるのをやめて来た道を戻った。


本当はもっとこの場所にいたかったがいい加減戻らないといけない。
いつまでもアレクを一人にしておくわけにはいかないからだ。


私はまた空いた時間にここに来ようと心に決めて庭園を出た。


執務室までの道を歩いている最中、私は頭の中でレスタリア公爵家についての情報を整理していた。


レスタリア公爵家の当主ベルモンドは残忍で欲深く、非常に頭の良い男だ。
そのうえ感情がまるで読めない。
敵に回すと本当に厄介な相手である。


長男のマクシミリアンは眉目秀麗、文武両道で公爵からの信頼も厚いと聞く。


公爵夫人は――


「…………!」


私はそこであることに気が付いた。


(…………私は、レスタリア公爵夫人の姿を見たことがない)



レスタリア公爵は舞踏会には基本的に一人息子のマクシミリアンと二人で参加している。
そこに公爵夫人はいない。


王家主催の舞踏会に貴族が参加しないなど本当ならあってはならないことだ。
しかしレスタリア公爵夫人に関しては毎回のように舞踏会を欠席している。
それどころか夫人同士のお茶会にすら姿を出さないらしい。


(…………貴族令嬢時代は普通に社交界に顔を出していたようだが)


レスタリア公爵に嫁いでから人前に姿を出さなくなった夫人を、貴族たちは面白おかしく噂した。
姿を見せなくなったのは公爵に既に殺されているからだとか、公爵からずっと暴力を受けていてそれに耐えかねた夫人が公爵邸から逃げ出しただとか。
たしかにあの男ならやりそうなことだが、真相は分からない。


公爵夫人に関しては生死すら不明というのが現状だ。
最近だと公爵夫人がいないことが当たり前になっているせいかその話をする貴族もいなくなった。


公爵夫人が今何をしているのか、生きているのか死んでいるのか正直私には分からない。
だが、私には一つだけ確信していることがあった。


(…………あの家には、何か闇がある)


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