26 / 87
26 無能な王
しおりを挟む
私はフレイアの部屋を出て王宮の廊下を歩いていた。
「……」
私の胸に後悔と絶望が押し寄せてくる。
フレイアは最初から私を愛していなかった。
いやそれに関しては別にどうだっていい。
(フランチェスカ……)
まさかフレイアがあんなことを考えているとは思わなかった。
ただ我儘で世間知らずなだけだと思っていたがそうではなかったようだ。
美しい容姿に反して性格は最悪だった。
侍従の言っていたことは間違いではなかったのだ。
(……本当に、何で私はあんな女に恋をしていたのだろうか)
フランチェスカが亡くなってからはそればかりを考えるようになった。
しかし、いくら考えても答えは出なかった。
それに、フレイアとの記憶が曖昧であまり思い出せない。
フランチェスカとの記憶はどれだけ昔でも鮮明に思い出せるのに。
私はそんなことを考えながら王宮の廊下を歩き続けた。
その途中で何人もの侍女や騎士たちとすれ違った。
彼らは皆私を冷たい目で見ている。
無能な王に呆れ果てているのだろう。
『親殺し』
『無能』
『生きてる価値無い』
誰かがすれ違うたびに私を侮辱する言葉が耳に入ってくる。
(……)
しかしすれ違う侍女たちは何も言っていない。
なら今のは彼らの心の声だろうか。
フランチェスカのことを悪く言われたときはあれほど苛立ったのに自分の悪口はやはり平気なんだなと改めて思った。
私はそういうことを言われて当然の人間だ。
自分を擁護するつもりはないし、やったことを正当化するつもりもない。
そう思いながら王宮の廊下の角を曲がろうとしたとき、女性の悲痛な叫び声が聞こえてきて思わず足を止めた。
「――もう嫌よ!!!耐えられないわ!!!」
「リーリア落ち着いて!」
(…………何だ?)
どうやら曲がり角の先に二人の女性がいるらしい。
そのうちの一人は完全に取り乱している。
「私もうあの人の世話嫌よ!!!」
「リーリア……」
(……)
名前は出していないが、私は誰のことを言ってるのかすぐに分かった。
おそらく二人は王宮に勤めている侍女だ。
そしてその片方はフレイアの身の回りの世話を担当しているのだろう。
私の危惧した通り、彼女は周りに迷惑をかけて暮らしているようだ。
「あの人気に入らないことがあると物を投げつけてくるのよ!今日はそれで手を切られたわ!」
(……)
どうやら私が思っていたよりも状況は悪かったらしい。
早く彼女を何とかしなければ。
「私は貴族令嬢よ!?何であんな平民の女が王宮で威張り散らしてるのよ!!!」
「リーリア……それは私も思うけど……そんなことを言ってはいけないわ……」
もう片方が声を荒げる侍女を宥めるようにしてそう言った。
しかしリーリアという侍女の怒りが収まることは無かった。
「もう!こうなったのも全部陛下のせいよ!」
「リーリア!」
(……)
侍女は我慢の限界に達したのか、怒り任せに声を荒げた。
「だって本当のことじゃない!陛下があんな女を王宮に連れてきたからこうなったのよ!あの女のどこらへんがフランチェスカ様よりも良かったのよ!」
(……)
「王宮であんなに好き勝手してるのに陛下はいつまでもあの女を野放しにしているし!」
(……)
「何で私がこんな辛い目に遭わなきゃいけないのよ!家のために働きに来ただけなのに!」
(……)
「――ああ、もういっそ、二人まとめて死んでくれないかしら」
(……)
「やめなさい!リーリア!陛下の悪口を言ってはいけないわ!」
リーリアという侍女の発言にもう一人の侍女が怒声を上げた。
「ッ……!ごめん……」
その言葉で彼女はようやく正気を取り戻したのか、静かになった。
そんな彼女に、もう一人の侍女が優しく言った。
「次の仕事は私が代わりにやっておくから。あなたは休んでて」
「……ありがとう」
二人の侍女はそのままその場から立ち去った。
一方私はというと、しばらくそこから動けずにいた。
「……」
私の胸に後悔と絶望が押し寄せてくる。
フレイアは最初から私を愛していなかった。
いやそれに関しては別にどうだっていい。
(フランチェスカ……)
まさかフレイアがあんなことを考えているとは思わなかった。
ただ我儘で世間知らずなだけだと思っていたがそうではなかったようだ。
美しい容姿に反して性格は最悪だった。
侍従の言っていたことは間違いではなかったのだ。
(……本当に、何で私はあんな女に恋をしていたのだろうか)
フランチェスカが亡くなってからはそればかりを考えるようになった。
しかし、いくら考えても答えは出なかった。
それに、フレイアとの記憶が曖昧であまり思い出せない。
フランチェスカとの記憶はどれだけ昔でも鮮明に思い出せるのに。
私はそんなことを考えながら王宮の廊下を歩き続けた。
その途中で何人もの侍女や騎士たちとすれ違った。
彼らは皆私を冷たい目で見ている。
無能な王に呆れ果てているのだろう。
『親殺し』
『無能』
『生きてる価値無い』
誰かがすれ違うたびに私を侮辱する言葉が耳に入ってくる。
(……)
しかしすれ違う侍女たちは何も言っていない。
なら今のは彼らの心の声だろうか。
フランチェスカのことを悪く言われたときはあれほど苛立ったのに自分の悪口はやはり平気なんだなと改めて思った。
私はそういうことを言われて当然の人間だ。
自分を擁護するつもりはないし、やったことを正当化するつもりもない。
そう思いながら王宮の廊下の角を曲がろうとしたとき、女性の悲痛な叫び声が聞こえてきて思わず足を止めた。
「――もう嫌よ!!!耐えられないわ!!!」
「リーリア落ち着いて!」
(…………何だ?)
どうやら曲がり角の先に二人の女性がいるらしい。
そのうちの一人は完全に取り乱している。
「私もうあの人の世話嫌よ!!!」
「リーリア……」
(……)
名前は出していないが、私は誰のことを言ってるのかすぐに分かった。
おそらく二人は王宮に勤めている侍女だ。
そしてその片方はフレイアの身の回りの世話を担当しているのだろう。
私の危惧した通り、彼女は周りに迷惑をかけて暮らしているようだ。
「あの人気に入らないことがあると物を投げつけてくるのよ!今日はそれで手を切られたわ!」
(……)
どうやら私が思っていたよりも状況は悪かったらしい。
早く彼女を何とかしなければ。
「私は貴族令嬢よ!?何であんな平民の女が王宮で威張り散らしてるのよ!!!」
「リーリア……それは私も思うけど……そんなことを言ってはいけないわ……」
もう片方が声を荒げる侍女を宥めるようにしてそう言った。
しかしリーリアという侍女の怒りが収まることは無かった。
「もう!こうなったのも全部陛下のせいよ!」
「リーリア!」
(……)
侍女は我慢の限界に達したのか、怒り任せに声を荒げた。
「だって本当のことじゃない!陛下があんな女を王宮に連れてきたからこうなったのよ!あの女のどこらへんがフランチェスカ様よりも良かったのよ!」
(……)
「王宮であんなに好き勝手してるのに陛下はいつまでもあの女を野放しにしているし!」
(……)
「何で私がこんな辛い目に遭わなきゃいけないのよ!家のために働きに来ただけなのに!」
(……)
「――ああ、もういっそ、二人まとめて死んでくれないかしら」
(……)
「やめなさい!リーリア!陛下の悪口を言ってはいけないわ!」
リーリアという侍女の発言にもう一人の侍女が怒声を上げた。
「ッ……!ごめん……」
その言葉で彼女はようやく正気を取り戻したのか、静かになった。
そんな彼女に、もう一人の侍女が優しく言った。
「次の仕事は私が代わりにやっておくから。あなたは休んでて」
「……ありがとう」
二人の侍女はそのままその場から立ち去った。
一方私はというと、しばらくそこから動けずにいた。
221
お気に入りに追加
7,502
あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる