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22 明かされる真実
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「お、おい……冗談はよせ……父上と母上が亡くなっただなんて……」
私は目の前で震えている侍従に対してそう言った。
嘘であってほしかった。
フランチェスカが亡くなってまだ一月も経っていないというのに。
「冗談ではありません!!!」
「……ッ!!!」
侍従は私の言葉に声を荒げた。
「先王陛下と先代王妃陛下は……離宮で……お亡くなりになられました……」
侍従は何かをグッと堪えるようにそう言った。
「……そんな……嘘だろう……?」
胸の奥から巨大な何かが押し寄せてくるような感覚に襲われた。
(父上と……母上が……亡くなった……?)
認めたくはないが、侍従の様子からして嘘をついているとは到底思えなかった。
「すぐに離宮へ向かう……!」
私はそれだけ言って足早に部屋を出た。
◇◆◇◆◇◆
私は馬車に乗り、父上と母上の住む離宮へと向かった。
(何かの間違いだ……そんなことあるはずがない……)
私は未だに理解が追い付いていなかった。
両親にはフランチェスカの件で縁を切られたが、それでも私は二人が好きだ。
嫌いになどなるはずがない。
(そもそもあれに関しては百パーセント私が悪いのだから……)
「――陛下、着きましたよ」
「……!あぁ、分かった」
外から侍従の声がして、私は馬車を下りた。
父上と母上の暮らす離宮に着いたようだ。
「……」
本来なら、私はここへ来ていい人間ではない。
しかし、侍従の話を聞いて居ても経ってもいられなくなったのだ。
(……二人が亡くなったなんてそんなの嘘だ。この目で確かめるまでは信じないぞ)
このときの私はまだ二人が生きていると信じていた。
父上から帰れと怒鳴られるだろう。
母上からは侮蔑を込めた冷たい視線で見られるだろう。
それでも良かった。
いや、むしろ今はそうであってほしかった。
しかし、現実はどこまでも残酷だった。
「そ、そんな……父上ッ!母上ッ!」
離宮で私が見たのは冷たくなった両親だった。
二人とも横になったままピクリとも動かない。
二人の遺体を見て私は一気に現実に引き戻された。
夢ならばどれほど良かっただろうか。
いつか来ることは分かっていたが、こんなにも早いとは思わなかった。
(何故だ?何故こんなに急に?前見たときは二人とも元気だったはずだ……!)
私は何故両親が急に亡くなったのか分からなかった。
事故に遭ったわけでもなく、病を患っているわけでもない。
(ん……?待てよ……)
母上の遺体を見た私は、あることに違和感を抱いた。
「母上は……こんなにも痩せていただろうか……?」
私は傍に控えていた離宮の侍女に尋ねた。
今私の目の前で横になっている母上は、私が最後に見た母上と比べるとだいぶ痩せているような気がした。
「…………」
しかし侍女は私の問いに答えることなく、悲しそうな顔をして俯いただけだった。
(何だ……?何故そんな顔をする……?)
「おい、何か言え。一体何が――」
「――私から説明致しましょう、陛下」
「!」
そのとき、私の前に現れたのは母上の専属侍女だった。
母上がまだ公爵令嬢だった頃から仕えていたベテランの侍女だ。
母上とは幼い頃からずっと一緒で、本当の姉妹のように育ったらしい。
母が最も信頼する侍女だった。
彼女は未だに俯いている侍女の前に立つと、私を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「――陛下はご存知ないでしょうが、母君は病気だったのです」
「……なッ、それは一体……」
(そんな話は初めて聞いたぞ・・・!)
私は侍女の話に驚いた。
母上が病気だったなんてそんな話は聞いたことがなかったからだ。
「知らなくて当然です。陛下の耳には入らないように徹底していたのですから」
「な、何故だ!?私は家族だぞ!どうして話してくれなかったんだ……!」
侍女はそんな私に対して冷静に答えた。
「…………陛下を思ってのことです」
「私を思ってだと……?」
すると侍女は目線を少しだけ下に向けた。
「…………シンシア様がよく体調を崩されるようになったのは出産が原因なのです」
「……!」
(出産が原因……ということは……)
「元々お身体が弱かったシンシア様は、陛下をお産みになられてからは今まで以上に体調を崩されることが多くなられました」
「……」
(知らなかった)
そんなのは全く知らなかった。
母上はそんなこと一言も言ってくれなかったからだ。
「……それなら、幼い頃私との時間があまり取れなかったのは……」
「はい、王妃の仕事が忙しかったこともありますがシンシア様の体調不良も大きく関係しておりました」
「そう、だったのか……」
(……母上は体調が悪いのに、無理をして私との時間を作っていたのか)
私は幼い頃に見た母上の姿を思い浮かべた。
いつも穏やかな笑みを浮かべていて、とてもじゃないが体調が悪いようには見えなかった。
「……先王陛下はシンシア様の病状が悪化したときに陛下が自分を責めるのではないかと心配されて箝口令を敷かれたのです」
「父上……」
自分の知らなかった父上の優しさに涙が出そうになった。
「そして陛下が二十歳を迎える前、ついに限界が訪れたのです。シンシア様は王妃の仕事をこなすことが出来なくなってしまわれました」
「……だから父上はあんなに早く私に王位を譲ったのか」
父上が私に王位を譲ったのは二十歳のときだった。
当時は私もフランチェスカもこんなに早いのかとかなり驚いたものだ。
「はい。しばらくの間は先王陛下が代わりに執務をしていましたが、先王陛下もお年を召されておりましたので……」
「……」
(……そういえば昔王宮にいる侍女が話しているのを聞いたことがあった。本当なら私には兄姉がいたのだと)
それと、父上と母上は結婚してから十年もの間子供が出来なかったのだと聞いたことがある。
貴族たちは側妃を娶ることを進言したが父上が頷かなかったという。
「……じゃあ、母上が亡くなったのは……」
「……元々お身体を壊しておりましたから」
「だが……前見たときは元気だったぞ……こんなに痩せてもいなかった……」
「……」
私がそう言うと侍女は黙り込んでしまった。
そして彼女は何の感情も映していない瞳でじっと私を見つめた。
(何だ……?)
最初はその視線の意味が分からなかった。
「……?」
「……」
「……………………ま、まさか」
「……」
私の顔が青くなっても、侍女は何も言わない。
(そんな……嘘だろう……)
私はその侍女の表情から全てを悟った。
――あぁ、そういうことか。
父上と母上は、私のせいで死んだのか――
私は目の前で震えている侍従に対してそう言った。
嘘であってほしかった。
フランチェスカが亡くなってまだ一月も経っていないというのに。
「冗談ではありません!!!」
「……ッ!!!」
侍従は私の言葉に声を荒げた。
「先王陛下と先代王妃陛下は……離宮で……お亡くなりになられました……」
侍従は何かをグッと堪えるようにそう言った。
「……そんな……嘘だろう……?」
胸の奥から巨大な何かが押し寄せてくるような感覚に襲われた。
(父上と……母上が……亡くなった……?)
認めたくはないが、侍従の様子からして嘘をついているとは到底思えなかった。
「すぐに離宮へ向かう……!」
私はそれだけ言って足早に部屋を出た。
◇◆◇◆◇◆
私は馬車に乗り、父上と母上の住む離宮へと向かった。
(何かの間違いだ……そんなことあるはずがない……)
私は未だに理解が追い付いていなかった。
両親にはフランチェスカの件で縁を切られたが、それでも私は二人が好きだ。
嫌いになどなるはずがない。
(そもそもあれに関しては百パーセント私が悪いのだから……)
「――陛下、着きましたよ」
「……!あぁ、分かった」
外から侍従の声がして、私は馬車を下りた。
父上と母上の暮らす離宮に着いたようだ。
「……」
本来なら、私はここへ来ていい人間ではない。
しかし、侍従の話を聞いて居ても経ってもいられなくなったのだ。
(……二人が亡くなったなんてそんなの嘘だ。この目で確かめるまでは信じないぞ)
このときの私はまだ二人が生きていると信じていた。
父上から帰れと怒鳴られるだろう。
母上からは侮蔑を込めた冷たい視線で見られるだろう。
それでも良かった。
いや、むしろ今はそうであってほしかった。
しかし、現実はどこまでも残酷だった。
「そ、そんな……父上ッ!母上ッ!」
離宮で私が見たのは冷たくなった両親だった。
二人とも横になったままピクリとも動かない。
二人の遺体を見て私は一気に現実に引き戻された。
夢ならばどれほど良かっただろうか。
いつか来ることは分かっていたが、こんなにも早いとは思わなかった。
(何故だ?何故こんなに急に?前見たときは二人とも元気だったはずだ……!)
私は何故両親が急に亡くなったのか分からなかった。
事故に遭ったわけでもなく、病を患っているわけでもない。
(ん……?待てよ……)
母上の遺体を見た私は、あることに違和感を抱いた。
「母上は……こんなにも痩せていただろうか……?」
私は傍に控えていた離宮の侍女に尋ねた。
今私の目の前で横になっている母上は、私が最後に見た母上と比べるとだいぶ痩せているような気がした。
「…………」
しかし侍女は私の問いに答えることなく、悲しそうな顔をして俯いただけだった。
(何だ……?何故そんな顔をする……?)
「おい、何か言え。一体何が――」
「――私から説明致しましょう、陛下」
「!」
そのとき、私の前に現れたのは母上の専属侍女だった。
母上がまだ公爵令嬢だった頃から仕えていたベテランの侍女だ。
母上とは幼い頃からずっと一緒で、本当の姉妹のように育ったらしい。
母が最も信頼する侍女だった。
彼女は未だに俯いている侍女の前に立つと、私を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「――陛下はご存知ないでしょうが、母君は病気だったのです」
「……なッ、それは一体……」
(そんな話は初めて聞いたぞ・・・!)
私は侍女の話に驚いた。
母上が病気だったなんてそんな話は聞いたことがなかったからだ。
「知らなくて当然です。陛下の耳には入らないように徹底していたのですから」
「な、何故だ!?私は家族だぞ!どうして話してくれなかったんだ……!」
侍女はそんな私に対して冷静に答えた。
「…………陛下を思ってのことです」
「私を思ってだと……?」
すると侍女は目線を少しだけ下に向けた。
「…………シンシア様がよく体調を崩されるようになったのは出産が原因なのです」
「……!」
(出産が原因……ということは……)
「元々お身体が弱かったシンシア様は、陛下をお産みになられてからは今まで以上に体調を崩されることが多くなられました」
「……」
(知らなかった)
そんなのは全く知らなかった。
母上はそんなこと一言も言ってくれなかったからだ。
「……それなら、幼い頃私との時間があまり取れなかったのは……」
「はい、王妃の仕事が忙しかったこともありますがシンシア様の体調不良も大きく関係しておりました」
「そう、だったのか……」
(……母上は体調が悪いのに、無理をして私との時間を作っていたのか)
私は幼い頃に見た母上の姿を思い浮かべた。
いつも穏やかな笑みを浮かべていて、とてもじゃないが体調が悪いようには見えなかった。
「……先王陛下はシンシア様の病状が悪化したときに陛下が自分を責めるのではないかと心配されて箝口令を敷かれたのです」
「父上……」
自分の知らなかった父上の優しさに涙が出そうになった。
「そして陛下が二十歳を迎える前、ついに限界が訪れたのです。シンシア様は王妃の仕事をこなすことが出来なくなってしまわれました」
「……だから父上はあんなに早く私に王位を譲ったのか」
父上が私に王位を譲ったのは二十歳のときだった。
当時は私もフランチェスカもこんなに早いのかとかなり驚いたものだ。
「はい。しばらくの間は先王陛下が代わりに執務をしていましたが、先王陛下もお年を召されておりましたので……」
「……」
(……そういえば昔王宮にいる侍女が話しているのを聞いたことがあった。本当なら私には兄姉がいたのだと)
それと、父上と母上は結婚してから十年もの間子供が出来なかったのだと聞いたことがある。
貴族たちは側妃を娶ることを進言したが父上が頷かなかったという。
「……じゃあ、母上が亡くなったのは……」
「……元々お身体を壊しておりましたから」
「だが……前見たときは元気だったぞ……こんなに痩せてもいなかった……」
「……」
私がそう言うと侍女は黙り込んでしまった。
そして彼女は何の感情も映していない瞳でじっと私を見つめた。
(何だ……?)
最初はその視線の意味が分からなかった。
「……?」
「……」
「……………………ま、まさか」
「……」
私の顔が青くなっても、侍女は何も言わない。
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