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11 両親
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しばらくして、父上と母上が王宮に到着したとの知らせが入った。
着替えを終えた私は二人のいる客間へと向かう。
客間までの足取りが重い。
大好きな両親に会えるというのに私の気持ちが晴れることは無かった。
フランチェスカが亡くなってからの私はずっとこんな様子だ。
執務をしていても、食事をしていても、フレイアと一緒にいても、何をしても満たされない。
今の私の心の中を占めているのは罪の意識と自身に対する嫌悪感だ。
愛妾に現を抜かし、フランチェスカを蔑ろにしていたのだ。
それも五年間もの間。
(……辛かっただろうな)
そう思いながら私は王宮の廊下を歩く。
豪華絢爛な王宮がフランチェスカがいないというだけで酷く寂しく感じられた。
至るところに埋め込まれている宝石も、今私が着ている服も、王という地位さえも、何の価値も無いもののように思えてくる。
私は彼女が亡くなってから初めて王宮が息苦しいと感じた。
私のやったことは最低だ。
何故彼女が生きている間にそれに気付けなかったのだろうか。
私はいつもフランチェスカに助けられてばかりだった。
彼女がいなければ私はきっと寂しい幼少期を過ごしていただろう。
私は彼女にしてもらってばかりで何も返せていない。
そんなことを考えているうちに、客間に着いた。
(……)
中にいるのは両親なのだからすぐに入ればいいのに、私は客間の扉の前で立ち止まった。
足が動かなくなったのだ。
この奥に父上と母上がいる。
そう考えると身体が動かなくなった。
何故か両親に会うことを躊躇している自分がいた。
こんなことは初めてだ。
(今の私に、父上と母上に会う資格なんてない……)
そう思うと、どうしても部屋に入ることが出来なかった。
両親に合わせる顔が無い。
しかし、このまま会わないというわけにもいかない。
二人は私を心配してわざわざ離宮から来てくれたのだから。
(……行こう)
私は覚悟を決めて震える手でドアノブを回した。
――ガチャリ
客間の扉がゆっくりと開く。
部屋の中には、父上と母上がいた。
六年前と全く変わらない姿だ。
「レオン!大丈夫か!」
「レオ!」
父上と母上は私を見るなり客間のソファから立ち上がり、心配そうに駆け寄ってきた。
そんな二人を見て涙が出そうになった。
「辛かっただろう。フランチェスカがいなくなって……」
「レオ……執務が忙しいかもしれないけど無理しちゃだめよ?」
父上は私の傍まで来て優しい言葉をかけてくれた。
母上も私を優しく抱きしめながらそう言った。
二人はどこまでも優しかった。
「父上……母上……ありがとうございます……」
私は二人に感謝を伝えた。
母上に抱きしめられたのは久しぶりで、まるで子供の頃に戻ったような気分になる。
このまま本当に幼い頃に戻れたらいいのにと思う。
父上と母上がいて、フランチェスカがいつも私の隣にいた頃。
今思えば、あの頃が私の人生で最も幸せだったかもしれない。
しかし、そんな都合の良いようにはならない。
私はこれから自分が犯した罪と向き合っていかなければいけない。
私は二人に自分が犯した過ちを伝えるために口を開いた。
「父上、母上。フランチェスカの件に関してなのですが……」
「あぁ、聞いたよ。自ら毒を飲んだそうだな」
父上は私の言葉を遮ってそう言うと、悲しそうな顔をした。
「フランチェスカ……」
母上もフランチェスカのことを思い出したのか俯いた。
フランチェスカは父上や母上とも関わりがあった。
父上や母上は娘が出来たのが嬉しかったらしくフランチェスカのことを非常に可愛がっていたし、フランチェスカも二人を慕っていた。
彼女がまだ幼い頃、将来は王妃様のような女性になりたいと言っていたのをよく覚えている。
娘を失った二人の悲しみは底知れぬものだろう。
「……それにしてもフランチェスカは何故自ら命を絶ったりしたんだ?」
そのとき、父上が不思議そうに言った。
「……そうね、フランチェスカは理由も無くそんなことをするような子ではないわ。あの子はレオを心から愛していた。そんな子がレオを置いて逝くだなんて・・・何か悩みでもあったのかしら?」
母上もそれに同調する。
(……言うんだ、父上と母上には本当のことを言わなければ)
私は二人に全てを話そうと決意を固めた。
「父上、母上。聞いてほしい話があります……」
私は二人を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「何だ?」
「どうかしたの?レオ。何でも言ってちょうだい」
私の言葉を聞いた父上と母上が優しい顔で言った。
(あぁ、この二人は私がこんなにも愚かなことをしたと知ったら何て言うのだろうか?)
私は意を決して二人に話した。
「な、なんだと……ッ!?」
「うそ……そんな……」
私の話を聞いた二人は衝撃を受けていた。
両親は長い間社交界に出ていなかったため、私が愛妾を迎えたということを知らなかったらしい。
私の話を聞いた二人は呆然としていた。
とてもじゃないが今の話が信じられないようだ。
「……何故……そんな……」
「レオ……どうしてそんな愚かな子に……」
上の空で何かをブツブツと呟いている。
(二人とも……動揺してるな……)
私の予想通りの反応だ。
それからしばらくすると、父上がハァとため息をついて言った。
「……お前のことを少しでも心配していた私が馬鹿だった」
「……そうね」
父上と母上は私に失望したようだった。
これでいいんだ。
私にはお似合いの末路だ。
「レオン。私たちは二度とここへは来ない。親子の縁も切る。フランチェスカの遺言通り、これからはその平民の愛人と一緒になればいい」
父上は私に冷たくそう言い放った。
「それがいいわ。今の貴方にはフランチェスカよりもそのフレイアとかいう平民女の方がお似合いよ」
母上も私の方を全く見ずに冷たい声で言った。
「……はい、分かりました」
私が返事をすると父上と母上が私の前から立ち去って行く。
「私のせいだな……私が一度でもフランチェスカに会いに行っていれば……こんなことにはならなかったかもしれん……」
「もう少しあの子との時間を作るべきだったわ……」
後ろで父と母が嘆く声が聞こえた。
(私は……フランチェスカだけではなく両親も不幸にしてしまったのか……)
着替えを終えた私は二人のいる客間へと向かう。
客間までの足取りが重い。
大好きな両親に会えるというのに私の気持ちが晴れることは無かった。
フランチェスカが亡くなってからの私はずっとこんな様子だ。
執務をしていても、食事をしていても、フレイアと一緒にいても、何をしても満たされない。
今の私の心の中を占めているのは罪の意識と自身に対する嫌悪感だ。
愛妾に現を抜かし、フランチェスカを蔑ろにしていたのだ。
それも五年間もの間。
(……辛かっただろうな)
そう思いながら私は王宮の廊下を歩く。
豪華絢爛な王宮がフランチェスカがいないというだけで酷く寂しく感じられた。
至るところに埋め込まれている宝石も、今私が着ている服も、王という地位さえも、何の価値も無いもののように思えてくる。
私は彼女が亡くなってから初めて王宮が息苦しいと感じた。
私のやったことは最低だ。
何故彼女が生きている間にそれに気付けなかったのだろうか。
私はいつもフランチェスカに助けられてばかりだった。
彼女がいなければ私はきっと寂しい幼少期を過ごしていただろう。
私は彼女にしてもらってばかりで何も返せていない。
そんなことを考えているうちに、客間に着いた。
(……)
中にいるのは両親なのだからすぐに入ればいいのに、私は客間の扉の前で立ち止まった。
足が動かなくなったのだ。
この奥に父上と母上がいる。
そう考えると身体が動かなくなった。
何故か両親に会うことを躊躇している自分がいた。
こんなことは初めてだ。
(今の私に、父上と母上に会う資格なんてない……)
そう思うと、どうしても部屋に入ることが出来なかった。
両親に合わせる顔が無い。
しかし、このまま会わないというわけにもいかない。
二人は私を心配してわざわざ離宮から来てくれたのだから。
(……行こう)
私は覚悟を決めて震える手でドアノブを回した。
――ガチャリ
客間の扉がゆっくりと開く。
部屋の中には、父上と母上がいた。
六年前と全く変わらない姿だ。
「レオン!大丈夫か!」
「レオ!」
父上と母上は私を見るなり客間のソファから立ち上がり、心配そうに駆け寄ってきた。
そんな二人を見て涙が出そうになった。
「辛かっただろう。フランチェスカがいなくなって……」
「レオ……執務が忙しいかもしれないけど無理しちゃだめよ?」
父上は私の傍まで来て優しい言葉をかけてくれた。
母上も私を優しく抱きしめながらそう言った。
二人はどこまでも優しかった。
「父上……母上……ありがとうございます……」
私は二人に感謝を伝えた。
母上に抱きしめられたのは久しぶりで、まるで子供の頃に戻ったような気分になる。
このまま本当に幼い頃に戻れたらいいのにと思う。
父上と母上がいて、フランチェスカがいつも私の隣にいた頃。
今思えば、あの頃が私の人生で最も幸せだったかもしれない。
しかし、そんな都合の良いようにはならない。
私はこれから自分が犯した罪と向き合っていかなければいけない。
私は二人に自分が犯した過ちを伝えるために口を開いた。
「父上、母上。フランチェスカの件に関してなのですが……」
「あぁ、聞いたよ。自ら毒を飲んだそうだな」
父上は私の言葉を遮ってそう言うと、悲しそうな顔をした。
「フランチェスカ……」
母上もフランチェスカのことを思い出したのか俯いた。
フランチェスカは父上や母上とも関わりがあった。
父上や母上は娘が出来たのが嬉しかったらしくフランチェスカのことを非常に可愛がっていたし、フランチェスカも二人を慕っていた。
彼女がまだ幼い頃、将来は王妃様のような女性になりたいと言っていたのをよく覚えている。
娘を失った二人の悲しみは底知れぬものだろう。
「……それにしてもフランチェスカは何故自ら命を絶ったりしたんだ?」
そのとき、父上が不思議そうに言った。
「……そうね、フランチェスカは理由も無くそんなことをするような子ではないわ。あの子はレオを心から愛していた。そんな子がレオを置いて逝くだなんて・・・何か悩みでもあったのかしら?」
母上もそれに同調する。
(……言うんだ、父上と母上には本当のことを言わなければ)
私は二人に全てを話そうと決意を固めた。
「父上、母上。聞いてほしい話があります……」
私は二人を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「何だ?」
「どうかしたの?レオ。何でも言ってちょうだい」
私の言葉を聞いた父上と母上が優しい顔で言った。
(あぁ、この二人は私がこんなにも愚かなことをしたと知ったら何て言うのだろうか?)
私は意を決して二人に話した。
「な、なんだと……ッ!?」
「うそ……そんな……」
私の話を聞いた二人は衝撃を受けていた。
両親は長い間社交界に出ていなかったため、私が愛妾を迎えたということを知らなかったらしい。
私の話を聞いた二人は呆然としていた。
とてもじゃないが今の話が信じられないようだ。
「……何故……そんな……」
「レオ……どうしてそんな愚かな子に……」
上の空で何かをブツブツと呟いている。
(二人とも……動揺してるな……)
私の予想通りの反応だ。
それからしばらくすると、父上がハァとため息をついて言った。
「……お前のことを少しでも心配していた私が馬鹿だった」
「……そうね」
父上と母上は私に失望したようだった。
これでいいんだ。
私にはお似合いの末路だ。
「レオン。私たちは二度とここへは来ない。親子の縁も切る。フランチェスカの遺言通り、これからはその平民の愛人と一緒になればいい」
父上は私に冷たくそう言い放った。
「それがいいわ。今の貴方にはフランチェスカよりもそのフレイアとかいう平民女の方がお似合いよ」
母上も私の方を全く見ずに冷たい声で言った。
「……はい、分かりました」
私が返事をすると父上と母上が私の前から立ち去って行く。
「私のせいだな……私が一度でもフランチェスカに会いに行っていれば……こんなことにはならなかったかもしれん……」
「もう少しあの子との時間を作るべきだったわ……」
後ろで父と母が嘆く声が聞こえた。
(私は……フランチェスカだけではなく両親も不幸にしてしまったのか……)
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