8 / 87
8 愛した女の本性
しおりを挟む
執務を終えた私はフレイアの部屋へと向かった。
本当は行きたくなかったが、行かないとフレイアがうるさそうだったからだ。
フランチェスカが亡くなるまで私は毎日フレイアと会っていた。
フレイアは私にとって癒しであり、最愛の人だった。
いつも彼女に会うことを楽しみにしていたはずだ。
しかし何故かあの日から彼女に会うのがはばかられた。
自分でもよく分からなかった。
フランチェスカが亡くなって疲れているからだろうか。
しばらくして、フレイアの部屋に着く。
私はコンコンとノックしてドアを開けた。
――ガチャリ
ドアを開けると、フレイアが部屋にいた。
彼女はクローゼットを開いて何かをしていたが、私に気付いたのかこちらを振り返った。
「レオン様っ!来てくれたんですね!」
フレイアは私を見て満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる。
普段の私ならそんな彼女を優しく抱きしめていたはずだが、今日はそんな気力もなかった。
(……そんなことより、あのドレスと宝石の量は一体何だ?)
私はフレイアの部屋にあったドレスと宝石の数に驚いた。
たまたまクローゼットとドレッサーが開きっぱなしになっており、中が見えるようになっていた。
王妃だった私の母ですらあんなには買っていなかった。
それに今フレイアが着ているドレスも先ほど会ったときとは違うものだ。
「レオン様ぁ。どうかしたんですか?」
フレイアは固まった私の顔を覗き込んで言った。
「あっ……いや……なんでもない……」
それにフレイアのこの喋り方はよくよく考えてみたらかなり気持ちが悪い。
王宮に住む人間としてはありえない。
フランチェスカならこんな声絶対に出さないだろうに。
「レオン様っ、最近来てくれなくてずっと寂しかったんですよ?」
フレイアはそう言って頬を膨らませた。
普段なら可愛いと思うはずの仕草が今は何故だか魅力を感じなかった。
先ほどの一件で私はフレイアのことをただただ礼儀のなっていない女としか思えなくなったようだ。
「……あぁ、すまなかったな」
そのせいか、私はつい愛想悪く返事をしてしまった。
「……レオン様?疲れているんですか?」
私の様子にフレイアは怪訝そうな顔をした。
私が彼女に対して冷たく当たったことは今までに一度も無かったから困惑しているのだろう。
しかしフレイアのあんな話を聞いた後では、彼女に対していつものように優しく接することが出来なかった。
「どうやらそうみたいだ」
私はフレイアから視線を逸らして言った。
ここで優しくすると彼女はまた調子に乗って好き放題するかもしれない。
国王の愛妾とは言えフレイアはただの平民。
それを分からせるべきだと思い、私はあえて冷たく言い放った。
それを聞いたフレイアは心配そうな顔をする。
「心配ですっ。レオン様は頑張りすぎるところがありますから」
フレイアは私の手に触れながらそう言った。
本音を言えば、今すぐにでもこの手を振り払いたい。
「あ、あぁ……そうだな……」
(……駄目だ、フレイアと一緒にいても疲れるだけだ。今すぐこの場を辞そう)
彼女と少し話をしただけでどっと疲れが溜まった。
これ以上はここにいたくない。
そう思った私はフレイアに退出することを伝えようとした。
「フレイア……来て早々悪いが私は……」
「――ねぇレオン様。レオン様が疲れてるのってもしかしてフランチェスカ様が原因なんじゃないですか?」
「!!!」
フレイアが私の言葉を遮って、いつもより低めの声で尋ねた。
「な、何故……」
考えていることを当てられたようで、何だかゾッとした。
(当たってはいるが……)
「……」
私が尋ねると、彼女はじっと黙り込んだ後に口を開いた。
「レオン様っ」
そして、いつもの愛くるしい顔に戻る。
「フランチェスカ様のことは残念だったと思うけどぉ~気にしないでいいと思いますよ!フランチェスカ様は自分の意思で死んだんですから!レオン様は何も悪くないですよっ!」
「ッ!?!?!?」
(な、なんだと……?)
フレイアのその言葉に私は背筋が凍った。
(何故この女は妻を亡くしてすぐの私にこんなことが言えるんだ……?)
私はこのとき、目の前にいるフレイアがとんでもなく恐ろしいものに見えた。
本当は行きたくなかったが、行かないとフレイアがうるさそうだったからだ。
フランチェスカが亡くなるまで私は毎日フレイアと会っていた。
フレイアは私にとって癒しであり、最愛の人だった。
いつも彼女に会うことを楽しみにしていたはずだ。
しかし何故かあの日から彼女に会うのがはばかられた。
自分でもよく分からなかった。
フランチェスカが亡くなって疲れているからだろうか。
しばらくして、フレイアの部屋に着く。
私はコンコンとノックしてドアを開けた。
――ガチャリ
ドアを開けると、フレイアが部屋にいた。
彼女はクローゼットを開いて何かをしていたが、私に気付いたのかこちらを振り返った。
「レオン様っ!来てくれたんですね!」
フレイアは私を見て満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる。
普段の私ならそんな彼女を優しく抱きしめていたはずだが、今日はそんな気力もなかった。
(……そんなことより、あのドレスと宝石の量は一体何だ?)
私はフレイアの部屋にあったドレスと宝石の数に驚いた。
たまたまクローゼットとドレッサーが開きっぱなしになっており、中が見えるようになっていた。
王妃だった私の母ですらあんなには買っていなかった。
それに今フレイアが着ているドレスも先ほど会ったときとは違うものだ。
「レオン様ぁ。どうかしたんですか?」
フレイアは固まった私の顔を覗き込んで言った。
「あっ……いや……なんでもない……」
それにフレイアのこの喋り方はよくよく考えてみたらかなり気持ちが悪い。
王宮に住む人間としてはありえない。
フランチェスカならこんな声絶対に出さないだろうに。
「レオン様っ、最近来てくれなくてずっと寂しかったんですよ?」
フレイアはそう言って頬を膨らませた。
普段なら可愛いと思うはずの仕草が今は何故だか魅力を感じなかった。
先ほどの一件で私はフレイアのことをただただ礼儀のなっていない女としか思えなくなったようだ。
「……あぁ、すまなかったな」
そのせいか、私はつい愛想悪く返事をしてしまった。
「……レオン様?疲れているんですか?」
私の様子にフレイアは怪訝そうな顔をした。
私が彼女に対して冷たく当たったことは今までに一度も無かったから困惑しているのだろう。
しかしフレイアのあんな話を聞いた後では、彼女に対していつものように優しく接することが出来なかった。
「どうやらそうみたいだ」
私はフレイアから視線を逸らして言った。
ここで優しくすると彼女はまた調子に乗って好き放題するかもしれない。
国王の愛妾とは言えフレイアはただの平民。
それを分からせるべきだと思い、私はあえて冷たく言い放った。
それを聞いたフレイアは心配そうな顔をする。
「心配ですっ。レオン様は頑張りすぎるところがありますから」
フレイアは私の手に触れながらそう言った。
本音を言えば、今すぐにでもこの手を振り払いたい。
「あ、あぁ……そうだな……」
(……駄目だ、フレイアと一緒にいても疲れるだけだ。今すぐこの場を辞そう)
彼女と少し話をしただけでどっと疲れが溜まった。
これ以上はここにいたくない。
そう思った私はフレイアに退出することを伝えようとした。
「フレイア……来て早々悪いが私は……」
「――ねぇレオン様。レオン様が疲れてるのってもしかしてフランチェスカ様が原因なんじゃないですか?」
「!!!」
フレイアが私の言葉を遮って、いつもより低めの声で尋ねた。
「な、何故……」
考えていることを当てられたようで、何だかゾッとした。
(当たってはいるが……)
「……」
私が尋ねると、彼女はじっと黙り込んだ後に口を開いた。
「レオン様っ」
そして、いつもの愛くるしい顔に戻る。
「フランチェスカ様のことは残念だったと思うけどぉ~気にしないでいいと思いますよ!フランチェスカ様は自分の意思で死んだんですから!レオン様は何も悪くないですよっ!」
「ッ!?!?!?」
(な、なんだと……?)
フレイアのその言葉に私は背筋が凍った。
(何故この女は妻を亡くしてすぐの私にこんなことが言えるんだ……?)
私はこのとき、目の前にいるフレイアがとんでもなく恐ろしいものに見えた。
301
お気に入りに追加
7,362
あなたにおすすめの小説
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる