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8 愛した女の本性
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執務を終えた私はフレイアの部屋へと向かった。
本当は行きたくなかったが、行かないとフレイアがうるさそうだったからだ。
フランチェスカが亡くなるまで私は毎日フレイアと会っていた。
フレイアは私にとって癒しであり、最愛の人だった。
いつも彼女に会うことを楽しみにしていたはずだ。
しかし何故かあの日から彼女に会うのがはばかられた。
自分でもよく分からなかった。
フランチェスカが亡くなって疲れているからだろうか。
しばらくして、フレイアの部屋に着く。
私はコンコンとノックしてドアを開けた。
――ガチャリ
ドアを開けると、フレイアが部屋にいた。
彼女はクローゼットを開いて何かをしていたが、私に気付いたのかこちらを振り返った。
「レオン様っ!来てくれたんですね!」
フレイアは私を見て満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる。
普段の私ならそんな彼女を優しく抱きしめていたはずだが、今日はそんな気力もなかった。
(……そんなことより、あのドレスと宝石の量は一体何だ?)
私はフレイアの部屋にあったドレスと宝石の数に驚いた。
たまたまクローゼットとドレッサーが開きっぱなしになっており、中が見えるようになっていた。
王妃だった私の母ですらあんなには買っていなかった。
それに今フレイアが着ているドレスも先ほど会ったときとは違うものだ。
「レオン様ぁ。どうかしたんですか?」
フレイアは固まった私の顔を覗き込んで言った。
「あっ……いや……なんでもない……」
それにフレイアのこの喋り方はよくよく考えてみたらかなり気持ちが悪い。
王宮に住む人間としてはありえない。
フランチェスカならこんな声絶対に出さないだろうに。
「レオン様っ、最近来てくれなくてずっと寂しかったんですよ?」
フレイアはそう言って頬を膨らませた。
普段なら可愛いと思うはずの仕草が今は何故だか魅力を感じなかった。
先ほどの一件で私はフレイアのことをただただ礼儀のなっていない女としか思えなくなったようだ。
「……あぁ、すまなかったな」
そのせいか、私はつい愛想悪く返事をしてしまった。
「……レオン様?疲れているんですか?」
私の様子にフレイアは怪訝そうな顔をした。
私が彼女に対して冷たく当たったことは今までに一度も無かったから困惑しているのだろう。
しかしフレイアのあんな話を聞いた後では、彼女に対していつものように優しく接することが出来なかった。
「どうやらそうみたいだ」
私はフレイアから視線を逸らして言った。
ここで優しくすると彼女はまた調子に乗って好き放題するかもしれない。
国王の愛妾とは言えフレイアはただの平民。
それを分からせるべきだと思い、私はあえて冷たく言い放った。
それを聞いたフレイアは心配そうな顔をする。
「心配ですっ。レオン様は頑張りすぎるところがありますから」
フレイアは私の手に触れながらそう言った。
本音を言えば、今すぐにでもこの手を振り払いたい。
「あ、あぁ……そうだな……」
(……駄目だ、フレイアと一緒にいても疲れるだけだ。今すぐこの場を辞そう)
彼女と少し話をしただけでどっと疲れが溜まった。
これ以上はここにいたくない。
そう思った私はフレイアに退出することを伝えようとした。
「フレイア……来て早々悪いが私は……」
「――ねぇレオン様。レオン様が疲れてるのってもしかしてフランチェスカ様が原因なんじゃないですか?」
「!!!」
フレイアが私の言葉を遮って、いつもより低めの声で尋ねた。
「な、何故……」
考えていることを当てられたようで、何だかゾッとした。
(当たってはいるが……)
「……」
私が尋ねると、彼女はじっと黙り込んだ後に口を開いた。
「レオン様っ」
そして、いつもの愛くるしい顔に戻る。
「フランチェスカ様のことは残念だったと思うけどぉ~気にしないでいいと思いますよ!フランチェスカ様は自分の意思で死んだんですから!レオン様は何も悪くないですよっ!」
「ッ!?!?!?」
(な、なんだと……?)
フレイアのその言葉に私は背筋が凍った。
(何故この女は妻を亡くしてすぐの私にこんなことが言えるんだ……?)
私はこのとき、目の前にいるフレイアがとんでもなく恐ろしいものに見えた。
本当は行きたくなかったが、行かないとフレイアがうるさそうだったからだ。
フランチェスカが亡くなるまで私は毎日フレイアと会っていた。
フレイアは私にとって癒しであり、最愛の人だった。
いつも彼女に会うことを楽しみにしていたはずだ。
しかし何故かあの日から彼女に会うのがはばかられた。
自分でもよく分からなかった。
フランチェスカが亡くなって疲れているからだろうか。
しばらくして、フレイアの部屋に着く。
私はコンコンとノックしてドアを開けた。
――ガチャリ
ドアを開けると、フレイアが部屋にいた。
彼女はクローゼットを開いて何かをしていたが、私に気付いたのかこちらを振り返った。
「レオン様っ!来てくれたんですね!」
フレイアは私を見て満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる。
普段の私ならそんな彼女を優しく抱きしめていたはずだが、今日はそんな気力もなかった。
(……そんなことより、あのドレスと宝石の量は一体何だ?)
私はフレイアの部屋にあったドレスと宝石の数に驚いた。
たまたまクローゼットとドレッサーが開きっぱなしになっており、中が見えるようになっていた。
王妃だった私の母ですらあんなには買っていなかった。
それに今フレイアが着ているドレスも先ほど会ったときとは違うものだ。
「レオン様ぁ。どうかしたんですか?」
フレイアは固まった私の顔を覗き込んで言った。
「あっ……いや……なんでもない……」
それにフレイアのこの喋り方はよくよく考えてみたらかなり気持ちが悪い。
王宮に住む人間としてはありえない。
フランチェスカならこんな声絶対に出さないだろうに。
「レオン様っ、最近来てくれなくてずっと寂しかったんですよ?」
フレイアはそう言って頬を膨らませた。
普段なら可愛いと思うはずの仕草が今は何故だか魅力を感じなかった。
先ほどの一件で私はフレイアのことをただただ礼儀のなっていない女としか思えなくなったようだ。
「……あぁ、すまなかったな」
そのせいか、私はつい愛想悪く返事をしてしまった。
「……レオン様?疲れているんですか?」
私の様子にフレイアは怪訝そうな顔をした。
私が彼女に対して冷たく当たったことは今までに一度も無かったから困惑しているのだろう。
しかしフレイアのあんな話を聞いた後では、彼女に対していつものように優しく接することが出来なかった。
「どうやらそうみたいだ」
私はフレイアから視線を逸らして言った。
ここで優しくすると彼女はまた調子に乗って好き放題するかもしれない。
国王の愛妾とは言えフレイアはただの平民。
それを分からせるべきだと思い、私はあえて冷たく言い放った。
それを聞いたフレイアは心配そうな顔をする。
「心配ですっ。レオン様は頑張りすぎるところがありますから」
フレイアは私の手に触れながらそう言った。
本音を言えば、今すぐにでもこの手を振り払いたい。
「あ、あぁ……そうだな……」
(……駄目だ、フレイアと一緒にいても疲れるだけだ。今すぐこの場を辞そう)
彼女と少し話をしただけでどっと疲れが溜まった。
これ以上はここにいたくない。
そう思った私はフレイアに退出することを伝えようとした。
「フレイア……来て早々悪いが私は……」
「――ねぇレオン様。レオン様が疲れてるのってもしかしてフランチェスカ様が原因なんじゃないですか?」
「!!!」
フレイアが私の言葉を遮って、いつもより低めの声で尋ねた。
「な、何故……」
考えていることを当てられたようで、何だかゾッとした。
(当たってはいるが……)
「……」
私が尋ねると、彼女はじっと黙り込んだ後に口を開いた。
「レオン様っ」
そして、いつもの愛くるしい顔に戻る。
「フランチェスカ様のことは残念だったと思うけどぉ~気にしないでいいと思いますよ!フランチェスカ様は自分の意思で死んだんですから!レオン様は何も悪くないですよっ!」
「ッ!?!?!?」
(な、なんだと……?)
フレイアのその言葉に私は背筋が凍った。
(何故この女は妻を亡くしてすぐの私にこんなことが言えるんだ……?)
私はこのとき、目の前にいるフレイアがとんでもなく恐ろしいものに見えた。
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