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108 兄からの頼み
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「目が覚めたみたいで良かったよ」
「はい、一安心ですね」
ルークが目を覚ましてから数日。
あの日からずっと王宮に泊まっている私は陛下の執務室へと来ていた。
「全て君のおかげだ。私からも礼を言わせてくれ。ありがとう、ログワーツ嬢」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ルークは陛下にとってたった一人の弟であり、大切な存在だ。
平気な顔をしてはいるが、彼もまた内心落ち着かなかっただろう。
向かいに座った陛下が紅茶を一口飲んで口を開いた。
「ログワーツ嬢……ルドウィクから過去については聞いているか?」
「はい……お母様が亡くなって本宮へ引き取られたと……」
「ああ、そうだな」
そこで陛下は悲しげに目を伏せた。
「私とルドウィクの父親はな……本当にろくでもない人だったんだ……」
「陛下……」
陛下とルークの父親。
先王陛下のことである。
「ルドウィクはもちろん、私もあの人に褒められたことなんて無かったし……今思えば実の子供たちに無関心な人だったんだと思う」
「そうだったんですね……」
以前陛下が先王陛下のことを親になってはいけない人だったと言っていたのはそういうことだったのか。
陛下もまた、ルークと同じように父親の存在に苦しめられたのだろう。
そして陛下は、自身の過去についてをポツリポツリと語り始めた。
「私は、王家の象徴を半分しか受け継ぐことが出来なかった」
「陛下……」
「だからこそ、可愛がれなかったのだろう。私はあの人が求める理想の子供として生まれなかったから」
「そんな……」
この国の王家の象徴といえば黒い髪に青い瞳だ。
ルークはそれをしっかりと受け継いでいるものの、金髪碧眼の国王陛下は違った。
「だから私は似たような境遇に置かれているルドウィクを嫌いになれなかったし、放っておけなかった。まぁ、ルドウィクに比べたら私なんてずっとマシだったし、何よりアイツは私を恨んでいるだろうけどな」
「そんなことありませんわ!!!」
ドンッと机に手を置いて立ち上がった私に、陛下が目を丸く見開いた。
「ルークは陛下を恨んでなんていません!」
「しかし、私は……」
「前に、伯爵邸で彼が陛下について話したことがあったんです」
「何……?」
「ルークのお兄さんが陛下だって知る前のことでしたけど……陛下のことを話していたときの彼、自然と表情が柔らかくなっていましたから」
「ほ、本当なのか……?」
「嘘などつきませんわ」
私と二人きりのときに自身の兄についてを話すルークは、昔を懐かしんでいるような、そんな顔をしていた。
仲が良いのねと口にすると毎回顔を赤くして首を横に振った。
それが照れ隠しであるということは、誰から見ても明白だった。
「そうか……ルドウィクが……」
「ルークにとっても陛下は大切な存在のはずです。ですからそのようなことをおっしゃらないでください」
「ああ、そうだな……」
私の言葉に、陛下は少し自信を取り戻したようだった。
「ログワーツ嬢、この後もルドウィクのところへ行くのか?」
「はい、一緒に散歩をする約束をしているんです」
「そうか……」
陛下は少しだけ黙り込んだ後、私を真っ直ぐに見つめた。
「こんなこと、私から言うのも変かもしれないが……」
「……?」
そして彼はハッキリした口調でこう言った。
「――弟を、頼んだぞ」
「……!」
陛下の視線を受けた私は、力強く頷いた。
「もちろんです、陛下」
その言葉に、陛下は安心したように微笑んだ。
「はい、一安心ですね」
ルークが目を覚ましてから数日。
あの日からずっと王宮に泊まっている私は陛下の執務室へと来ていた。
「全て君のおかげだ。私からも礼を言わせてくれ。ありがとう、ログワーツ嬢」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ルークは陛下にとってたった一人の弟であり、大切な存在だ。
平気な顔をしてはいるが、彼もまた内心落ち着かなかっただろう。
向かいに座った陛下が紅茶を一口飲んで口を開いた。
「ログワーツ嬢……ルドウィクから過去については聞いているか?」
「はい……お母様が亡くなって本宮へ引き取られたと……」
「ああ、そうだな」
そこで陛下は悲しげに目を伏せた。
「私とルドウィクの父親はな……本当にろくでもない人だったんだ……」
「陛下……」
陛下とルークの父親。
先王陛下のことである。
「ルドウィクはもちろん、私もあの人に褒められたことなんて無かったし……今思えば実の子供たちに無関心な人だったんだと思う」
「そうだったんですね……」
以前陛下が先王陛下のことを親になってはいけない人だったと言っていたのはそういうことだったのか。
陛下もまた、ルークと同じように父親の存在に苦しめられたのだろう。
そして陛下は、自身の過去についてをポツリポツリと語り始めた。
「私は、王家の象徴を半分しか受け継ぐことが出来なかった」
「陛下……」
「だからこそ、可愛がれなかったのだろう。私はあの人が求める理想の子供として生まれなかったから」
「そんな……」
この国の王家の象徴といえば黒い髪に青い瞳だ。
ルークはそれをしっかりと受け継いでいるものの、金髪碧眼の国王陛下は違った。
「だから私は似たような境遇に置かれているルドウィクを嫌いになれなかったし、放っておけなかった。まぁ、ルドウィクに比べたら私なんてずっとマシだったし、何よりアイツは私を恨んでいるだろうけどな」
「そんなことありませんわ!!!」
ドンッと机に手を置いて立ち上がった私に、陛下が目を丸く見開いた。
「ルークは陛下を恨んでなんていません!」
「しかし、私は……」
「前に、伯爵邸で彼が陛下について話したことがあったんです」
「何……?」
「ルークのお兄さんが陛下だって知る前のことでしたけど……陛下のことを話していたときの彼、自然と表情が柔らかくなっていましたから」
「ほ、本当なのか……?」
「嘘などつきませんわ」
私と二人きりのときに自身の兄についてを話すルークは、昔を懐かしんでいるような、そんな顔をしていた。
仲が良いのねと口にすると毎回顔を赤くして首を横に振った。
それが照れ隠しであるということは、誰から見ても明白だった。
「そうか……ルドウィクが……」
「ルークにとっても陛下は大切な存在のはずです。ですからそのようなことをおっしゃらないでください」
「ああ、そうだな……」
私の言葉に、陛下は少し自信を取り戻したようだった。
「ログワーツ嬢、この後もルドウィクのところへ行くのか?」
「はい、一緒に散歩をする約束をしているんです」
「そうか……」
陛下は少しだけ黙り込んだ後、私を真っ直ぐに見つめた。
「こんなこと、私から言うのも変かもしれないが……」
「……?」
そして彼はハッキリした口調でこう言った。
「――弟を、頼んだぞ」
「……!」
陛下の視線を受けた私は、力強く頷いた。
「もちろんです、陛下」
その言葉に、陛下は安心したように微笑んだ。
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