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107 もう一度

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途中で視点変わります。



***



『ルーク……』


誰かの呼ぶ声が聞こえる。


(……何だ?)


心配そうに自分を呼ぶ声。
反応したいが、体は動かない。
自分が生きているのか死んだのかすら分からない。


それに目の前が真っ暗で何も見えない。
自分の身に何が起こったのかを必死で思い出した。


(そうか……俺は毒を飲んで……)


そこで俺はようやく自分が今置かれている状況を理解した。
王家の晩餐会に参加して毒を盛られ、意識を失い今に至る。


(……死んだのか?)


死ぬこと自体は別に何とも無いが、一つだけ心残りがあった。


(……エミリア)


意識を失う前。
最後に見た彼女の姿がどうしても頭から離れない。


あのとき、今にも泣きそうな顔をしていたエミリア。
俺がいなくなって彼女は一人でやっていけるだろうか。


いつ死んでもかまわないと思っていたのに、それだけが引っ掛かった。
そしてもう一つ。


(会いたいな……)


エミリアにとても会いたくなった。
最後の最後に彼女の顔を見れたのは幸せだったが、それだけでは物足りないようだ。
もう一度エミリアに会いたかった。


(二度と叶うことなど無いのに……)


一生このままなのではないかという恐怖よりも、もう二度とエミリアに会えないということの方がよほど悲しかった。
こんなことになるならもっと早く気持ちを伝えておけばよかった。
自分自身の愚かさをただ呪った。


(馬鹿だな、俺は……)


全てを諦めかけていたそのとき、右手に何か温かいものが触れた。
それは俺の冷え切った身体を優しく包み込むようだった。


(……!これは……)


その温もりの正体に気付いた俺の考えは一変した。


(やっぱり俺は……諦められない……)


――彼女のために、まだ生きていたい。
ここで死ぬわけにはいかなかった。


何とかして生き延びたい。
俺は石のように固くなった身体を何とか動かそうとした。


そして必死に祈った。


(もしこの世界に神がいるのなら……どうかお願いします……全てを失ってもかまいません……だからどうか、もう一度だけエミリアに会わせてください……)


こんな身体では彼女に触れることもままならないではないか。


(頼む……動いてくれ……)


しばらくして、俺の切実な願いが届いたのだろうか。
苦心の末に、俺は何とかエミリアの手を握り返すことが出来た。


(温かい……)


温もりが体全体に広がっていくようだった。


「……」


そこで俺は目を覚ました。
俺の手をギュッと握ったエミリアがベッドに突っ伏して寝息を立てていた。


「……」


その顔を見て目覚めたばかりだというのに笑みが一つ浮かんだ。







***






「……」


どれだけの時間が経っただろうか。
窓から差し込んだ太陽の光が部屋に降り注いでいる。
どうやらもう朝になっているようだ。


(眠い……)


目を少しだけ開けた私の頭に誰かの手が触れた。


「エミリア、もう朝だ」
「……ルーク?」


私が驚いたような顔で彼を見つめると、ルークはクスリと笑ってこう言った。


「おはよう、エミリア」
「ルーク……!」


頬をつねって夢ではないことを確認した私は勢い余って彼に抱き着いた。
彼は飛びついた私を優しく受け止めた。


「ルーク、本当に貴方なの?」
「ああ、随分長く寝ていたみたいだ」


彼の胸に抱かれて安心した私は腕の中でわんわん泣いてしまった。


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