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106 彼の元へ

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「……どういうことですか?死んだって……」
「そのままの意味です。レビンストン元公爵が裁判を前に自決したと連絡が……」
「どうして……」
「それは私にもよく……」


オリバー様が死んだ。
あまりにも突然のことで、頭が追い付かなかった。


「何故、急に……」
「さぁ……捕らえられた罪人が自決するというのはよくあることですからね」


報告に来た騎士は淡々とそう口にした。
たしかに彼の言う通り、追い詰められた罪人が自ら死を選ぶことはそれほど珍しいことでは無いが、何かが引っ掛かった。


(このタイミングで死ぬだなんて……あの人の性格上死刑に怖気づいたというのは無さそうね……)


背後にいる人間を庇うために手下が死を選ぶというのはよく聞くことではあるが……。


そして黒魔術は術者が死ぬと術も自然に解けるという特性があった。
おそらく先ほどの現象はオリバー様が死んだことによって、黒魔術も跡形無く消えたというところだろう。


「もしかして……」


(全てを道連れに唯一残されたあの子を守ろうとしたのかしら……)


彼はきっと自身の犯した罪の重さを分かっていたのだ。
一度は狂い、堕ちるところまで堕ちてしまったが最後の最後で正気を取り戻したのだろう。


(本当に……馬鹿な人ね……)


黒魔術は私しか見ていないし、オリバー様の思惑通りになったとは言える。
しかしその結末は、非常に悲しいものとなってしまったが。


(…………帰りましょう、彼の元へ)


今はオリバー様のことを気にしている場合じゃない。
私にはもう別に愛する人がいるから。


「私、解毒剤を発見したんです」
「ほ、本当ですか!?」


驚いた顔をする騎士に、手に持っていた小瓶を見せた。


「一体どこにあったんですか!?私たちが捜索したときはどこにも……」
「本棚の奥です。すごく巧妙に隠されていました」
「そ、そうでしたか…………あれ、そこもちょっと前に探したような……?」


私は発見した解毒剤を手に、王宮へと急いだ。






***






「ルーク……」


王宮へ戻った私はすぐにルークの部屋へと駆け付けた。
毒を飲んだあの日から彼はずっと目を覚ましていない。


私は公爵邸から持って来た解毒剤を彼の口に流し込んだ。


(お願いします……神様……どうかルークを助けてください……)


彼の回復だけをただ祈りながら、私は傍を守り続けた。
そして気付けば夜になっていた。


「エミリア、彼が心配なのは分かるけれど食事を摂らないと……」
「レイラ…………いいの、今は何を食べても胃が痛くなるだけだわ」


ずっとルークに付き添っていた私を心配したレイラが様子を見に来た。
ルークが倒れてから私は一睡もしていないし、食事も摂っていない。


「不安で帰れなくて……今日はずっとここにいさせてくれないかしら?」
「それはもちろんいいけど……体調崩さないようにね」
「ありがとう、分かってるわ」


レイラが出て行った後、疲れが溜まっていた私は彼が眠っているベッドに顔を埋めた。


(ルーク……目を覚ましてよ……)


もう一度私を見て優しく笑ってほしい。
また色んな旅の話を聞かせてほしい。
そんな願いはもう一生叶わないのだろうか。


長い間寝ていないせいか、今になってどっと睡魔が襲ってくる。


(会いたいな……夢の中でなら会えるかな……)


どうか夢の中では元気な彼に会えますように。
そんなことを願いながら私は目を閉じた。



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