106 / 113
106 彼の元へ
しおりを挟む
「……どういうことですか?死んだって……」
「そのままの意味です。レビンストン元公爵が裁判を前に自決したと連絡が……」
「どうして……」
「それは私にもよく……」
オリバー様が死んだ。
あまりにも突然のことで、頭が追い付かなかった。
「何故、急に……」
「さぁ……捕らえられた罪人が自決するというのはよくあることですからね」
報告に来た騎士は淡々とそう口にした。
たしかに彼の言う通り、追い詰められた罪人が自ら死を選ぶことはそれほど珍しいことでは無いが、何かが引っ掛かった。
(このタイミングで死ぬだなんて……あの人の性格上死刑に怖気づいたというのは無さそうね……)
背後にいる人間を庇うために手下が死を選ぶというのはよく聞くことではあるが……。
そして黒魔術は術者が死ぬと術も自然に解けるという特性があった。
おそらく先ほどの現象はオリバー様が死んだことによって、黒魔術も跡形無く消えたというところだろう。
「もしかして……」
(全てを道連れに唯一残されたあの子を守ろうとしたのかしら……)
彼はきっと自身の犯した罪の重さを分かっていたのだ。
一度は狂い、堕ちるところまで堕ちてしまったが最後の最後で正気を取り戻したのだろう。
(本当に……馬鹿な人ね……)
黒魔術は私しか見ていないし、オリバー様の思惑通りになったとは言える。
しかしその結末は、非常に悲しいものとなってしまったが。
(…………帰りましょう、彼の元へ)
今はオリバー様のことを気にしている場合じゃない。
私にはもう別に愛する人がいるから。
「私、解毒剤を発見したんです」
「ほ、本当ですか!?」
驚いた顔をする騎士に、手に持っていた小瓶を見せた。
「一体どこにあったんですか!?私たちが捜索したときはどこにも……」
「本棚の奥です。すごく巧妙に隠されていました」
「そ、そうでしたか…………あれ、そこもちょっと前に探したような……?」
私は発見した解毒剤を手に、王宮へと急いだ。
***
「ルーク……」
王宮へ戻った私はすぐにルークの部屋へと駆け付けた。
毒を飲んだあの日から彼はずっと目を覚ましていない。
私は公爵邸から持って来た解毒剤を彼の口に流し込んだ。
(お願いします……神様……どうかルークを助けてください……)
彼の回復だけをただ祈りながら、私は傍を守り続けた。
そして気付けば夜になっていた。
「エミリア、彼が心配なのは分かるけれど食事を摂らないと……」
「レイラ…………いいの、今は何を食べても胃が痛くなるだけだわ」
ずっとルークに付き添っていた私を心配したレイラが様子を見に来た。
ルークが倒れてから私は一睡もしていないし、食事も摂っていない。
「不安で帰れなくて……今日はずっとここにいさせてくれないかしら?」
「それはもちろんいいけど……体調崩さないようにね」
「ありがとう、分かってるわ」
レイラが出て行った後、疲れが溜まっていた私は彼が眠っているベッドに顔を埋めた。
(ルーク……目を覚ましてよ……)
もう一度私を見て優しく笑ってほしい。
また色んな旅の話を聞かせてほしい。
そんな願いはもう一生叶わないのだろうか。
長い間寝ていないせいか、今になってどっと睡魔が襲ってくる。
(会いたいな……夢の中でなら会えるかな……)
どうか夢の中では元気な彼に会えますように。
そんなことを願いながら私は目を閉じた。
「そのままの意味です。レビンストン元公爵が裁判を前に自決したと連絡が……」
「どうして……」
「それは私にもよく……」
オリバー様が死んだ。
あまりにも突然のことで、頭が追い付かなかった。
「何故、急に……」
「さぁ……捕らえられた罪人が自決するというのはよくあることですからね」
報告に来た騎士は淡々とそう口にした。
たしかに彼の言う通り、追い詰められた罪人が自ら死を選ぶことはそれほど珍しいことでは無いが、何かが引っ掛かった。
(このタイミングで死ぬだなんて……あの人の性格上死刑に怖気づいたというのは無さそうね……)
背後にいる人間を庇うために手下が死を選ぶというのはよく聞くことではあるが……。
そして黒魔術は術者が死ぬと術も自然に解けるという特性があった。
おそらく先ほどの現象はオリバー様が死んだことによって、黒魔術も跡形無く消えたというところだろう。
「もしかして……」
(全てを道連れに唯一残されたあの子を守ろうとしたのかしら……)
彼はきっと自身の犯した罪の重さを分かっていたのだ。
一度は狂い、堕ちるところまで堕ちてしまったが最後の最後で正気を取り戻したのだろう。
(本当に……馬鹿な人ね……)
黒魔術は私しか見ていないし、オリバー様の思惑通りになったとは言える。
しかしその結末は、非常に悲しいものとなってしまったが。
(…………帰りましょう、彼の元へ)
今はオリバー様のことを気にしている場合じゃない。
私にはもう別に愛する人がいるから。
「私、解毒剤を発見したんです」
「ほ、本当ですか!?」
驚いた顔をする騎士に、手に持っていた小瓶を見せた。
「一体どこにあったんですか!?私たちが捜索したときはどこにも……」
「本棚の奥です。すごく巧妙に隠されていました」
「そ、そうでしたか…………あれ、そこもちょっと前に探したような……?」
私は発見した解毒剤を手に、王宮へと急いだ。
***
「ルーク……」
王宮へ戻った私はすぐにルークの部屋へと駆け付けた。
毒を飲んだあの日から彼はずっと目を覚ましていない。
私は公爵邸から持って来た解毒剤を彼の口に流し込んだ。
(お願いします……神様……どうかルークを助けてください……)
彼の回復だけをただ祈りながら、私は傍を守り続けた。
そして気付けば夜になっていた。
「エミリア、彼が心配なのは分かるけれど食事を摂らないと……」
「レイラ…………いいの、今は何を食べても胃が痛くなるだけだわ」
ずっとルークに付き添っていた私を心配したレイラが様子を見に来た。
ルークが倒れてから私は一睡もしていないし、食事も摂っていない。
「不安で帰れなくて……今日はずっとここにいさせてくれないかしら?」
「それはもちろんいいけど……体調崩さないようにね」
「ありがとう、分かってるわ」
レイラが出て行った後、疲れが溜まっていた私は彼が眠っているベッドに顔を埋めた。
(ルーク……目を覚ましてよ……)
もう一度私を見て優しく笑ってほしい。
また色んな旅の話を聞かせてほしい。
そんな願いはもう一生叶わないのだろうか。
長い間寝ていないせいか、今になってどっと睡魔が襲ってくる。
(会いたいな……夢の中でなら会えるかな……)
どうか夢の中では元気な彼に会えますように。
そんなことを願いながら私は目を閉じた。
205
お気に入りに追加
6,950
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる