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90 拭えない不安
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「……」
早歩きで自室までの道を歩いていた私は、ハッとなって足を止めた。
(いけないわ……あんなに感情的になっちゃうだなんて……)
事を荒立てず、丁寧に追い返すつもりだったのに。
ルークのことを悪く言われたからだろうか。
格上の貴族に対してあんなに声を荒らげてしまうとは、貴族令嬢としてあるまじき行為だった。
(私もまだまだね……一応淑女教育は終わらせたはずなのに……)
酷く疲れきった顔で立っていると、様子を見に来たのであろうリーシェお義姉様が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「エミリアさん!?大丈夫ですか!?」
「……お義姉様」
お義姉様は私の肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「公爵様に何かされたのですか?」
「あ……それが……公爵家に戻って来いと言われて……」
それを聞いたお義姉様の顔が絶望に染まっていった。
「そ、そんな……」
「……」
私の肩に置かれた両手が小刻みに震えている。
最悪の事態を想定しているのだろう、顔色が悪い。
私はお義姉様を安心させるように手を握った。
「お義姉様、そんな顔なさらないでください。きっぱり断りましたから大丈夫ですよ」
「ですが……もし権力を使ってエミリアさんを奪いに来たら……伯爵家の力では……」
「……」
オリバー様が権力を使って私を妻にする。
さっきの彼の様子からしてありえないことでは無いが、一つだけ胸に引っ掛かる疑問がある。
(どうしてそこまで私にこだわるの?彼にはローザ様がいるのに……)
それは何故私をもう一度妻にしたがっているのかだ。
オリバー様には他に愛する人がいて、その人との間に子供まで生まれていた。
(世間体のためかしら?どちらにしても御免だわ)
誰かの幸せの踏み台にされるような人生はもうこりごりだ。
誰が何と言おうと私はあの家には戻らない。
オリバー様を愛する気持ちなんて、もう微塵も残っていないのだから。
「――エミリア」
「お兄様……」
そこでお義姉様の奥からやって来たのはお兄様だった。
「……話は聞いた」
「……」
しかし、それでもお兄様は表情を崩さなかった。
「心配するな、たとえ相手が権力を振りかざそうとも俺はお前を公爵家に渡すつもりは無い」
「お兄様……ありがとう……」
昔から頼りになる兄は、どうやら何が何でも妹を守ってくれるようだ。
私と同じ色のその瞳には揺るがない決意が秘められていた。
「エミリア、今回の件はレイラにも報告した方がいいと思う」
「……レイラにも?」
「そうだ、レイラなら俺と違って公爵家に対抗出来るほどの権力を持ち合わせているし……もしかすると俺よりも頼りになるかもしれない」
「たしかに……」
レイラはこの国の王妃で、元公爵令嬢だった。
お兄様の言っていることは正しい。
「そうだね……」
「ああ、レイラには俺から言っておくからお前はもう部屋で休むといい。今日は色々あって疲れただろう」
「うん……本当にありがとう、お兄様、お義姉様」
信頼できる二人に優しい笑みを向けられて、ほんの少しだけ心が落ち着いたような気がした。
しかし……
(……何だろう、何だか嫌な予感がする)
何か、悪いことが起こるような気がしてならない。
早歩きで自室までの道を歩いていた私は、ハッとなって足を止めた。
(いけないわ……あんなに感情的になっちゃうだなんて……)
事を荒立てず、丁寧に追い返すつもりだったのに。
ルークのことを悪く言われたからだろうか。
格上の貴族に対してあんなに声を荒らげてしまうとは、貴族令嬢としてあるまじき行為だった。
(私もまだまだね……一応淑女教育は終わらせたはずなのに……)
酷く疲れきった顔で立っていると、様子を見に来たのであろうリーシェお義姉様が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「エミリアさん!?大丈夫ですか!?」
「……お義姉様」
お義姉様は私の肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「公爵様に何かされたのですか?」
「あ……それが……公爵家に戻って来いと言われて……」
それを聞いたお義姉様の顔が絶望に染まっていった。
「そ、そんな……」
「……」
私の肩に置かれた両手が小刻みに震えている。
最悪の事態を想定しているのだろう、顔色が悪い。
私はお義姉様を安心させるように手を握った。
「お義姉様、そんな顔なさらないでください。きっぱり断りましたから大丈夫ですよ」
「ですが……もし権力を使ってエミリアさんを奪いに来たら……伯爵家の力では……」
「……」
オリバー様が権力を使って私を妻にする。
さっきの彼の様子からしてありえないことでは無いが、一つだけ胸に引っ掛かる疑問がある。
(どうしてそこまで私にこだわるの?彼にはローザ様がいるのに……)
それは何故私をもう一度妻にしたがっているのかだ。
オリバー様には他に愛する人がいて、その人との間に子供まで生まれていた。
(世間体のためかしら?どちらにしても御免だわ)
誰かの幸せの踏み台にされるような人生はもうこりごりだ。
誰が何と言おうと私はあの家には戻らない。
オリバー様を愛する気持ちなんて、もう微塵も残っていないのだから。
「――エミリア」
「お兄様……」
そこでお義姉様の奥からやって来たのはお兄様だった。
「……話は聞いた」
「……」
しかし、それでもお兄様は表情を崩さなかった。
「心配するな、たとえ相手が権力を振りかざそうとも俺はお前を公爵家に渡すつもりは無い」
「お兄様……ありがとう……」
昔から頼りになる兄は、どうやら何が何でも妹を守ってくれるようだ。
私と同じ色のその瞳には揺るがない決意が秘められていた。
「エミリア、今回の件はレイラにも報告した方がいいと思う」
「……レイラにも?」
「そうだ、レイラなら俺と違って公爵家に対抗出来るほどの権力を持ち合わせているし……もしかすると俺よりも頼りになるかもしれない」
「たしかに……」
レイラはこの国の王妃で、元公爵令嬢だった。
お兄様の言っていることは正しい。
「そうだね……」
「ああ、レイラには俺から言っておくからお前はもう部屋で休むといい。今日は色々あって疲れただろう」
「うん……本当にありがとう、お兄様、お義姉様」
信頼できる二人に優しい笑みを向けられて、ほんの少しだけ心が落ち着いたような気がした。
しかし……
(……何だろう、何だか嫌な予感がする)
何か、悪いことが起こるような気がしてならない。
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