上 下
75 / 113

75 招待状

しおりを挟む
「招待状……?」


その日、私は自室で一人眉をひそめていた。
私の手に握られていたのはパーティーの招待状だ。
何故、私がそれを見て眉をひそめているのか。


それはこの招待状を送ったのが元夫のレビンストン公爵だからである。


(間違えて送った……とかじゃないわよね?)


そう思って何度も確認してみたものの、招待状はしっかりと私宛てになっていた。


「……一体、何を考えているの?」


思わず本音が漏れてしまった。
数か月前に離婚したばかりの元妻を堂々とパーティーに招待するとは。
私や自分自身が何を言われるか分からないのだろうか。


(……それとも、ただ私を貶めたいだけ?)


あの人ならそのようなことを考えていてもおかしくはない。
しかし、何かが引っ掛かった。


「――エミリアお嬢様」
「……レミア」


不安げな表情を浮かべて部屋に入って来たのはレミアだった。


「お嬢様……その、それは……」
「……レビンストン公爵様が私をパーティーに招待したいそうよ」
「……ッ!!!」


レミアは信じられないと言ったような顔をした。
公爵家での私の待遇を知っている人間ならば当然そのような反応になるだろう。


「あの方は一体何を考えているんですか!パーティーを開くとはいえ、お嬢様を招待するだなんて!」
「そうね……」


元夫の考えが分からないのは私も同じだ。


(もうとっくに離婚したってのに!まだ私のこと馬鹿にしたいわけ?)


「お嬢様、出過ぎたことを申しますが……」
「うん?」
「このパーティーは……行くべきではないかと思います……」


レミアは私の身を本気で案じているようだった。
私はそんな彼女にニッコリ笑い返した。


「ありがとう、レミア」
「お嬢様」
「でも大丈夫よ」
「ま、まさか……!」


椅子から立ち上がった私は、ハッキリと彼女に告げた。


「パーティーには参加するわ」
「そ、そんな……!」


レミアは終始心配そうな顔をしていたが、私の思いが揺るぐことは無かった。


(あの人に……逃げただなんて思われたくないもの)


今の私はもうオリバー様に付き従うだけだった気弱な公爵夫人ではないから。



***



パーティーへの参加を決めた日の夜。


「エミリア、本当に行く気か?」
「ええ、お兄様」


私は夕食の後、部屋の前でお兄様とお義姉様に引き留められていた。


「エミリアさん、私は参加しない方がよろしいかと……変ですよ、伯爵家の人間の中でエミリアさんだけを招待するだなんて!」
「お義姉様……」


そう、このパーティーに招待されたのは私だけだった。
お兄様やお義姉様に招待状は来ていない。


(それは私も思うけれど……)


もう既に参加の旨を伝えてしまっている今、逃げることは出来なかった。


「大丈夫です、二人とも。心配してくれてありがとうございます」


私は二人を安心させるように笑い返して部屋に入った。


(ドレスを決めないといけないわね……)


レビンストン公爵邸での舞踏会は一週間後だ。
それまでに色々と準備しないといけないものがある。


(元夫がいるって分かってるのに、みずぼらしい姿で行くわけにはいかないし……)


私はクローゼットを開けて、中にあるドレスに目をやった。
伯爵家での私の立場はあくまでも居候のため、新しいドレスを買うわけにはいかなかった。


(でも、どれがいいんだろう……お義姉様やレイラみたいにファッションセンスがあるわけじゃないし……)


しばらく悩み続けたが、結局決まらなかった。


「あーもう!全然決まんない!」
「――何が決まらないんだ?」
「キャア!!!」


突然耳元で声がして、私は思わず悲鳴を上げた。


「……ルーク?」


どうやらルークがいつものように勝手に部屋に入ってきていたようだ。


(びっくりした……こんな登場の仕方は無いよ……)


「驚かせて悪かった、ほら」
「……あ、ありがとう」


倒れた私に、彼が手を差し出した。
私はその手を取って立ち上がった。


「それで、何に悩んでたんだ?」


彼は慣れた様子で椅子に座りながら尋ねた。


「実は、一週間後にパーティーに行くことになってね……ドレス選びしてたんだ……」
「パーティー?王宮で開かれるのか?」
「ううん、レビンストン公爵邸だよ」
「……レビンストン公爵家だって?」


公爵家の名前を聞いたルークは目をパチクリさせた。


「……行くのか?」
「うん、欠席するのは逃げるみたいで嫌だからさ」
「……」


私の答えに、彼はしばらく黙り込んでいた。


(何か考え事かな?……あっ、このドレス良さそう!)


クローゼットにあった青色のドレスを手に取った私はフフッと微笑んだ。
たまたま、本当に偶然これに目を惹かれたのだ。


ルークの瞳の色に似ていたからだなんて、決してそんな理由ではない。


しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄された元貴族令嬢、今更何を言われても戻りません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:81

ごきげんよう、元婚約者様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,131pt お気に入り:159

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:2,479

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:4,602

【完結】婚約破棄されたそのあとは

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,633pt お気に入り:3,532

初恋の君と再婚したい?お好きになさって下さいな

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,860pt お気に入り:167

処理中です...