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65 異変 オリバー視点

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(やった……やっと終わったぞ……!)


私は机の上に山のように積まれた書類を見て達成感に浸っていた。


時刻は夜の七時。
仕事に没頭しているうちにどうやら愛する家族との夕食の時間になっていたようだ。


(本当に大変だった……だが、これでローザとリオに会える……!)


誰よりも愛しい二人のことを考えた私は、自然と口元を綻ばせた。


「旦那様、晩餐会場へ向かわれますか?」
「ああ」


仕事を終えた私はすぐに二人が待っているであろう食堂へと向かった。


(少し遅くなってしまったな……)


約束の時間から五分ほど過ぎている。
既に二人とも食堂へ来ている頃だろう。


これのために真面目に仕事に取り組んでいたと言っても過言ではない。
もうすぐ二人に会えるのだと思うと、自然と足取りが軽くなった。


「ローザ!リオ!」


私は嬉しさのあまり、二人の名前を呼びながら食堂の扉を思いきり開けた。
が、しかし――


「お父さん!」


中にいたのはリオだけで、そこにローザの姿は無かった。


「……?」


妙な違和感を感じたものの、ひとまず駆け寄ってきたリオの頭を優しく撫でた。


「お父さん、会いたかったです」
「ああ、私もだ」


息子を椅子に座らせた私は、傍に控えていた侍従に尋ねた。


「おい、ローザは来ていないのか?」
「あ、それが……侍女の話によると今日の晩餐会は来られないそうです」
「何?何故だ?」


厳しい表情で問い詰めると、侍従はビクリと肩を震わせた。


「そ、それは私にも……」
「おい、ローザの侍女をすぐに呼んで来い!」


急いでローザの侍女を食堂へ呼びつけた私は、すぐに彼女のことを問い質した。


「ローザは何故来ないんだ?」
「奥様はお疲れのようで……部屋で休むとおっしゃっていました」
「疲れているだと?体調でも悪いのか?」
「い、いえそのようには見えませんでした」
「……」


(疲れているだと?どこかへ遊びにでも行っていたというのか?)


私は目の前にいる侍女に疑いの目を向けた。
そこで助け船を出すかのように別の侍女が付け加えた。


「ど、どうやら公爵夫人になるための勉強をしていたら疲労が溜まってしまったようです……!」
「!」


彼女からその話を聞いた私の胸には、言葉では言い表せないほどの喜びが沸き上がってきた。


(ローザが公爵夫人になるための勉強を……!)


彼女はようやく分かってくれたのだ。
もちろん私はローザのことを信じていたが、いざその話を直接聞くと嬉しさがこみ上げてくる。


「そうか、そういうことなら仕方が無いな。明日の朝まで誰も彼女の部屋には近付かないように」
「はい、旦那様」


私はそれだけ言うと、侍女を外に出して席に着いた。


「お父さん、早く食べましょう!」
「ああ、そうだな」


愛する妻は不在だったが、息子との晩餐を心の底から楽しんだ。


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