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43 元夫との遭遇

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控室を出た私は、レイラたちに言ったようにお手洗いへと向かった。


(あー楽しい!本当に来て正解だったわね)


この舞踏会に参加したことで、公爵に捨てられた女という汚名を返上することが出来た。
今まで散々馬鹿にしてきた貴族たちを見返せたし、何より兄の意外な一面を知ることも出来た。
それに、レイラとお義姉様との女子会は本当に楽しいものだった。


(レイラとお義姉様も楽しそうだったし、これからは定期的に女子会をするってのも良いわね。あ、でも二人とも子育て中で忙しいかしら……)


考えれば考えるほど自然と口元に笑みが浮かんでくる。
どうやら私は本当に今の生活に満足しているようだ。


(あぁ、どうかこれからもそんな幸せな日々が続きますように)


しかし、そんな願いも虚しく曲がり角を曲がった先で最も会いたくない人物と出くわしてしまうこととなる。


「…………オリバー様?」
「……エミリア?」


お手洗いの傍で壁にもたれて立っていたのは、何と私の元夫であるオリバー・レビンストン公爵だった。


(何でオリバー様がここに……)


彼は驚いたように私の顔をじっと見つめている。
その紫眼はいつもと違って丸く見開かれていた。
もちろん彼のそんな顔は生まれて初めて見る。


(…………不愉快だわ。早く済ませて戻りましょう)


私は一礼だけしてすぐ横を通り過ぎようとした。
が、しかし――


「お、おい待て……!」
「……!」


何と、彼は私の腕をガシッと掴んできた。
もう私たちは夫婦でもないのに、無礼極まりない行為である。


私は腕を掴むオリバー様に対して声を荒らげた。


「何のおつもりですか?放してください!」
「本当にエミリア……ログワーツ嬢なのか……?」


まるで疑っているような言い方だ。
腕を掴んできたことも然り、何て失礼な人なんだろう。
お兄様以上に失礼な男性は初めて見た。


そんなオリバー様にイラッとした私は、彼の手を振り払った。


「放して!」
「……ッ」


彼は何故だか手を振り払われたことに傷付いた顔をしていたが、無視だ。


(何で貴方がそんな顔するのよ……)


わけが分からない。
何故離婚した今、私に関わってきたのか。


「用が無いのであれば私はこれで失礼します」
「おい……ちょっと待ってくれ……」


縋りつくように引き留めようとしてくる彼に、私はハッキリと告げた。


「オリバー様――いえ、レビンストン公爵様。早く公爵邸へ帰った方がよろしいのでは?」
「何故……」


(何故ですって?)


思わず笑いが出そうになった。
貴方がそれを知らないとは言わせない。


「――私の相手をするのは貴方様にとって時間の無駄かと思いますので」
「……ッ」
「早く愛しい方たちに会いに帰った方がよろしいですわよ」
「……」


オリバー様がビクリとなった。
そうなるのも無理はない。
この言葉は私が公爵夫人だった頃に散々彼に言われてきた言葉だったから。


『お前の相手をしているのは私にとって時間の無駄だ』


私が歩み寄ろうとするたびに冷たくあしらっていたオリバー様。
私はそのことを未だに忘れていない。


「それでは私は失礼します。私がトイレから出る頃には貴方がここから消えていますように」
「……」


私は一人呆然としている彼を置き去りにしてお手洗いへと入って行った。



***



「おかえり、エミリア」
「エミリアさん、おかえりなさいませ」


控室へ戻ると、ちょうどレイラとお義姉様が楽しそうに話を続けていた。


「ただいま、二人とも」


私は元いた場所に腰を下ろした。


「それにしても遅かったわね。登りやすそうな木でもあったの?」
「ちょっと!私のことなんだと思ってるのよ!」
「ふふふ、冗談よ」


レイラは悪戯に笑った。
そして隣ではそんな私たちを見ながらお義姉様もクスクス笑っている。


私は伝えるべきか迷っていたことを二人に話した。


「実は……オリバー様に会ったの」
「「……ええ!?」」


お義姉様は珍しく声を上げ、レイラに至っては飲んでいたお茶を噴き出した。


「オリバーに会ったですって!?ちょっと、詳しく聞かせてちょうだい!」
「エミリアさん、レビンストン公爵様に何もされていませんか?」


激しく詰め寄る二人を前に、私はついさっきあったことを話した。
もちろん二人は嫌悪感を露にした。


「何よそれ……意味が分からないわ」
「私も全然分かんないんだよね……あの人はそんなことするような人じゃないのに……」
「エミリアさんと復縁しようとしている、とかじゃなければ良いのですが……」


二人ともオリバー様の行動に疑問符を浮かべると同時に、レイラにいたっては何かをじっと考え込んでいた。


「ああ、お義姉様。それはありえないかと……」
「あら、どうしてですか?エミリアさんがこれほど美しい方だったと知ればそうなっても不思議ではありませんわ」
「えっと……それはですね……」


お義姉様はオリバー様の愛人の存在を知らない。
彼女が知っているのは私が公爵家で冷遇されていたということだけだ。


(お義姉様になら……話してもいいかしらね……)


血は繋がっていないが、彼女は私の大切な家族である。
結局私はお義姉様にオリバー様の愛人のことを話した。
十歳になる子供の存在まで全て。


「な……!?」


話を聞いたお義姉様は絶句していた。


「それは本当ですか……?」
「はい、紛れもない事実ですわ」
「そんな……」


顔が青くなっているお義姉様を見たレイラが口を開いた。


「本当、とんでもないわよねあの男」
「……レイラ、オリバー様の愛人のこと知ってたの?」
「王家の諜報力をあんまり舐めちゃダメよ?まぁ、知ったのはあなたと公爵が離婚した後だけれどね」


どうやらレイラは王家の影の力を使ってオリバー様の愛人についての情報を得ていたようだ。


(いつの間に……)


私が不思議そうにレイラをじっと見つめていると、彼女は突然真剣な表情になって話し始めた。


「エミリア、あなたはそんなことありえないって言うけれど警戒をするに越したことはないわ。ハッキリ言ってあの男はかなり異常だから」
「そうかしら……?」
「エミリアさん、私もそう思います。レビンストン公爵様はまともな人ではありません」


二人は念を押すようにそう言った。


(本当に何だったんだろう……?)


何も起きないことをただただ祈るばかりだった。


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