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40 舞踏会

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私が会場に入った瞬間、貴族たちの視線が一斉にこちらに集中した。


(大丈夫、大丈夫よ。別に怖くない)


私はもう気弱な公爵夫人エミリア・レビンストンではない。
必死で自分にそう言い聞かせた。


歩きながら視線をチラリと横に向けると、貴族たちの何人かが私を見てヒソヒソと話をしていた。
こうなることはある程度予想していたため、別に何とも思わない。


「ログワーツ嬢……ってまさかレビンストン公爵夫人か?つい最近離婚したっていうあの……」
「きっと子供が出来なかったから公爵様に見捨てられたのよ」
「離婚直後によくもまあ堂々と社交界に姿を現わせたな……」


半分は離婚した私への悪意を込めたもの。


「ログワーツ嬢はあんなに綺麗な人だったかしら?」
「私も驚いたわ。すごい変わりようね」
「何て美しさだ……!」


そしてもう半分は劇的に変化している私の容姿を褒め称えるものだった。


(このまま人々の話題を上手い具合に離婚から逸らせたらいいのだけれど……)


協力してくれたレイラ、リーシェお義姉様、王宮の侍女たちには本当に頭が上がらない。
後でもう一度お礼を言いに行こう。


会場へ入った私たち二人は、お兄様とお義姉様の傍で立ち止まった。
横にいたお義姉様が私にそっと耳打ちした。


「エミリアさん、貴族たちがエミリアさんのことを褒めていらっしゃいますわ」
「お義姉様たちのおかげですよ。本当にありがとうございます」
「これくらいどうだってことないですわ」


私とダミアン卿が入場を終えた後も、次々と貴族たちが会場へと入って来る。


「おい、ログワーツ伯爵夫人の隣にいるあの美しい方は一体どこのご令嬢だ?」
「さぁ、見たことないな……」


どうやらみんな私が誰だか分かっていないようだ。
褒められ慣れていないせいか、何だか照れ臭くなる。
恥ずかしさで思わず俯きそうになったそのとき、会場の方からとある人物の名前が耳に入った。


「――オリバー・レビンストン公爵閣下です!」
「「「!!!」」」


私とお兄様、そしてお義姉様の三人がその名前にピクリと反応した。


ゆっくりと扉の方を見ると、ちょうどオリバー様が一人で入場しているところだった。
そしていつものように彼の姿を見た貴族令嬢たちの間で小さな歓声が起こった。


「レビンストン公爵様は本当にいつ見ても素敵だわ……!」
「つい最近奥様と離婚なさったんでしょう?再婚したりはしないのかしら?」
「あんな方の奥方になれたらさぞ幸せでしょうね……」


(いやいやいやいや!やめときなさいって!)


あんな人と結婚したらそれこそ不幸一直線だ。
貴族令嬢たちよ、顔に騙されてはいけない。
男は中身である。
かつては私もあの男の表の顔に騙されて結果的に地獄を見ることになったのだから。


一人でいるオリバー様を見たお兄様が、私にのみ聞こえるほどの大きさの声でボソッと呟いた。


「意外だな、てっきりすぐに再婚すると思っていたんだが」
「……すぐに再婚したら周りに怪しまれるからではないかしら。この国では愛人を囲うことは認められていないから」
「それもそうだな。そこまで頭の回る男だったとは驚いたよ」


お兄様は皮肉を込めてそう言った。
完全にオリバー様を馬鹿扱いしているようだ。
まぁ、あながち間違ってはいないのだが。


公爵であるオリバー様が入場を終え、次に入って来たのは国王陛下とレイラだった。
金髪碧眼の国王陛下に、鮮やかな赤い髪に黒い瞳をしているレイラ。
誰から見ても美男美女夫婦である。


(わぁ……!こうして見ると本当にお似合いな二人だわ……!)


レイラほど陛下の隣が似合う女はこの国には存在しないだろう。
陛下はレイラを王妃の席までエスコートした。
労うようなその気遣いに、レイラを愛しているのだということが伝わってくる。


「――皆の者、今日はよく来てくれた。楽しんでいってくれ」


陛下のその言葉で、舞踏会が始まった。


(まずはレイラのところへ行こうかしら……お礼も言いたいし……)


そう思ったものの、陛下とレイラの周りには一瞬にして人だかりが出来ていた。
この国の最高権力者である国王夫妻は人気者なのである。


(うーん……あれじゃ行けないわね……)


レイラのところに行けるようになるまで隅でじっとしていようと考えていたそのとき、ふと声を掛けられた。


「――ログワーツ嬢、私と一曲踊ってくださいませんか」
「ダミアン卿……」


私にダンスを誘ったのは隣にいたダミアン卿だった。


(ダンスか……久しぶりね……)


誰かと踊るつもりは無かったが、理由もなく誘いを断るのは失礼にあたる。
それにたまにはこういうのも悪くないだろう。
私は手を差し出した彼にニッコリと微笑んだ。


「――はい、喜んで」


私はダミアン卿の手を取ってホールの中央へと向かった。


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