愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

文字の大きさ
28 / 113

28 優しい母

しおりを挟む
両親と再会の抱擁を交わしたあの後、私はお母様と二人で邸宅の応接間にいた。
今、私の向かいにはお母様がソファに腰を下ろしてこちらをじっと見つめている。


私はその視線を受け止めながら、テーブルの上に置かれていたお茶に手を伸ばした。


「……」


お茶の注がれたティーカップに顔を近付けると、芳醇な香りが鼻をくすぐった。
どこか懐かしい香りだ。


それからカップに口を付けて一口飲んでみると、まろやかでコクのある味わいが口の中に広がった。


「……ふぅ」


このお茶を飲むといつだって心が落ち着く。
幼い頃からずっと私の一番だった。


「とっても美味しい!やっぱりお母様の淹れてくれたお茶が一番だよ!」
「あら、本当?嬉しいわ」


お母様はクスクスと口元を手で押さえて笑った。


(お母様のお茶は本当に美味しい)


私のお母様はお茶を淹れるのがとても上手なのだ。
私の様子がいつもと違うことに気付いたお母様が気を遣って淹れてくれたらしい。


母のそんな気遣いに胸が温かくなる。


「それよりエミリア、何があったのか詳しく聞かせてくれない?あれほど離婚を拒んでいた貴方がどうして急に離婚するに至ったのか……気になることはたくさんあるわ」
「ええ、もちろん教えるわ。元々それらを全て話すためにここに来たんだから」


今ここには私とお母様の二人しかいない。
ちなみにお父様とエドモンドは二人一緒に外で遊んでいる最中である。


(もちろんお父様にも話さないといけないけれど……)


まずはお母様からだ。
こういうのは同性の方が話しやすいため、助かった。


しかし、話すにしてもそれなりに覚悟のいることである。


伯爵家側の人間でオリバー様の愛人と子供のことを知っているのは今現在私とケインお兄様だけだった。
公にするべきことでは無かったし、何より二人の間に生まれた子供が可哀相だったから。


(……だけど、両親には全てを言わなければいけない)


彼らはきっと約束を守ってくれるはずだから大丈夫だろう。


「お母様、あのね……」


私は意を決してついこの間あったことを全て話した。
お母様は突然声を荒げるわけでもなく、私の話をじっと最後まで聞いてくれた。


「――それで、離婚を決意したの。もう彼に対する気持ちは無いわ。今まで迷惑かけてごめんね、お母様」


全てを話し終えた私はハッキリとそう口にした。


「辛かったわね、エミリア」
「うん……お母様……」


公爵邸での日々を話すのは辛いことだった。
途中で何度も涙が出てきそうになった。


(……でも最初に自分の口で話したのがお母様で本当に良かった)


母は昔から私の良き理解者である。
お母様は無表情のまま少しだけ黙り込んだ後、口を開いた。


「話は変わるけれどエミリア、これから何をするのかは決めているの?」
「え、えっと……」


――これからのこと。
オリバー様から受けた傷が癒えたら修道院に入るつもりではあるが、それまでのことに関しては全く考えていない。
言葉を詰まらせる私に、お母様は優しい口調で言った。


「これからは貴方の好きなことをしていいのよ。今まで我慢してきた分……私もあの人も貴方の行動を制限したりはしないから」
「……!」


私の好きなこと。
正直に言うと、やってみたいことはたくさんあった。


「それって……各地を旅行したりとかでも……?」
「もちろん。全力で支援するわ」
「お母様……!」


私は嬉しくてつい子供のようにお母様に抱き着いてしまった。


「ありがとう、お母様!」


母はそんな私を咎めるでもなく、そっと抱きしめ返してくれた。


(ああ、こうしていると本当に子供の頃に戻ったみたいだわ)


それから私はしばらくの間、母の腕の中でじっとしていた。
十年ぶりに母の愛を感じたような気がした。


「ここには貴方を苦しめる人間は誰もいないんだから。好きに過ごしていいのよ」
「うん、お母様!」


母は私の頭を優しく撫でると、そっと体を離した。


「さぁ、そろそろエドモンドとお父様のところに行きましょうか。外で待っているはずよ」
「あ、そうだった!」


私たちはエドモンドとお父様の待つ庭へと向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...