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12 お出かけ

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「ふふふ」


朝食を食べた後、私は一人ローブを着用して王都へと来ていた。
オリバー様はもちろん、これは使用人たちも知らないことだ。


(何だかスパイにでもなった気分ね)


つまり、邸をこっそり抜け出してきたということである。
オリバー様たちが知ったら何を言われるか分からない。
それは分かっている。
しかし、悪い気はしない。
たまには息抜きも必要だから。


(久しぶりね……!最後に来たのは何年前かしら……?)


人で賑わった王都の街並みを見て、私の心は自然と晴れた。
今日は快晴で、雲一つない青空が広がっている。
こんなにも天気の良い日はやはり外に出るべきである。


(たまにはこういうのもいいわよね!)


今まで散々虐げられてきたのだからこれくらいは許容範囲だろう。
私は自分の中でそう結論付けて街を歩き出した。


せっかくの外出を満喫しようとは思ったものの、王都にはたくさんの店があってどれから入ろうか迷ってしまう。


(どこに行こうかな?ただ散歩してるだけっていうのもいいけど……せっかく王都に来たからなぁ……お昼ご飯までには戻らないといけないから……)


公爵邸に戻らなければならないのだと思うと一気に気が重くなる。


(……やめよう、せっかくの楽しい時間にそんなことを考えるのは)


私はすぐさま辛い記憶を頭の中からかき消した。
それから再び王都を歩いていると、あるお店に目が留まった。


(あ!あのブティック!レイラが言ってたやつだわ!)


流行に敏感なレイラは公爵邸へ訪れた際に、私にファッションに関する話をよくしてくれた。
どのデザイナーが作ったものが今人気だとか、どんなデザインのドレスが流行っているのかなどなど。
元々それほどファッションに興味はなかった私だが、彼女のその話を聞いているうちに少しずつ関心を抱くようになった。


(入ってみようかな……)


普段、私がドレスを選ぶ機会はほとんどない。
何故なら私のドレスは全て侍女たちが勝手に決めているから。
最初はかなり驚いたが、どうやらオリバー様の指示らしい。


私の着るドレスに興味はない、だけど高いドレスを買われるのは困る。
そんな思いから彼は、私のドレス選びを侍女に一任しているようだ。


(オリバー様から贈られることだって一度も無かったものね……)


しかし、今好きな物を買ったところで叱ってくる人間は誰もいない。
今の私は完全に自由なのだ。
十分なお金を持って来ていた私は、軽い足取りでブティックへと入って行った。


「――いらっしゃいませ」


中に入ると、一人の貴婦人が笑顔で私を出迎えた。


「こんにちは」


店の中には華やかで美しいドレスがたくさん飾られていた。


(わぁ……こういうところに入るの初めてかも……)


伯爵家でもドレスやアクセサリーは全てお母様任せだった私。
自分でドレスを選ぶだなんて初の試みである。


「綺麗……!」


侍女たちに用意されていたドレスや装飾品はどちらかというと質素なものが多かった。
そのため、私は舞踏会に出るたびにオリバー様の隣に立つ女として相応しくないとよく言われていた。
自分でもいたって平凡な顔だということはよく分かっているので特に気にしていなかったが。


(レイラの言ってた通りだわ……)


これだけ素敵なものがたくさんあれば人気になるのも納得だ。
たまにはこういうのも悪くはない。


そしてその中で、ある一つのドレスが私の目に留まった。


「……!」


それは赤いサテン生地に、金の刺繍が施されているマーメイドラインのドレスだった。
他のドレスよりもひときわ目立っている。


(アハハ……私には絶対に似合わないな……)


そんなことが一目で分かるほどに美しいドレスだった。


「そのドレスを気に入られましたか?」
「……はい、とっても素敵だなぁって」


私が控えめに言うと、貴婦人は困ったような顔で頬に手を当てた。


「大変申し訳ないのですが、そちらは今現在品切れで……一週間ほどお時間を頂くこととなりますがよろしいでしょうか?」
「えっ」


何故か買う前提になっていた。
購入して着たところでどうせ私には似合わない。
そう思った私はすぐに断りを入れようとした。


「あ、あの私……」
「完成したらこちらから邸宅までお届けいたしますので!」
「……」


私が黙り込んでいる間にも、手続きはどんどん進められていく。


(ど、どうしよう……これ買う流れになる?)


心の中ではいけないと分かっていても、今になってとても断る気にはなれなかった。
嬉しそうにニコニコ笑っている夫人を見て、やっぱり買いませんだなんて言えるわけがなかった。


「失礼ですが、どちらのご夫人でしょうか?」
「あ……」


どうやら今までにこのような場所に来たことが無かったため、貴婦人は私が誰だか分からないようである。


(レビンストン公爵夫人って言うべきなんだろうけど……)


高価なドレスを買ったことが知られたら何を言われるか分からない。
そう考えた私は、咄嗟に実家である伯爵家の名前を出した。


「では、なるべく早くお届けいたしますね!」
「は、はい……」


結局、押しに弱い私はドレスを買うことになってしまったのである。

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