9 / 113
9 地獄は続く
しおりを挟む
あれからというもの、レイラはちょくちょく私に会いに公爵邸を訪れるようになった。
完全にお飾りの妻となってしまっている私を気にかけてくれているのだろう。
一人寂しく邸で過ごしていた私としては本当にありがたい。
レイラと過ごす時間は私にとって掛け替えのないものとなった。
そして依然としてオリバー様との仲を深めようと努力をしてはいるが、これといった成果は得られない。
相変わらず彼は私を嫌っているままだ。
(せめて私を嫌う理由を言ってくれればな……)
それに加えて最近は今まで以上に仕事が忙しいようでまともに彼と話せていない。
もう一週間は公爵邸に帰って来ていないのだ。
それと何故だか分からないが、使用人たちの出入りが激しく慌ただしいような気がする。
久々に邸に帰って来たオリバー様もどこかピリピリしているようだった。
(何だろう……?)
そんな彼らを不思議に思いながらも、あえて追及するようなことはしなかった。
面倒くさい女だと思われるのは嫌だったから。
妻は黙って夫に従っていればいいのだと使用人が前に言っていたし、ここで彼のすることに口出しをするのは正しいことではないだろう。
そう思いながら私は彼の行動をただ黙って見守っていた。
しばらくして、ようやく周囲が落ち着いた。
オリバー様は前よりも帰って来る頻度が減ったが、仕事が立て込んでいるのだと自分に言い聞かせた。
そして、ここで私はある大きな問題に直面することとなる。
その問題というのが、私に子供が出来ないことだった。
貴族の妻の最大の役目は後継者を産むことだ。
私にも正妻としての責任感というものはあった。
それを抜きにしても私は子供が好きだ。
オリバー様によく似た愛らしい子供がいたら良いのになと思う。
何度も医師の問診を受けているが、一向に子を授かる気配はない。
オリバー様と結婚してから既に一年が経っている。
私と同年代の貴族令嬢たちは次々に結婚し、全員が子供を産んでいた。
そんな話を聞いて何度羨ましくなったことか。
「……」
私は自身の平らな腹にそっと手を置いた。
子供でも出来れば私に無関心な彼も変わってくれるだろうかと期待していたが、それは一体いつになることやら。
結婚してすぐの頃は何度か夢を見たものだ。
愛しい人の子供を胸に抱き、幸せに過ごす日々を。
もしかするとそんな日は永遠に来ないのかもしれない、そう思ってしまう自分もいる。
(本当に、どうして私には子供が出来ないんだろう……?)
焦る気持ちも無いことはなかったが、そんなことを考えている時間が無駄だろう。
私はとりあえず気長に待つことにした。
***
オリバー様と結婚してから三年が経った頃、私はついに彼からの追及に遭った。
「何故子供が出来ない?」
「……」
突然執務室に私を呼び出した彼は、三年前とまるで変わらない冷たい眼差しで私を問い質した。
三年を夫婦として過ごしたというのに、私に対して少しも情を抱いていないようだった。
(何故……と言われても……)
――分からない。
何故子供が出来ないのかなんて私にも分からない。
そのため、私は彼からの質問に答えることが出来なかった。
黙り込む私にしびれを切らしたのか、オリバー様は苛々した様子で口を開いた。
「お前に問題があるんじゃないのか?」
「えっ……」
彼のその一言は、私の胸を深く切り裂いた。
(私に……問題が……?)
子供が出来ないのは事実だ。
だからもしかすると、本当に私に問題があるのかもしれない。
しかし、だとしてもそんな言い方は無いのではないか。
子供が出来なくて悩んでいるのは私だって一緒だ。
私は震える唇を無理矢理動かして否定した。
ここで肯定してしまうと、とうとう彼から捨てられてしまうかもしれない。
それが怖かった。
「旦那様……そんなことは……決して……」
「ハァ……もういい、下がれ」
オリバー様はため息をついて私を部屋から追い出した。
そして彼はその日から、私に指一本触れなくなった。
完全にお飾りの妻となってしまっている私を気にかけてくれているのだろう。
一人寂しく邸で過ごしていた私としては本当にありがたい。
レイラと過ごす時間は私にとって掛け替えのないものとなった。
そして依然としてオリバー様との仲を深めようと努力をしてはいるが、これといった成果は得られない。
相変わらず彼は私を嫌っているままだ。
(せめて私を嫌う理由を言ってくれればな……)
それに加えて最近は今まで以上に仕事が忙しいようでまともに彼と話せていない。
もう一週間は公爵邸に帰って来ていないのだ。
それと何故だか分からないが、使用人たちの出入りが激しく慌ただしいような気がする。
久々に邸に帰って来たオリバー様もどこかピリピリしているようだった。
(何だろう……?)
そんな彼らを不思議に思いながらも、あえて追及するようなことはしなかった。
面倒くさい女だと思われるのは嫌だったから。
妻は黙って夫に従っていればいいのだと使用人が前に言っていたし、ここで彼のすることに口出しをするのは正しいことではないだろう。
そう思いながら私は彼の行動をただ黙って見守っていた。
しばらくして、ようやく周囲が落ち着いた。
オリバー様は前よりも帰って来る頻度が減ったが、仕事が立て込んでいるのだと自分に言い聞かせた。
そして、ここで私はある大きな問題に直面することとなる。
その問題というのが、私に子供が出来ないことだった。
貴族の妻の最大の役目は後継者を産むことだ。
私にも正妻としての責任感というものはあった。
それを抜きにしても私は子供が好きだ。
オリバー様によく似た愛らしい子供がいたら良いのになと思う。
何度も医師の問診を受けているが、一向に子を授かる気配はない。
オリバー様と結婚してから既に一年が経っている。
私と同年代の貴族令嬢たちは次々に結婚し、全員が子供を産んでいた。
そんな話を聞いて何度羨ましくなったことか。
「……」
私は自身の平らな腹にそっと手を置いた。
子供でも出来れば私に無関心な彼も変わってくれるだろうかと期待していたが、それは一体いつになることやら。
結婚してすぐの頃は何度か夢を見たものだ。
愛しい人の子供を胸に抱き、幸せに過ごす日々を。
もしかするとそんな日は永遠に来ないのかもしれない、そう思ってしまう自分もいる。
(本当に、どうして私には子供が出来ないんだろう……?)
焦る気持ちも無いことはなかったが、そんなことを考えている時間が無駄だろう。
私はとりあえず気長に待つことにした。
***
オリバー様と結婚してから三年が経った頃、私はついに彼からの追及に遭った。
「何故子供が出来ない?」
「……」
突然執務室に私を呼び出した彼は、三年前とまるで変わらない冷たい眼差しで私を問い質した。
三年を夫婦として過ごしたというのに、私に対して少しも情を抱いていないようだった。
(何故……と言われても……)
――分からない。
何故子供が出来ないのかなんて私にも分からない。
そのため、私は彼からの質問に答えることが出来なかった。
黙り込む私にしびれを切らしたのか、オリバー様は苛々した様子で口を開いた。
「お前に問題があるんじゃないのか?」
「えっ……」
彼のその一言は、私の胸を深く切り裂いた。
(私に……問題が……?)
子供が出来ないのは事実だ。
だからもしかすると、本当に私に問題があるのかもしれない。
しかし、だとしてもそんな言い方は無いのではないか。
子供が出来なくて悩んでいるのは私だって一緒だ。
私は震える唇を無理矢理動かして否定した。
ここで肯定してしまうと、とうとう彼から捨てられてしまうかもしれない。
それが怖かった。
「旦那様……そんなことは……決して……」
「ハァ……もういい、下がれ」
オリバー様はため息をついて私を部屋から追い出した。
そして彼はその日から、私に指一本触れなくなった。
155
お気に入りに追加
6,955
あなたにおすすめの小説
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる