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クリスの幸せ

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それからしばらくして私たちは馬車に戻った。


お互いに一言も喋らないため馬車の中はシーンとしている。


私は先ほどのプロポーズを思い出して顔を赤くした。


クリスがあんなロマンチックなことを言うだなんて・・・。


私はそう思いながら目の前で座っているクリスを見た。


燃えるような赤い髪に少し冷たさを感じる切れ長の瞳。


顔も声も身体も、かつて恋焦がれた人とはまるで違う。


それなのに、今ではクリスが愛おしくて仕方がなかった。


「ふふっ・・・」


「何だよ。」


私がクリスを見て軽く笑うとクリスが顔をしかめて話しかけてきた。


「俺の顔に何かついてんのか?」


「ううん、そうじゃないの。」


「じゃあ一体何なんだよ。」


クリスは少し不機嫌そうだ。


その頬はほんの少しだけ赤くなっている。


本当に可愛い人・・・。


「クリスが可愛くって、つい笑ってしまったの。」


私がそう言うとクリスは顔を真っ赤にした。


「なっ・・・何だよそれ。」


そう言ってぷいっと顔を背けてしまう。


耳は真っ赤だ。


本当に・・・ずっとずっと私を想ってくれていたんだわ。


クリスは幼馴染として一緒にいた頃から私が好きだったと言っていた。


そしてその気持ちは今でも変わらないと。


「・・・クリス、ありがとう。」


私がそう言うとクリスは顔を私の方に向けて尋ねた。


「何がだ?」


「私をずっとずっと想ってくれて。」


これは紛れもない私の本心だ。


「私、こんなにも幸せになれるだなんて思っていなかった。正直エイドリアン殿下に婚約者候補から外されることを告げられて新しい婚約はもう望めないと思っていたわ。だけど・・・クリスがあの日私に自分の気持ちを伝えてくれて、私本当に嬉しかったの・・・。」


「・・・」


クリスは私の話をじっと聞いていた。


「本当にありがとう、クリス。」


私はそう言ってクリスに対してにっこりと笑った。


そんな私を見てクリスもふっと笑みを返した。


「・・・俺、実はずっと独身でいようと思っていたんだ。」


「え・・・?」


私はクリスの言葉に驚いた。


クリスはモーガン公爵家の次男で見目麗しく、令嬢たちからの人気も高かったはず。


そんなクリスと婚約したいと思う令嬢は後を絶たないはず・・・。


「どうして・・・?」


「お前が、好きだったから。」


「・・・!」


「俺はお前のことが本当に好きだった。お前がエイドリアン殿下を好きになった時は本当に辛かったし、全てがどうでもよくなった。」


クリスは当時のことを思い出したのかどこか悲しそうに語った。


「正直この先エレンと結ばれるのは無理だと思っていた。お前はエイドリアン殿下に惚れ込んでいたし、婚約者の最有力候補と言われていたから。エレンと結婚できないんだったら一生独身でいようってそう決めてた。」


「クリス・・・。」


「こんな日が来るとは思ってなかった。俺は今、最高に幸せだ。」


そう言ってクリスは瞳を潤ませた。


泣いているように見えるのは私の気のせいかしら・・・?


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