貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
36 / 54

国王陛下②

しおりを挟む
シャルルは驚いて言葉が出なかった。


この国の王が父と兄を殺して王位に就いたという話は有名である。


当時、王国中に衝撃が走った事件だ。


『狂った第二王子が、家族を皆殺しにした』


何故父上が血の繋がりを持つ家族を殺したのか、真意は明らかにされていない。


今は、そんな暴君の怒りを買うのを恐れてこの話をする人間はほとんどいなくなっている。


(だけど父上の口からその話を直接聞いたことは無かった・・・。聞けるはずがないし・・・。まさかこの部屋にそんな秘密があったなんて・・・。)


シャルルはふと王宮の使用人が話していたことを思い出した。


『国王陛下は絶対に自室で寝ることはなく、いつも執務室にあるソファで寝ている』


(・・・当時は不思議に思っていたが・・・そういう理由があったのか・・・。)


ずっと黙り込んでいるシャルルを見て国王が口を開いた。


「何だ?衝撃を受けているかのような顔だな?お前もこの話を知っているだろう?」


国王は不敵な笑みを浮かべながらじっとシャルルを見つめている。


「ええ、知っています。」


シャルルは正直に答えた。


「正直だな。そういうところは母親に似たのか。」


(父上が・・・母上の話をするなんて・・・。)


シャルルは父とこんなに長く話すのも、父が母の話をするのも初めてのことだった。


目の前にいる父は父ではないようだった。


「この国の民衆が私を何と呼んでいるか知っているか?」


シャルルは国王の言葉に戸惑いを見せた。


国王はそんなシャルルを無視して言葉を続けた。


「”王国の英雄”だと。」


国王はそれを面白がるように言った。


父が笑うところを見るのも久しぶりだ。


国王は公の場では一切笑わない人だったから。


シャルルはそんな父をずっと見つめていた。


「滑稽だな。血の繋がった父と兄を殺して王位に就いた男が”英雄”だなんて。」


『王国の英雄』


それは第二王子だった頃の国王の称号だった。


国王は実際戦争で何度も武功を立てていたのだ。


王子時代の国王は非常に優秀だった。


剣術の腕は兄である王太子を凌ぐほどで、彼を次期国王にと推す貴族も多かったと聞く。


(父と兄を殺した暴君ではあるが、今の王国があるのは間違いなく父上のおかげだから・・・王国の英雄という表現も間違ってはいない・・・。だけど父上はどうやらその呼び名を嫌っているようだ・・・。)


「お前」


突然呼ばれてハッとなる。


シャルルが父の方を見た。


「さっきも聞いたが、何しにここへ来た?」


国王がシャルルをじっと見据え、問う。


その瞳は冷徹で、いつもの国王だった。


一介の貴族なら逃げだしてしまうほどに美しく、恐ろしい。


だがシャルルがそれに怯むことは無かった。


「・・・父上と話がしたかったからです。」


シャルルが覚悟を決めたような瞳で父を見つめて言った。


国王も表情を変えることはない。


「・・・言ってみろ。」


(まさかここで話すのか!?)


シャルルは驚いたが平静を装って口を開いた。


「父上、今すぐに退位してください。」


シャルルは父から目を逸らさずに、言った。


それを聞いた国王の瞳が鋭く光った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

幼馴染だけを優先するなら、婚約者はもう不要なのですね

新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアと婚約関係を結んでいたグレイ男爵は、自身の幼馴染であるミラの事を常に優先していた。ある日、グレイは感情のままにアリシアにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。アリシアはそのままグレイの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。グレイとミラはその事を大いに喜んでいたが、アリシアがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。

【完結】初恋の人も婚約者も妹に奪われました

紫崎 藍華
恋愛
ジュリアナは婚約者のマーキースから妹のマリアンことが好きだと打ち明けられた。 幼い頃、初恋の相手を妹に奪われ、そして今、婚約者まで奪われたのだ。 ジュリアナはマーキースからの婚約破棄を受け入れた。 奪うほうも奪われるほうも幸せになれるはずがないと考えれば未練なんてあるはずもなかった。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

処理中です...