貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

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国王陛下②

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シャルルは驚いて言葉が出なかった。


この国の王が父と兄を殺して王位に就いたという話は有名である。


当時、王国中に衝撃が走った事件だ。


『狂った第二王子が、家族を皆殺しにした』


何故父上が血の繋がりを持つ家族を殺したのか、真意は明らかにされていない。


今は、そんな暴君の怒りを買うのを恐れてこの話をする人間はほとんどいなくなっている。


(だけど父上の口からその話を直接聞いたことは無かった・・・。聞けるはずがないし・・・。まさかこの部屋にそんな秘密があったなんて・・・。)


シャルルはふと王宮の使用人が話していたことを思い出した。


『国王陛下は絶対に自室で寝ることはなく、いつも執務室にあるソファで寝ている』


(・・・当時は不思議に思っていたが・・・そういう理由があったのか・・・。)


ずっと黙り込んでいるシャルルを見て国王が口を開いた。


「何だ?衝撃を受けているかのような顔だな?お前もこの話を知っているだろう?」


国王は不敵な笑みを浮かべながらじっとシャルルを見つめている。


「ええ、知っています。」


シャルルは正直に答えた。


「正直だな。そういうところは母親に似たのか。」


(父上が・・・母上の話をするなんて・・・。)


シャルルは父とこんなに長く話すのも、父が母の話をするのも初めてのことだった。


目の前にいる父は父ではないようだった。


「この国の民衆が私を何と呼んでいるか知っているか?」


シャルルは国王の言葉に戸惑いを見せた。


国王はそんなシャルルを無視して言葉を続けた。


「”王国の英雄”だと。」


国王はそれを面白がるように言った。


父が笑うところを見るのも久しぶりだ。


国王は公の場では一切笑わない人だったから。


シャルルはそんな父をずっと見つめていた。


「滑稽だな。血の繋がった父と兄を殺して王位に就いた男が”英雄”だなんて。」


『王国の英雄』


それは第二王子だった頃の国王の称号だった。


国王は実際戦争で何度も武功を立てていたのだ。


王子時代の国王は非常に優秀だった。


剣術の腕は兄である王太子を凌ぐほどで、彼を次期国王にと推す貴族も多かったと聞く。


(父と兄を殺した暴君ではあるが、今の王国があるのは間違いなく父上のおかげだから・・・王国の英雄という表現も間違ってはいない・・・。だけど父上はどうやらその呼び名を嫌っているようだ・・・。)


「お前」


突然呼ばれてハッとなる。


シャルルが父の方を見た。


「さっきも聞いたが、何しにここへ来た?」


国王がシャルルをじっと見据え、問う。


その瞳は冷徹で、いつもの国王だった。


一介の貴族なら逃げだしてしまうほどに美しく、恐ろしい。


だがシャルルがそれに怯むことは無かった。


「・・・父上と話がしたかったからです。」


シャルルが覚悟を決めたような瞳で父を見つめて言った。


国王も表情を変えることはない。


「・・・言ってみろ。」


(まさかここで話すのか!?)


シャルルは驚いたが平静を装って口を開いた。


「父上、今すぐに退位してください。」


シャルルは父から目を逸らさずに、言った。


それを聞いた国王の瞳が鋭く光った。


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