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エイドリアン殿下③

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「・・・殿下。あなたがご両親に愛されず、辛い思いをしていたというのは分かります。ですがいつまでも過去に囚われるのではなく、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。」


「前に・・・踏み出す・・・?」


「はい。殿下を愛してくれる方はきっとこの先もたくさん現れるでしょう。その方たちのために生きるのです。」


「自分を愛してくれる人たちのために生きる、か。」


殿下はじっと黙り込んだ。


そしてしばらくして口を開く。


「そんなの、考えたこともなかった・・・。生きる意味なんて・・・。僕はずっと、何のために自分が生きているのか分からなかった。確実に王座に就きたいという思いがあるわけでもなかったし、何か別の目標があったわけでもない。だけど・・・」


殿下はその瞬間フッと微笑んだ。


その姿は絵画のように美しい。


「それもいいのかもしれないな・・・。」


最初に私たちが見た廃人のような殿下とは比べ物にならないほど穏やかな顔だった。



「ゴホン」


突然割って入ってきたのはクリスだった。


「クリス・・・?」


「モーガン公爵令息・・・。」


私とエイドリアン殿下が揃ってクリスの方を見た。


「エイドリアン殿下。シャルル殿下の命であなたを自室に軟禁します。」


「・・・」


エイドリアン殿下は何も答えなかった。


泣き喚くこともなく、暴れるわけでもなく、ただじっとクリスを見つめていた。


「エレン、行くぞ。」


クリスはいらいらした顔で私の手首をつかんで部屋の扉へと向かっていた。


「あ、ちょっ、待ってよ、クリス!」


私は慌ててクリスについて行く。


その時、後ろから不意に声がかかった。


「エレン、モーガン公爵令息。」


私とクリスは足を止めて振り返った。


すると先ほどまでベッドでうずくまっていたエイドリアン殿下がいつの間にか立ち上がっていた。


「婚約おめでとう。どうか幸せになってくれ。」


その時のエイドリアン殿下は信じられないほど穏やかで慈しむような笑みを浮かべていた。


同時に、何かから解放されたようだった。


「ありがとうございます、殿下。」


私は殿下に向けて精一杯の笑みを見せて言った。


「ありがとうございます。エレンのことは私が幸せにしますからご心配なく。」


隣にいたクリスは決意を固めた目を向けて言った。


「ははは、そうか。頼もしいな。」


エイドリアン殿下は軽く笑った。


そして私はクリスに連れられてエイドリアン殿下の部屋を出た。


既に部屋の前には騎士たちが立っていて殿下が部屋から絶対に出れないようになっている。


これでエイドリアン殿下は今この瞬間から自室に軟禁されたということになった。




そして私とクリスは廊下を歩いていた。


この後お父様と合流する予定だ。


「・・・クリス。」


私は前を歩いていたクリスを呼び止めた。


「何だ・・・?」


クリスがゆっくりと振り返った。


「エイドリアン殿下はきっと、更生できるでしょう。」


それを聞いたクリスはじっと考え込むような素振りを見せ、しばらくしてから軽く頷いた。


「・・・そうだな。」


私とクリスは再び廊下を歩いた。


王宮の窓から差し込む夕日が私たちを照らしていた。


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