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エイドリアン殿下②

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「君は・・・そこまで僕のことが・・・好きだったのか?」


「だから、そう言ってるじゃないですか。」


私は未だ止まらない涙をはらはらと流しながら言った。


「エレン・・・ごめんね・・・。」


その時、エイドリアン殿下が私と同じように涙を流した。


「・・・気づくのが遅すぎるんですよ。」


私は泣いているエイドリアン殿下を見つめて再び口を開いた。


「私だけではありませんよ。シャルル殿下もあなたを兄として慕っているはずです。」


私のその言葉にエイドリアン殿下は少し驚いたような顔をした。


「・・・シャルルが?」


「はい。シャルル殿下は私にエイドリアン殿下と幼少期、よく遊んでいたとおっしゃっていましたが。」


それを言った瞬間、気のせいかエイドリアン殿下の表情が少し穏やかになった気がした。


きっと王宮の中でそれはエイドリアン殿下にとって唯一の楽しみだったのだろう。


「・・・さっきも言ったけど、シャルルは王になるために生まれてきたかのような人間だった。同じ王子でも僕は全てがシャルルの劣化版だ。王太子に選ばれた時、心のどこかでシャルルの方が王にふさわしいと思っている自分がいた。シャルルは僕が王になることに賛成していたが、シャルルに対する罪悪感や劣等感は消えなかった。それでシャルルに会うのが気まずくてかなりの期間避け続けていた。もう嫌われていると思っていた・・・。」


そう言って俯いたエイドリアン殿下を見てクリスが納得した様子で口を開いた。


「なるほど、それで長い間シャルル殿下を避けていたと。不仲説が流れるわけだ。」


「・・・シャルルと比べられるのが辛かったんだ。シャルルが僕よりも優秀なことなんて僕自身が一番知っている。僕がシャルルより優れているところなんて一つもない。」


「殿下、そんな風に自分を卑下しないでくださいませ。」


「エレン・・・?」


私の言葉にエイドリアン殿下が顔を上げた。


「殿下、あなたは人として大切なものを持ち合わせています。」


「人として、大切なもの・・・?」


「はい。殿下は人を思いやれる方です。私は殿下のそんなところにも惹かれたんですよ。あなたは優しい方です。」


「エレン・・・。」


そう、私は昔から殿下が優しい方だということをよく知っている。


そこが彼の長所ともいえるだろう。


「っ・・・!僕はっ・・・!優しい人なんかじゃないっ・・・!現に君を傷つけたではないか・・・。手をあげようともした・・・!最低な男だ・・・。」


殿下が苦しそうな顔をして言った。


「・・・確かに私は殿下にひどいことをされました。」


私がそう言った途端殿下の肩がビクッとなった。


「だけどそれは、最愛の女性であるリサ様を想ってやったことでしょう?リサ様が私に傷つけられている、そう思ったから公爵邸に乗り込んできたのでしょう?」


私は殿下に向かって微笑んだ。


「・・・」


殿下はじっと私を見つめている。


「まぁ、王族としては失格ですが。」


その言葉に殿下がギクリとなった。


「愛する女性のために、そこまでした殿下は十分素敵な殿方と言えるでしょう。」


「素敵な・・・殿方・・・」


殿下の頬が少しだけ赤くなる。


私の言葉に照れているようだ。


私も滝のように流れていた涙が、いつの間にか止まっていた。


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