貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
31 / 54

怨念 側妃マリアベルside

しおりを挟む
軍馬に乗り、僕を含めた新生リガード竜騎士団騎士35名の部隊は、同盟国であるアスデン王国マージラス砦を目指し、王都から出撃となった。

みんなの体調、軍馬の体調を気遣いながら、3日後の早朝に到達を目標とした。

元ツォルバ騎士団騎士長のウガニエムは、帰還後、空席のリガード竜騎士団副騎士長の座に就く。





ザシンは、ディオガルーダの動きを兵に監視させていた。



ディオガルーダが竜の祭壇へ向かったと報告を受けた時、ザシンは複数の騎士を連れ、動き出していた。




よろめきながら歩いていたディオガルーダを見つけた時、深い傷を負いながらも、少し笑顔を見せていたらしい。



久々のウイプル、とても懐かしかったよ。



もう二度と会う事はないだろうと。





全ての用を終えた今、この国を去る、と。





そう言って、ディオガルーダは治療を受けてすぐにウイプルから出ていってしまったんだ。











僕の口の中に血が溜まり、時折、吐き出した。







体中の傷が、破裂しそうなほど痛む。










恐らく、ディオガルーダもそうだ。













死ぬな、ディオガルーダ。









死なないでくれ。











荒野を軍馬で駆けながら、必死にそう願った。









ディオガルーダはジゼベルガロフの竜王、ゾーファルの元へ帰っていった。











この時には、薄々とわかっていたのかも知れない。



ディオガルーダが黒い鎧姿でウイプルに入って、僕と最初に出会った時に持っていた細長い鉄の筒、それはザシンから僕に渡った。



竜を鎮めるもの。



ダルレアス自治領にない方がいいからと、僕に渡したんだ。



紫雷刀身竜ゲボルトベルザスドラゴンは老衰していて、存在がわからないくらいに静かで、暴れてもいなかった。



竜使いのザシンへの手土産に持ってきた?



まだウイプルに竜が多くいると思っていた?





ディオガルーダが、僕に悲しみの感情を持っていた。





何故、このウイプルを、僕を竜の血を持つ者としてわかっていながら、人間側に立てと、お母様と同じ事を言った?





お母様を、貴覇竜スカリテラスと本名で言った?





アスデン王国マージラス砦の戦いの前だから、わざとわからない振りをしていたけど。





お母様の書室で、破かれた紙片を見つけていたんだ。







ディオガルーダとは違う、名前が書かれていた。









僕の思った通りだったなら、

僕がディオガルーダから流れてきた感情に、ごめんなさい、どうか許してと、思った心は、間違いじゃなかった。








簡易テントを張り、休息して兵の体調を整え、軍馬の体調を気にし、コーリオ王国領に入らぬ様に迂回してアスデン王国を目指した。



僕の治癒能力は高い。



それでも、体調は上がらなかった。



体の傷は疼き、口の中は気づけば血の海となっていたけど。









ベルベッタはもう、笑えないんだよ。



好きな花も、食べられない。



もう、竜の山に戻れない。



また、2人で仲良く、戯れる事も、できないんだ。




___________

地平線から日が顔を見せたばかりの薄暗い周辺、開かれた道を通らず、木々に隠れながら進めていった。緩やかな上り坂の上方に日を背に佇む、両端に三角屋根を伸ばした大きな建物が見えた。



それが、マージラスの砦。



切石の塁壁るいへきが横に長く広がり、見張り台が手前奥四隅、真ん中に高さのない主塔が見え、上部にアスデン王国の紋章が彫られている。 





ダラメイズ、僕は来たぞ。






許しを請う必要などない、ただそのまま散ればいい。







火蓋はすでに切られているんだ。








僕は合図を出し、中央から左に12名の騎士を僕が引き連れ、右に13名の騎士をウガニエムが引き連れ、軍馬に拍車をかけ、突撃した。



それぞれ2名ずつの騎士が軍馬で駆けながらも、火薬の塗られた矢先に、火打ち石で発火させ、火矢をマージラスの砦に向かって構える。






その矢は立て続けに躊躇なく、放たれた。




火矢は狙った場所に的確に捉え、次々と砦内に入っていった。






正門は橋が蓋をして正面突破はできない。



火矢の攻撃に見張りの兵が気づき、見張り台から激しく警鐘が打ち鳴らされ、砦内で音が反響していた。




間もなく、砦の塁壁の上から何十人ものアスデン王国の兵が姿を現して、弓矢が僕らを見つけ、躊躇なく矢を放ってきた。





その放たれた矢の雨を僕らは身に受ける事なくかわし、軍馬でマージラス砦の周りを駆け巡り、再び火矢を放つ。



あの砦の壁の高さ程度であれば、僕の軍馬なら駆け上る事もできたけど、マージラス砦の駐屯兵には猶予を与えるつもりだった。



このまま火矢を甘んじて受ける訳もなく、橋を下ろし、正面の扉を開け、兵を送り出すかと思ったが、籠城を貫くつもりか、中々出てこない。





僕らウイプルのリガード竜騎士団は、小国の割に大国に劣らないほどの強力な部隊だと、恐れられている。





そのウイプルに対して、対応が遅れたと、後悔しても、もう遅い。





ダラメイズの命ある限り、止む事はない。









この世での償いは、無用だ。










リガード竜騎士団の騎士の火矢は、マージラス砦内の何かに燃え移り、火消しに兵が持っていかれているのがわかる。






こちらがさらに攻勢に出れば、アスデン王国の兵に死人が出始めるだろう。






この時に、僕は砦の正面に回り、声を張り上げた。








こちらはウイプル王国リガード竜騎士団のアスカ・グリーンディ、そして組する騎士の部隊である。






同盟国交流強化期間に、我が国、ウイプル王国内で凶行を繰り返し行ったマージラス砦守備隊長ダラメイズに用がある。扉を開け、姿を現せ。









そう言って、僕はダラメイズをいち早くこの場に出させようとした。







マージラス砦の弓兵から放たれる矢の本数は減っても、まだ射抜こうと僕を狙ってきた。






それに対して、こちらの騎士も火矢を放ち続ける。








砦から細長い煙が上がり、鎮火が遅れている事がわかった。








ここから先は、死人が出る。互いに戦に身を投じる者同士、覚悟を決めて戦うしかないか、と。







僕は、ダラメイズがウイプルの許可外の区域に入ろうとした時の事を思い出したんだ。



これが、最後だ。



心に浮かんだ言葉を、声を張り上げて口にした。












ウイプルで、少しは楽しませろと言ったな。



お前はどうか。



随分と退屈な男じゃないか。



マージラスの砦に隠れ、



男としての誇りをなくし、



無力な女を背後から斬る事が、



お前の取り柄か。





姿を現せ、マージラス砦守備隊長ダラメイズ。





お前の凶行、決して許しはしない。








ウイプル王国リガード竜騎士団のアスカ・グリーンディ、






ここで、お前との一騎討ちで、決着をつける事を提案する。








どちらが死んでも、他の者に手出しは無用。







これを拒めば、このアスカ・グリーンディ、命を賭しても、



アスデン王国マージラス砦を陥落させる事を、宣言する。










これが僕の彼に対する最終通告だった。



ウイプルにいたダラメイズは、誇りが過剰に高そうに見えた。

女を誘い、相手が断れば剣を抜く様な男だ。

誇りを傷つけられただろう。

この砦の多くの駐屯兵に男を見せるか、ダラメイズ。

それとも、砦に引っ込んだまま、リガード竜騎士団とやり合うか。

砦から逃げない様に、この砦の背後は気にしている。

逃しはしない。










マージラス砦から矢は来なくなった。



僕の元に、ウイプルの騎士が集まってくる。









しばらくして、マージラス砦の正面扉を塞いでいた橋が降りた。









そして、正面扉が開いたんだ。








アスデン王国の兵50名に囲まれ、波立つ金髪の鎧姿、ダラメイズが姿を現した。



鬼の形相。



誇りを傷つけられたという顔をしている。



元ツォルバ騎士団騎士長ウガニエムは、僕に呟いた。

兵を配置していたけど、やられてしまった。

私達の恨みも、晴らしてほしい、と。



そう。

僕らはベルベッタのいた位置から、そう遠くなかったんだ。



ベルベッタ、今、お前のかたきを討つから、と。



僕はこの場にいる様にと新生リガード竜騎士団の騎士達を手で制し、ダラメイズのいる場所へ歩いていった。





意外にも、ダラメイズも自分の兵達を解いて、1人でこちらへ歩いてきた。



日が先ほどより上り、大地に広く光が届いていた。





砦の矢狭間から、矢先が光る。



僕を狙っているのは、明らかだった。







ダラメイズは不敵に笑って、剣を抜いてきた。



アスデン王国に盾突く小国ウイプルの小僧が、と言ってきた。



少し唇を震わせている。



ウイプルで会った僕が、あの忌まわしい名を持つ男と思わなかっただろう。

















時間は、戻るためにあるんじゃない。





進むためにあると、言った人がいた。






頭では理解していた僕は。








心では、何もわかっていなかった。








とても、苦しくて。




時間よ止まれと、言いたくもなった時もあった。








ベルベッタ。









お前は、もう戻らない。









それでも、お前は。









僕の心と共にある。








これからも、ずっと。















さあ、








一緒に戦うよ、ベルベッタ。





___________
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

手順を踏んだ愛ならばよろしいと存じます

Ruhuna
恋愛
フェリシアナ・レデスマ侯爵令嬢は10年と言う長い月日を王太子妃教育に注ぎ込んだ 婚約者であり王太子のロレンシオ・カルニセルとの仲は良くも悪くもなかったであろう 政略的な婚約を結んでいた2人の仲に暗雲が立ち込めたのは1人の女性の存在 巷で流行している身分差のある真実の恋の物語 フェリシアナは王太子の愚行があるのでは?と覚悟したがーーーー

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私が再婚したら急に焦り始めた元旦那様のお話

新野乃花(大舟)
恋愛
ドレッド侯爵とアリステラは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるエレスの事ばかりを気にかけ、アリステラの事を放置していた。ある日の事、しきりにエレスとアリステラの事を比べる侯爵はアリステラに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後アリステラがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

処理中です...