21 / 27
番外編
21 愛する人 リリー視点
しおりを挟む
「うふふ♪」
王宮の一室にて。
久々に華やかなドレスに身を包んだ私は、明らかに自分より身分が上であろう王宮の侍女たちに身体の手入れをさせていた。
貴族令嬢に自分の世話をさせるのは本当に気持ちが良い。
(リアム様の寵姫だったあの頃に戻ったみたいね)
一時はどうなることかと思ったが、生まれ持った美貌というのは本当に役に立つ。
実際、この顔だけで私は平民から二度も王の寵姫になったのだから。
(楽勝だわ。今回も仕事は全て王妃に押し付けて私は寵姫として王宮で悠々自適な暮らしを送ってやる)
あの頃の贅沢三昧な生活を思い浮かべて、つい笑みが零れる。
「国王陛下はどちらへいるのかしら?」
「陛下は執務室におられます」
「そう、会いに行くわ!」
「……今からですか?執務の邪魔になられるかと」
「愛する女が会いに来るというのに何が問題なのかしら?」
私がそう言うと、侍女は呆れたようにハァとため息をついた。
(何よこの女!私が平民だからって見下してるのね!いいわ、後で陛下に言って追い出してもらうから!)
寵姫というのは、時には王妃よりも権力を持つことが出来るのだ。
現にリアム様の寵姫だったときもそうだった。
彼は私を溺愛し、私の言うことは何でも聞いてくれた。
(新しく恋人関係になった国王陛下だって私のことを深く愛しているもの!彼に言えば何だって望みを叶えてくれるはずよ)
そんなことを考えながら、私は軽い足取りで陛下のいる執務室へと向かった。
「陛下!」
「……リリー?」
部屋に入ってすぐ、椅子に座っていた陛下に抱き着いた。
「……」
背後に控えていた侍従が眉をひそめたが、そんなもの気にしない。
実際、当の本人が不快に思っていないのだから何の問題も無い。
「会いたかったです、陛下!」
「ああ、私もだ」
満面の笑みを浮かべて甘えると、彼は私を膝の上に座らせた。
「執務が忙しく、なかなか会いに行けなくてすまなかったな」
「いえ、私は平気ですわ。それより、そんなに多忙だったなんて全く知りませんでした。体調を崩されていないか心配です」
「リリーは優しいな……私も平気だからそう不安にならないでいい」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
(ああ……最高だわ……)
私が亡命してきた隣国の国王陛下は眉目秀麗な上に文武両道であり、とても紳士的な方だ。
国民たちからも慕われており、賢王と名高い人である。
(こんなにも完璧な男性は出会ったことが無いわ……)
彼を落とすつもりが、逆に私が落とされてしまっていることに気付いたのはつい最近だ。
私はどうやら彼を本気で好きになってしまったらしい。
馬鹿なリアム様のことは愛してなどいなかったが、この人は違う。
「陛下、今日は私の部屋へ来てくださいますか?」
「ああ、もちろんだ。君は私の寵姫だからな」
陛下はフッと優しく微笑んだ。
その笑みにまた胸が高鳴る。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
(この私が誰かに恋をする日が来るなんてね……)
それほどに彼は素晴らしい人だ。
これから先の陛下との幸せな生活を想像しただけで心が満たされた。
「リリー」
「はい、陛下」
「この王宮で暮らす上で、一つ君に言っておかなければならないことがある」
「……言っておかなければならないこと?」
陛下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……王妃には出来るだけ関わらないでほしいんだ」
「王妃様に……ですか?」
私の愛する彼は五年前に結婚していて、正妻となる女性がいる。
それがこの国の王妃様だった。
(王妃様はたしか公爵家の令嬢だったっけ……よくある政略結婚ってやつね……)
――ああ、何て優しい陛下。
きっとその王妃様はとても心が醜いのだろう。
だからこそ、私に彼女とは関わるななんてことを言うのだ。
(陛下だって被害者なのに……)
好きでもない人と結婚させられて本当に可哀相。
彼は私を愛しているのに、王妃様が身分を笠に着て私たちを引き裂いているのだ。
「分かったか?」
「……はい、陛下。肝に銘じます」
口ではそう言ったものの、このときの私は全く別のことを考えていた。
(待っててね、私の愛する人)
――貴方の憂いとなっている王妃様は私が排除してあげるから。
王宮の一室にて。
久々に華やかなドレスに身を包んだ私は、明らかに自分より身分が上であろう王宮の侍女たちに身体の手入れをさせていた。
貴族令嬢に自分の世話をさせるのは本当に気持ちが良い。
(リアム様の寵姫だったあの頃に戻ったみたいね)
一時はどうなることかと思ったが、生まれ持った美貌というのは本当に役に立つ。
実際、この顔だけで私は平民から二度も王の寵姫になったのだから。
(楽勝だわ。今回も仕事は全て王妃に押し付けて私は寵姫として王宮で悠々自適な暮らしを送ってやる)
あの頃の贅沢三昧な生活を思い浮かべて、つい笑みが零れる。
「国王陛下はどちらへいるのかしら?」
「陛下は執務室におられます」
「そう、会いに行くわ!」
「……今からですか?執務の邪魔になられるかと」
「愛する女が会いに来るというのに何が問題なのかしら?」
私がそう言うと、侍女は呆れたようにハァとため息をついた。
(何よこの女!私が平民だからって見下してるのね!いいわ、後で陛下に言って追い出してもらうから!)
寵姫というのは、時には王妃よりも権力を持つことが出来るのだ。
現にリアム様の寵姫だったときもそうだった。
彼は私を溺愛し、私の言うことは何でも聞いてくれた。
(新しく恋人関係になった国王陛下だって私のことを深く愛しているもの!彼に言えば何だって望みを叶えてくれるはずよ)
そんなことを考えながら、私は軽い足取りで陛下のいる執務室へと向かった。
「陛下!」
「……リリー?」
部屋に入ってすぐ、椅子に座っていた陛下に抱き着いた。
「……」
背後に控えていた侍従が眉をひそめたが、そんなもの気にしない。
実際、当の本人が不快に思っていないのだから何の問題も無い。
「会いたかったです、陛下!」
「ああ、私もだ」
満面の笑みを浮かべて甘えると、彼は私を膝の上に座らせた。
「執務が忙しく、なかなか会いに行けなくてすまなかったな」
「いえ、私は平気ですわ。それより、そんなに多忙だったなんて全く知りませんでした。体調を崩されていないか心配です」
「リリーは優しいな……私も平気だからそう不安にならないでいい」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
(ああ……最高だわ……)
私が亡命してきた隣国の国王陛下は眉目秀麗な上に文武両道であり、とても紳士的な方だ。
国民たちからも慕われており、賢王と名高い人である。
(こんなにも完璧な男性は出会ったことが無いわ……)
彼を落とすつもりが、逆に私が落とされてしまっていることに気付いたのはつい最近だ。
私はどうやら彼を本気で好きになってしまったらしい。
馬鹿なリアム様のことは愛してなどいなかったが、この人は違う。
「陛下、今日は私の部屋へ来てくださいますか?」
「ああ、もちろんだ。君は私の寵姫だからな」
陛下はフッと優しく微笑んだ。
その笑みにまた胸が高鳴る。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
(この私が誰かに恋をする日が来るなんてね……)
それほどに彼は素晴らしい人だ。
これから先の陛下との幸せな生活を想像しただけで心が満たされた。
「リリー」
「はい、陛下」
「この王宮で暮らす上で、一つ君に言っておかなければならないことがある」
「……言っておかなければならないこと?」
陛下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……王妃には出来るだけ関わらないでほしいんだ」
「王妃様に……ですか?」
私の愛する彼は五年前に結婚していて、正妻となる女性がいる。
それがこの国の王妃様だった。
(王妃様はたしか公爵家の令嬢だったっけ……よくある政略結婚ってやつね……)
――ああ、何て優しい陛下。
きっとその王妃様はとても心が醜いのだろう。
だからこそ、私に彼女とは関わるななんてことを言うのだ。
(陛下だって被害者なのに……)
好きでもない人と結婚させられて本当に可哀相。
彼は私を愛しているのに、王妃様が身分を笠に着て私たちを引き裂いているのだ。
「分かったか?」
「……はい、陛下。肝に銘じます」
口ではそう言ったものの、このときの私は全く別のことを考えていた。
(待っててね、私の愛する人)
――貴方の憂いとなっている王妃様は私が排除してあげるから。
725
お気に入りに追加
1,552
あなたにおすすめの小説
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。
誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~
舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」
わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。
ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。
驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。
※話自体は三人称で進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる