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本編
14 エピローグ
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私はそのまま早足で部屋へと戻る。
王宮の廊下を歩いている最中に思い出すのはあの頃の記憶。
仕事を押し付けられ、暴力を振られ、罵詈雑言を浴びせられた日々。
何度も泣いたし、生きている意味など感じなかった。
ただただ辛いだけの日常。
(もう終わったことなはずなのに……どうして今になって……)
気付けば目から涙が溢れていた。
ほとんど忘れかけていたのに、再びここへやって来たリアム陛下を見て思い出してしまったようだ。
「……」
泣いているところを見られたくなくて俯いた。
女王になったというのに、未だに心は弱いままなのか。
私はそのまま王宮の廊下を走っていた。
行く当ても無く、ただ胸に残る苦しさを紛らわせるために走り続けた。
そのときだった――
――ドンッ!
前を見ていなくて誰かにぶつかってしまったようだ。
「キャッ!」
私は反動で後ろへ倒れそうになったがギュッと抱き留められる。
「も、申し訳ありま…………………って、あなた」
「マルガレーテ、大丈夫かい?」
驚くことに、ぶつかったのはこの国の王配であり、私の夫でもあるエミリオだった。
彼は最初こそ優しく笑みを浮かべていたが、私の顔を見てすぐに真顔になった。
「……マルガレーテ、何故泣いているんだ?」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「………嫌なことを思い出してしまったの」
「そうか………」
そこで、エミリオは私を力強く抱きしめた。
「マルガレーテ、君はもう一人じゃない。君を愛してくれる優しい両親がいるだろう。僕もいる。それでも怖いか?」
「……!」
彼の大きな胸に包まれて、ようやくそのことを再認識した。
(そうだわ……私はもう一人じゃない……!)
あの頃は窮屈な王宮に常に一人ぼっちだった。
両親とは引き離され、夫となった人は私を嫌っていた。
王と寵姫を恐れていたからか、誰も表立って私の味方をしてくれることはなかった。
だけど、今は違う。
(私ったら……どうしてそんな大事なことを忘れていたのかしら……)
私はこの国の女王。
お父様とお母様がいて、何よりエミリオもいる。
あの頃とは全てが違うのだ。
――怖いものなど、何も無い。
「ええ、そうね。ありがとう、エミリオ」
私はそう言ってエミリオに笑いかけた。
それを見た彼も私に優しく笑い返した。
◇◆◇◆◇◆
そのとき、ちょうど王宮のとある一室の窓からマルガレーテとリアムの様子をじっと見ていた人物がいた。
「ふぅ……」
それはマルガレーテの母である公爵夫人だった。
彼女はお茶を一口飲んで面白そうにその光景を見ていた。
部屋には父である公爵も一緒だった。
「うふふ、なかなか面白いことになっていますわね」
公爵夫人はクスクス笑いながら窓の外をじっと見つめていた。
そしてそんな妻を、公爵はじっと見つめた。
その笑みがとても恐ろしいもののように感じるのはきっと彼だけではないはずだ。
「……お前は」
そのときの公爵の頭をよぎったのは十年前の謀反を起こした日のことだった。
『旦那様、あの馬鹿二人は放っておけばいいでしょう』
『何を言っている!?民を、可愛いマルガレーテをあんなに苦しめたヤツらだぞ!?放ってなどおけるか!』
『だからこそ……ですわ。きっと数年後、面白いものが見れるでしょう』
(……)
公爵は小さな声でポツリと呟いた。
「お前は……こうなることを分かっていたのか……?」
「……」
その声が公爵夫人に届くことは無かった。
――――――――――
番外編でリアム視点と寵姫のその後をやります。
王宮の廊下を歩いている最中に思い出すのはあの頃の記憶。
仕事を押し付けられ、暴力を振られ、罵詈雑言を浴びせられた日々。
何度も泣いたし、生きている意味など感じなかった。
ただただ辛いだけの日常。
(もう終わったことなはずなのに……どうして今になって……)
気付けば目から涙が溢れていた。
ほとんど忘れかけていたのに、再びここへやって来たリアム陛下を見て思い出してしまったようだ。
「……」
泣いているところを見られたくなくて俯いた。
女王になったというのに、未だに心は弱いままなのか。
私はそのまま王宮の廊下を走っていた。
行く当ても無く、ただ胸に残る苦しさを紛らわせるために走り続けた。
そのときだった――
――ドンッ!
前を見ていなくて誰かにぶつかってしまったようだ。
「キャッ!」
私は反動で後ろへ倒れそうになったがギュッと抱き留められる。
「も、申し訳ありま…………………って、あなた」
「マルガレーテ、大丈夫かい?」
驚くことに、ぶつかったのはこの国の王配であり、私の夫でもあるエミリオだった。
彼は最初こそ優しく笑みを浮かべていたが、私の顔を見てすぐに真顔になった。
「……マルガレーテ、何故泣いているんだ?」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「………嫌なことを思い出してしまったの」
「そうか………」
そこで、エミリオは私を力強く抱きしめた。
「マルガレーテ、君はもう一人じゃない。君を愛してくれる優しい両親がいるだろう。僕もいる。それでも怖いか?」
「……!」
彼の大きな胸に包まれて、ようやくそのことを再認識した。
(そうだわ……私はもう一人じゃない……!)
あの頃は窮屈な王宮に常に一人ぼっちだった。
両親とは引き離され、夫となった人は私を嫌っていた。
王と寵姫を恐れていたからか、誰も表立って私の味方をしてくれることはなかった。
だけど、今は違う。
(私ったら……どうしてそんな大事なことを忘れていたのかしら……)
私はこの国の女王。
お父様とお母様がいて、何よりエミリオもいる。
あの頃とは全てが違うのだ。
――怖いものなど、何も無い。
「ええ、そうね。ありがとう、エミリオ」
私はそう言ってエミリオに笑いかけた。
それを見た彼も私に優しく笑い返した。
◇◆◇◆◇◆
そのとき、ちょうど王宮のとある一室の窓からマルガレーテとリアムの様子をじっと見ていた人物がいた。
「ふぅ……」
それはマルガレーテの母である公爵夫人だった。
彼女はお茶を一口飲んで面白そうにその光景を見ていた。
部屋には父である公爵も一緒だった。
「うふふ、なかなか面白いことになっていますわね」
公爵夫人はクスクス笑いながら窓の外をじっと見つめていた。
そしてそんな妻を、公爵はじっと見つめた。
その笑みがとても恐ろしいもののように感じるのはきっと彼だけではないはずだ。
「……お前は」
そのときの公爵の頭をよぎったのは十年前の謀反を起こした日のことだった。
『旦那様、あの馬鹿二人は放っておけばいいでしょう』
『何を言っている!?民を、可愛いマルガレーテをあんなに苦しめたヤツらだぞ!?放ってなどおけるか!』
『だからこそ……ですわ。きっと数年後、面白いものが見れるでしょう』
(……)
公爵は小さな声でポツリと呟いた。
「お前は……こうなることを分かっていたのか……?」
「……」
その声が公爵夫人に届くことは無かった。
――――――――――
番外編でリアム視点と寵姫のその後をやります。
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