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本編

12 女王マルガレーテ

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あれから十年の月日が経った。


マルガレーテは女王として即位し、それをきっかけに、この国の女性に対する扱いがかなり変わった。


爵位を継承できるのは男児のみ。
これは数年前までシュベール王国では当然のこととなっていた。
しかし最近では、性別関係なく一番優秀な者に爵位を継承するべきだという考えの貴族が増えてきている。


それも全てマルガレーテが女王になったのがきっかけだ。


加えて、シュベール王国では長い間女性より男性の方が政治において優秀だとされてきた。
しかし、先代のリアム陛下はお世辞にも優秀とは言えず、結局は国を滅茶苦茶にしてしまった。
リアム陛下はこの先も愚王として歴史に名を残すこととなるだろう。


それに比べてマルガレーテ女王陛下はどうだろうか。
彼女はとても優秀な女性だった。
数多くの功績を残し、先王が崩壊させた国を見事に建て直してみせた。
最初は女性を王にすることに対して国民たちの間で賛否両論あったが、今では彼女のことを悪く言う者など一人もいない。


シュベール王国のマルガレーテ女王陛下の評判は近隣諸国にも届いている。


彼女は誰の目から見ても賢王だった。









◇◆◇◆◇◆






あれから十年が経った。
私はお母様やお父様の手を借りて、見事国を建て直すことに成功した。


今では賢王として名を馳せ、とても幸せな暮らしを送っている。


そんなある日のこと。


「――マルガレーテ!お前、マルガレーテだよな!?」
「…………貴方、一体誰かしら?」


突然、知らない人が王宮へ来て無礼にも女王である私を呼び捨てにしてきたのだ。
その顔を見ると何故だか分からないが、猛烈な不快感が押し寄せてきた。


ボロボロの服を着ていて髪の毛はグシャグシャ。
体は痩せこけている。
何日も風呂に入っていないのか、全身から悪臭を放っていた。


彼は私のことを知っているようだが、私には全く見覚えがない。
女王を呼び捨てするとは本当に無礼極まりない男だ。


「私は貴方のこと知らないわ。ここから去らないと地下牢に入れるわよ」


厳しい口調でそう言うと、男は慌てたように言った。


「――私だ!お前の夫だったリアムだ!」
「………………………………え」


(リアム……?)


その名前を忘れることなど出来るはずが無い。
私の元夫の名前であり、シュベール王国を崩壊寸前にまで追い込んだ愚王の名そのものだったから。


驚いた私は、目の前にいる男をまじまじと見つめてみる。
そうしているうちに、あることに気が付いた。


(…………この瞳は)


リアム陛下は金髪に綺麗な青い瞳をしていた。


一方、目の前にいる男は髪の毛はくすんでいて分からなかったが、宝石のような青い瞳だけはハッキリと確認することが出来た。
この瞳はシュベール王国の王族特有のものである。


(ということは……本当にこの人はリアム陛下なの……?)


「嘘をつくな!愚王リアムは十年前に死んだ!」
「女王陛下に近付くな!この無礼者!」
「ひっ、ひぃ……!」


男の言葉を聞いた騎士たちが彼に剣を突き付けた。
おそらくこの男は嘘などついておらず、本当にリアム陛下なのだろう。


(……よくこの場で自分がリアムだと名乗れるわね)


シュベール王国ではリアムは国を崩壊させた愚王だ。
彼に恨みを抱いているものはたくさんいる。


つまりこの国でリアムを名乗るなど、殺してくれと言っているようなものなのだ。


「仮にあなたが本当にリアム陛下だったとして、私に一体何のご用ですか?」


私の問いに、リアム陛下はとんでもないことを言い出した。


「私は、お前とやり直したいんだ!!!」
「…………………」


(………………………この人は一体何を言っているの?)


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