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本編
9 二人の行方
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(陛下と寵姫の姿が無いですって……?)
そんなはずはない。
彼らはこの時間いつも王宮にいる。
今日に限っていないなど、そんなことあるはずがないのだ。
騎士の言葉に驚きを隠せなかった。
「どこにも見当たらないだと!?何をしているんだ!」
お父様は騎士に対して怒りを露わにした。
「も、申し訳ありません……」
「……」
(隠れているのかしら……?でも王宮に隠れられる場所なんて……)
私が陛下と寵姫の行方について考え込んでいたとき、別の騎士が慌ただしく部屋に入ってきた。
「閣下!大変です!」
「今度は何だ?」
騎士はハァハァと息を切らしている。
「――王の部屋から隠し通路が見つかったそうです!」
「…………何だと?」
(え……隠し通路……?)
それを聞いた私は本日何度目かの衝撃を受けた。
わりと長い間王妃として王宮に住んでいたが隠し通路なんてそんなものは知らないし、今初めて聞いた。
(もしかして、逃げたの?)
王宮に隠し通路が存在したことにも驚いたが、あれほど強気でいたのにいざ反乱が起きるとすぐに寵姫と逃げ去った陛下にも驚いた。
何て愚かな人なのだろう。
「その通路はどこに繋がっていたんだ?」
「詳しくは分かりませんが、王宮の外まで続いていたそうです。今現在騎士に行方を追わせています」
「……」
騎士の表情からして言いたいことが分かる。
王と寵姫は騎士たちが隠し通路を発見した頃には既に脱出していたのだろう。
どうやら一足遅かったようだ。
「申し訳ありません!閣下!」
「……」
お父様は頭を下げる騎士を黙って見つめていた。
そしてしばらく黙り込んだ後、私の方に視線をやった。
「マルガレーテ、お前はその隠し通路の存在を知っていたか?」
「いえ……今初めて聞きましたわ……」
「そうか……」
お父様は私の返事を聞いてハァとため息をついた。
「……顔を上げろ」
その声で騎士は顔を上げた。
「心配する必要は無い。運良く王宮から逃げられたとしてもすぐに捕まるだろう」
「閣下……」
お父様の言うことは正しかった。
陛下と寵姫は国中の人から恨まれている上に、今やれっきとした罪人なのでもはや逃げ場など無いも同然なのだ。
発見されたところですぐに殺害されてしまうだろう。
「ヤツらを探すなら国境付近に行け。シュベール王国はあの二人にとっては敵だらけだからな。逃げるなら国外へ行くはずだ」
「はい、閣下!」
「――お待ちなさい」
そのとき、部屋を出て行こうとする騎士を引き止めたのはお母様だった。
(お母様……?)
お母様は椅子から立ち上がって口元に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「公爵夫人……?」
「お前……」
騎士もお父様もそんなお母様の様子に困惑しているようだ。
お母様は扇子で口元を隠しながら言った。
「――そんなに焦らなくても、あの二人は別に放っておいてもいいのではありませんか?」
(えっ!?)
これには私だけではなくお父様も驚いていた。
「な、何を言っているんだ!?あの二人は絶対に処刑しなければいけない!マルガレーテをこんなにも苦しめておいて……」
「まぁまぁ落ち着いてください、あなた」
お母様の言葉に、お父様は徐々に落ち着きを取り戻して行った。
そしてお父様の近くまで行くと、冷たく笑って言った。
「――旦那様、私に良い考えがありますの」
そんなはずはない。
彼らはこの時間いつも王宮にいる。
今日に限っていないなど、そんなことあるはずがないのだ。
騎士の言葉に驚きを隠せなかった。
「どこにも見当たらないだと!?何をしているんだ!」
お父様は騎士に対して怒りを露わにした。
「も、申し訳ありません……」
「……」
(隠れているのかしら……?でも王宮に隠れられる場所なんて……)
私が陛下と寵姫の行方について考え込んでいたとき、別の騎士が慌ただしく部屋に入ってきた。
「閣下!大変です!」
「今度は何だ?」
騎士はハァハァと息を切らしている。
「――王の部屋から隠し通路が見つかったそうです!」
「…………何だと?」
(え……隠し通路……?)
それを聞いた私は本日何度目かの衝撃を受けた。
わりと長い間王妃として王宮に住んでいたが隠し通路なんてそんなものは知らないし、今初めて聞いた。
(もしかして、逃げたの?)
王宮に隠し通路が存在したことにも驚いたが、あれほど強気でいたのにいざ反乱が起きるとすぐに寵姫と逃げ去った陛下にも驚いた。
何て愚かな人なのだろう。
「その通路はどこに繋がっていたんだ?」
「詳しくは分かりませんが、王宮の外まで続いていたそうです。今現在騎士に行方を追わせています」
「……」
騎士の表情からして言いたいことが分かる。
王と寵姫は騎士たちが隠し通路を発見した頃には既に脱出していたのだろう。
どうやら一足遅かったようだ。
「申し訳ありません!閣下!」
「……」
お父様は頭を下げる騎士を黙って見つめていた。
そしてしばらく黙り込んだ後、私の方に視線をやった。
「マルガレーテ、お前はその隠し通路の存在を知っていたか?」
「いえ……今初めて聞きましたわ……」
「そうか……」
お父様は私の返事を聞いてハァとため息をついた。
「……顔を上げろ」
その声で騎士は顔を上げた。
「心配する必要は無い。運良く王宮から逃げられたとしてもすぐに捕まるだろう」
「閣下……」
お父様の言うことは正しかった。
陛下と寵姫は国中の人から恨まれている上に、今やれっきとした罪人なのでもはや逃げ場など無いも同然なのだ。
発見されたところですぐに殺害されてしまうだろう。
「ヤツらを探すなら国境付近に行け。シュベール王国はあの二人にとっては敵だらけだからな。逃げるなら国外へ行くはずだ」
「はい、閣下!」
「――お待ちなさい」
そのとき、部屋を出て行こうとする騎士を引き止めたのはお母様だった。
(お母様……?)
お母様は椅子から立ち上がって口元に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「公爵夫人……?」
「お前……」
騎士もお父様もそんなお母様の様子に困惑しているようだ。
お母様は扇子で口元を隠しながら言った。
「――そんなに焦らなくても、あの二人は別に放っておいてもいいのではありませんか?」
(えっ!?)
これには私だけではなくお父様も驚いていた。
「な、何を言っているんだ!?あの二人は絶対に処刑しなければいけない!マルガレーテをこんなにも苦しめておいて……」
「まぁまぁ落ち着いてください、あなた」
お母様の言葉に、お父様は徐々に落ち着きを取り戻して行った。
そしてお父様の近くまで行くと、冷たく笑って言った。
「――旦那様、私に良い考えがありますの」
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