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本編
4 リリーという女
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それから数日後のことだった。
あれから陛下は本当に税を上げ、国民たちからお金を搾取するようになってしまった。
しかし、私に出来ることは何も無い。
陛下はいくら言っても私の話を聞いてくれなかった。
全てあの寵姫の言いなりである。
(……私は、王妃失格ね)
王妃という高い地位にいながら、王の暴政に苦しんでいる民たちを救ってあげることも出来ない。
そして今日もまた私はいつものように山積みになった仕事をこなしていく。
あれから陛下と寵姫の散財は改善されるどころか酷くなっている。
このままではさらに国民から金を搾り取るだろう。
近いうちに反乱が起きるかもしれない。
もしそうなれば、王や寵姫はもちろん王妃である私も連帯責任として処刑されることになるだろう。
(処刑か……国を救えない無能な王妃にはピッタリの最期かもしれないわね……)
私は国王の暴挙を止めることが出来なかった。
それだけでも死をもって償わなければならないほどの罪だ。
正直、死ぬのが怖くないわけではない。
だけど、この生き地獄のような辛い日々から解放されるのだと思うと別にそれでもいいかもしれないと思うようになった。
夫には愛されず、ただ仕事をこなしていくだけの日々。
自分の人生がこんなにも辛いと思ったことはなかった。
貴族令嬢だった頃は優しい両親がいて、私を慕ってくれる使用人たちに囲まれて過ごしていた。
(ハァ……本当にもうこのまま死んでもいいかもしれないわね……)
そんなことを考えながら廊下を歩いていたそのときだった―
「――あら、王妃様。ごきげんよう」
突然聞き覚えのある声がした。
(この声は……!)
声のする方を見ると、そこにいたのはやはり寵姫であるリリーだった。
「リリー様……」
よりにもよって一番会いたくない人物と出くわしてしまった。
(最悪だわ……何とか言ってすぐここを去らないと……)
そんな私の気持ちなど気にもしていないようで、リリーはコツコツと足音を立ててこちらへと歩いてくる。
彼女が今着ているドレスは高位貴族や王族が身に着けるような高価なものだ。
しかもそれだけではなく、身に着けている宝石やアクセサリーも全て一級品である。
(ただでさえお金が無いのに……)
リリーが身に着けているものたちを全て売れば一体いくらになるだろう。
平民なら数年間は暮らしていけるほどの額になるはずだ。
ゆっくりとこちらへとやって来たリリーは私を挑発するかのように言った。
「王妃様、随分と質素なドレスを着ているのですね。使用人かと思いましたわ」
「……」
寵姫は陛下のいないところでいつもこうやって私を侮辱した。
最初の頃はそれに苛ついて随分と言い争っていたものだ。
今ではもう慣れてしまって何とも思わないが。
(……陛下はリリーの言うことなら何だって聞く。なら、彼よりも彼女を説得した方が可能性はあるかもしれない)
そう思った私は、臣下や国民たちの想いを背負って口を開いた。
「リリー様、どうかお考え直しください。このままではいけません。あなたなら陛下を説得できるはずです」
彼女に頼み事をするのは嫌だったが、こればかりは仕方がない。
陛下を説得できるのは現状リリーしかいないからだ。
つまり、彼女が変わってさえくれれば陛下も変わる可能性がある。
そんな希望を抱いてのことだった。
――がしかし、寵姫リリーはどこまでも残酷な女だった。
「何故です?今のこの状態の何がいけないのですか?」
彼女は私の言っていることの意味が分からないと言ったような顔でそう言った。
「前に説明はしたはずです……このままだと国民の反乱が起きかねません。もしそうなれば、あなたも陛下もただではすまないでしょうね」
今の危機的状況を分からせるため脅しで言ったつもりだったが、リリーが表情を変えることはなかった。
「それの何が怖いのですか?リアム様がおっしゃっていましたもの。王家の圧倒的な力に敵う者はいないと。相手が誰であろうとすぐに鎮圧出来ると」
「……陛下はそんなことをおっしゃっていたのですか」
愚かとしか言いようがない。
彼らは貴族を、国民を舐めすぎだ。
「あ、もしかして王妃様。私がリアム様の寵愛を一身に受けているからって嫉妬されてます?」
「……」
急に何を言い出すのだろう。
私が彼に心を抱いていないことくらい分かっているはずだ。
「王妃様、何故リアム様が王妃様のことを嫌っているのかをご存知ですか?」
「……いいえ」
私は陛下に何かをした覚えが無い。
そもそも婚約が決まるまでは話したことすらほとんど無いほど遠い人だったから。
「リアム様は王妃様のことを”つまらない女”だとおっしゃっていました。外見も大して美しくないし、仕事をするしか能が無いのだと」
「……」
リリーはそこまで言うと、キャッキャッと笑い出した。
「女としての魅力は王妃様よりも私の方が上みたいですね。王妃様は知らないと思いますが、リアム様は最初は貴方ではなく私を王妃にしようとしていたんですよ」
「え……?」
初めて知る事実に、私は目を瞬かせた。
「だけど私が断ったんです。だって嫌じゃないですか、面倒くさい王妃の仕事をするだなんて。それなら好きなだけ遊べる寵姫になった方がいいって思ったんですよね」
「……」
「ああ、可哀相な王妃様。身分が高くて頭が良いというだけで選ばれてしまったんですもの。本当にお可哀相」
「……」
「もう少し愛想があって外見が良ければリアム様も王妃様を気にかけてくださったかもしれませんね」
リリーはそう言ってクスクスと笑いながら私の横を通り過ぎて行った。
彼女にとっては何ともないことかもしれないが、私にとっては何よりも残酷な事実だった。
あれから陛下は本当に税を上げ、国民たちからお金を搾取するようになってしまった。
しかし、私に出来ることは何も無い。
陛下はいくら言っても私の話を聞いてくれなかった。
全てあの寵姫の言いなりである。
(……私は、王妃失格ね)
王妃という高い地位にいながら、王の暴政に苦しんでいる民たちを救ってあげることも出来ない。
そして今日もまた私はいつものように山積みになった仕事をこなしていく。
あれから陛下と寵姫の散財は改善されるどころか酷くなっている。
このままではさらに国民から金を搾り取るだろう。
近いうちに反乱が起きるかもしれない。
もしそうなれば、王や寵姫はもちろん王妃である私も連帯責任として処刑されることになるだろう。
(処刑か……国を救えない無能な王妃にはピッタリの最期かもしれないわね……)
私は国王の暴挙を止めることが出来なかった。
それだけでも死をもって償わなければならないほどの罪だ。
正直、死ぬのが怖くないわけではない。
だけど、この生き地獄のような辛い日々から解放されるのだと思うと別にそれでもいいかもしれないと思うようになった。
夫には愛されず、ただ仕事をこなしていくだけの日々。
自分の人生がこんなにも辛いと思ったことはなかった。
貴族令嬢だった頃は優しい両親がいて、私を慕ってくれる使用人たちに囲まれて過ごしていた。
(ハァ……本当にもうこのまま死んでもいいかもしれないわね……)
そんなことを考えながら廊下を歩いていたそのときだった―
「――あら、王妃様。ごきげんよう」
突然聞き覚えのある声がした。
(この声は……!)
声のする方を見ると、そこにいたのはやはり寵姫であるリリーだった。
「リリー様……」
よりにもよって一番会いたくない人物と出くわしてしまった。
(最悪だわ……何とか言ってすぐここを去らないと……)
そんな私の気持ちなど気にもしていないようで、リリーはコツコツと足音を立ててこちらへと歩いてくる。
彼女が今着ているドレスは高位貴族や王族が身に着けるような高価なものだ。
しかもそれだけではなく、身に着けている宝石やアクセサリーも全て一級品である。
(ただでさえお金が無いのに……)
リリーが身に着けているものたちを全て売れば一体いくらになるだろう。
平民なら数年間は暮らしていけるほどの額になるはずだ。
ゆっくりとこちらへとやって来たリリーは私を挑発するかのように言った。
「王妃様、随分と質素なドレスを着ているのですね。使用人かと思いましたわ」
「……」
寵姫は陛下のいないところでいつもこうやって私を侮辱した。
最初の頃はそれに苛ついて随分と言い争っていたものだ。
今ではもう慣れてしまって何とも思わないが。
(……陛下はリリーの言うことなら何だって聞く。なら、彼よりも彼女を説得した方が可能性はあるかもしれない)
そう思った私は、臣下や国民たちの想いを背負って口を開いた。
「リリー様、どうかお考え直しください。このままではいけません。あなたなら陛下を説得できるはずです」
彼女に頼み事をするのは嫌だったが、こればかりは仕方がない。
陛下を説得できるのは現状リリーしかいないからだ。
つまり、彼女が変わってさえくれれば陛下も変わる可能性がある。
そんな希望を抱いてのことだった。
――がしかし、寵姫リリーはどこまでも残酷な女だった。
「何故です?今のこの状態の何がいけないのですか?」
彼女は私の言っていることの意味が分からないと言ったような顔でそう言った。
「前に説明はしたはずです……このままだと国民の反乱が起きかねません。もしそうなれば、あなたも陛下もただではすまないでしょうね」
今の危機的状況を分からせるため脅しで言ったつもりだったが、リリーが表情を変えることはなかった。
「それの何が怖いのですか?リアム様がおっしゃっていましたもの。王家の圧倒的な力に敵う者はいないと。相手が誰であろうとすぐに鎮圧出来ると」
「……陛下はそんなことをおっしゃっていたのですか」
愚かとしか言いようがない。
彼らは貴族を、国民を舐めすぎだ。
「あ、もしかして王妃様。私がリアム様の寵愛を一身に受けているからって嫉妬されてます?」
「……」
急に何を言い出すのだろう。
私が彼に心を抱いていないことくらい分かっているはずだ。
「王妃様、何故リアム様が王妃様のことを嫌っているのかをご存知ですか?」
「……いいえ」
私は陛下に何かをした覚えが無い。
そもそも婚約が決まるまでは話したことすらほとんど無いほど遠い人だったから。
「リアム様は王妃様のことを”つまらない女”だとおっしゃっていました。外見も大して美しくないし、仕事をするしか能が無いのだと」
「……」
リリーはそこまで言うと、キャッキャッと笑い出した。
「女としての魅力は王妃様よりも私の方が上みたいですね。王妃様は知らないと思いますが、リアム様は最初は貴方ではなく私を王妃にしようとしていたんですよ」
「え……?」
初めて知る事実に、私は目を瞬かせた。
「だけど私が断ったんです。だって嫌じゃないですか、面倒くさい王妃の仕事をするだなんて。それなら好きなだけ遊べる寵姫になった方がいいって思ったんですよね」
「……」
「ああ、可哀相な王妃様。身分が高くて頭が良いというだけで選ばれてしまったんですもの。本当にお可哀相」
「……」
「もう少し愛想があって外見が良ければリアム様も王妃様を気にかけてくださったかもしれませんね」
リリーはそう言ってクスクスと笑いながら私の横を通り過ぎて行った。
彼女にとっては何ともないことかもしれないが、私にとっては何よりも残酷な事実だった。
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