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本編

1 愚王

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ここはシュベール王国の王城。


「王妃陛下、こちらの書類にもサインをお願いします!」


「王妃陛下!王家は今深刻な財政難に陥っています。何か策を考えなくては……」


「王妃陛下!こちらは―」


「王妃陛下!」


「王妃陛下!」



文官たちが忙しそうにしている。
これはシュベール王国の王宮ではいつものことである。





「分かっています!一つずつ見ていくから、少しだけ待ってちょうだい」


忙しそうな彼らの中心にいるのは王妃マルガレーテだ。
本来ならばこの仕事は王がやることだった。
それを何故王妃であるマルガレーテがやっているのか。


それは、この国の王が仕事をしないからである。





シュベール王国の王リアムは愚王だった。
名家から嫁いできた王妃であるマルガレーテを蔑ろにし、彼女に仕事を押し付けたうえに寵姫と遊んでばかりいた。
王宮に勤める使用人たちは寵姫と遊ぶ王の姿を見るといつも眉をひそめた。


そして王リアムが寵姫として据えた女、これがまた問題のある女だった。


寵姫の名はリリー。


波打つブロンドの髪に青い瞳を持つそれはそれは美しい女だ。
彼女を初めて見た者たちは皆「あれほど美しい人は見たことがない」と口々に言った。


まさに絶世の美女であり、高嶺の花。
リリーはそれほど美しい女だった。


彼女は元々シュベール王国の踊り子だったが、当時王太子だったリアムに見初められ、平民であったにもかかわらず王太子の恋人となった。


それからというもの、リリーは王の寵愛を笠に着て王宮で好き放題やってきた。
実際王家が財政難に陥っているのは主にこの女の散財が原因だった。


リアムは愛するリリーをとことん甘やかしていた。
ドレスに宝石、望むものは何でも買い与えた。
そのせいで王家の財政が破綻しそうであることなど気にも留めずに。


(どうしよう……また赤字だわ……)


王妃マルガレーテはそんな王と寵姫に頭を悩ませている。


マルガレーテはその頭脳を買われて王妃となった女だった。
シュベール王国の名門公爵家の出身で、身分も外見も申し分ない。


当時王には愛するリリーがいたが、リリーは平民の踊り子だったため正妃には出来なかった。
そこで王はお飾りの王妃としてマルガレーテを迎えたのである。
ただただ王妃としての仕事をさせるためだけに。


もちろんマルガレーテの両親は大事な娘をそんなことのために差し出すわけにはいかないと思ったが、これは王命だった。
だから彼女は仕方なく王家に嫁いだのだ。


王家に嫁いでからがマルガレーテにとっての本当の地獄だった。


王は寵姫にかまけ仕事をしない。
その仕事は全て王妃に押し付けられる。
彼女は初夜すら放置された。


それでもマルガレーテは文句ひとつ言わずに仕事をし続けた。
王と王妃の仕事を一人でやるのはかなり大変なことで、あまりの激務に体調を崩してしまう日もあった。


しかし、彼女はそれでもやるしかなかった。


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