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三章

プロポーズ

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その後、殿下が正式に王として即位した。
若干十九歳での戴冠だった。
当然、反対する者は誰一人としておらず、新たなる王の誕生に国民たちは歓喜した。


反乱の後、殿下によって国王アルベルトの悪事はすぐに発表され、その罪の重さに誰もが衝撃を受けた。
先代国王陛下と王妃陛下の殺害から始まり、フルール公爵夫人の毒殺、王太子殿下と私の殺害未遂まで。
罪を犯しすぎた国王には批判が殺到し、アルベルトは愚王として名を残すこととなった。


一連の事件の全ての黒幕であるアルベルト、そしてローレルの二人は地下牢に生涯幽閉されることになった。
アルベルトに至ってはダリウス様によって魔法をかけられ、正気を失った状態だという。
そして大罪人ローレルも元王と同じく両腕を切り落とされ、自決すら出来ないまま一人孤独と戦っている。


アルベルトとローレルは実質死刑よりも重い罰を受けることとなったのである。
二人の犯した罪を考えると当然のことだった。


私も殿下も判決を聞いたときはとても複雑な気持ちだった。
彼にとっては血の繋がった父親だったし、私にとっても前世では唯一優しくしてくれた人だった。
その全てが悪意によるものだと知ったときはとてもショックだったが。


そのことはともかく、前世で私に不幸な人生を歩ませる元凶となった悪は全て排除した。


(これで私も前に進めるかしら……)


このとき私はようやく、前世の呪縛から解き放たれたような、そんな気がした。
もう恐れることは何も無い。
これからは縛られずに自分の意思を貫いて生きていこう。
そう決意した瞬間だった。


そして、二人の刑が決まり一段落着いた後、私は殿下に呼ばれてある場所へと来ていた。


「殿下……いえ、陛下」


暗い夜の中に一人佇んでいる彼の後ろ姿に声をかけた。


「……来たか」
「突然王宮の外へ呼び出すなんて、どうかなさったのですか?」


一体ここはどこなんだろう。
彼の侍従に行き先を伝えられないままここへ来たため、私も場所が分からない。


彼が振り返ったその瞬間、綺麗な黒い髪が夜の風に当たって揺れた。
よく見慣れた宝石のように光る瞳と目が合った。


「セシリア……」
「陛下?」
「この場所を知っているか?」
「……いいえ」


辺りをよく見渡してみると、私が今殿下といるのは湖のほとりだった。
月明かりに照らされた水面が青く光り輝いている。
そのまま水の中に吸い込まれてしまいそうなほどに美しい。


あまりの美しさに見惚れていると、殿下がクスリと笑って話しかけた。


「気に入ったか?」
「はい、すごく綺麗です……!」


(どうして彼は私をこの場所に連れて来たんだろう……?)


そんな私の疑問を読んだのか、彼が口を開いた。


「――想い合う恋人同士がこの場所で口付けをすると、二人は永遠に一緒にいられるそうだ」
「え……」


(まさか……今からここでキスを……!?)


いきなりすぎる展開に慌てふためいていると、彼が突然私の前で跪いた。


「へ、陛下?」
「――セシリア」


跪いたまま彼は私の手を取った。
真剣で柔らかい目でじっと見つめられる。


「……こんなにも誰かを好きになったのは初めてなんだ」
「陛下……」


そう口にした彼の頬は少し赤くなっていた。


「俺に傷付けられた記憶もたくさんあるだろう。それは俺自身も分かっているし、本当に悪かったと思っている。でも、それでも俺は……――全てを捨ててでも、お前と一緒にいたい」
「……!」


陛下が握った手に力を込めた。
彼の手の温もりが伝わってくる。


「――俺と、結婚してほしい。必ず幸せにする」


その言葉を聞いた瞬間、目から涙が溢れた。
彼が私を大切にしていることは知っていたが、いざ口にして伝えられると何だか照れ臭い。


(私も貴方となら……生きていける気がします……)


当然、返事は決まっている。


「はい、私も陛下とずっと一緒にいたいです。私と結婚してください、陛下」
「……!」


立ち上がった彼が、私をギュッと抱き締めた。
これまでで一番力強い抱擁だった。


「愛してる……」
「私も……」


そして、指先で横髪をかき分けた彼がそっと顔を近付けた。


「……」


(彼と……永遠に一緒にいられますように)



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