上 下
124 / 127
三章

父と息子

しおりを挟む
「ダリウス様……!」
「ダリウス……!」


――ダリウス様が最強の魔術師と言われたローレル様に勝利した。
殿下と共に見ていたが、戦いはとても激しいもので彼もかなりの血を流している。


(早くダリウス様を治療してさしあげないと……!)


私は床に座り込んだ彼に駆け寄った。


「ダリウス様、大丈夫ですか!」
「ああ、これくらい何とも無い」
「すぐに治療しますから……」
「――それよりフルール嬢、見てみろ。あの男を」
「あの男……?」


ダリウス様が指差す先に視線をやると、国王アルベルトと殿下が対峙していた。
ローレル様が敗北したことにより国王の周囲に張り巡らされていた結界は解け、アルベルトは心強い味方を失うこととなった。


「殿下……」
「グレイ……」


私たちはその様子をじっと見守っていた。
息子が父に剣を向けるという、何とも異様な光景だった。


「アルベルト……」
「グレイフォード、待て!お前は血の繋がった父親を殺すつもりか!?」
「父親か……父としての役割など果たしたこと無いだろう!お前はいつだって権力のことしか考えていなかった」


殿下が猛獣のように声を荒らげた。
彼のそのような姿は久々に見る。


「今まで以上に権力を得ようと思っていたのも全てはお前のためだ!私が死んだ後もお前が良き王として……」
「――口を閉じろ」


アルベルトが何を言おうと、殿下や私たちの心に響くことは無い。
そして彼が今言っていたことは全て嘘だ。
もしそれが本当なら、旅行帰りの殿下を襲撃したりするはずが無いから。


「お前は罪を犯しすぎた。フルール公爵、公爵夫人、セシリア、母上、お前の実の両親まで。一体どれだけの人間の人生を台無しにしてきた?」
「な、何故お前がそこまで知っている……!」


過去の罪が明らかになり、王は狼狽えた。
そして、腰が抜けて立てなくなっているアルベルトに、殿下が手にしていた剣を振り上げた。


「歯を食いしばれ。これはその者たちの恨みのほんの一部にすぎない」
「お、おいやめろ!私を斬りつける気か!!!やめろ、やめるんだ!」


必死の命乞いも虚しく、アルベルトに向かって下りた剣は、彼の右腕を一瞬にして切り落とした。


「ギャアアアアアア!!!」


王の悲鳴が部屋中に鳴り響く。
返り血を浴びた殿下はもう一度剣を振り上げ、今度は左腕を切断した。


「アアアアアアアアア!!!」


アルベルトは仰向けに倒れた。


「今ここで処刑しても良かったが……それだけでは足りないほどの罪をお前は犯している」
「……」
「お前は地下牢に入れることにする」


そして、王は捕縛された。


(終わったのね……)


それから少しした頃、ちょうどお父様も戻ってきて、制圧を終えたことを報告した。
殿下率いる反乱軍は見事、悪逆非道の限りを尽くした国王軍に勝利したのだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。 だけど今回は無理だった。 突然の婚約。 え?なんで?嫌だよ。 幼馴染のリヴィ・アルゼン。 ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの? 好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。 なのに気がつけば結婚させられて…… 意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。 戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。 なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて…… 「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。 リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど…… ◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。 申し訳ありません。

【完結】浮気された私は貴方の子どもを内緒で育てます  時々番外編

たろ
恋愛
朝目覚めたら隣に見慣れない女が裸で寝ていた。 レオは思わずガバッと起きた。 「おはよう〜」 欠伸をしながらこちらを見ているのは結婚前に、昔付き合っていたメアリーだった。 「なんでお前が裸でここにいるんだ!」 「あら、失礼しちゃうわ。昨日無理矢理連れ込んで抱いたのは貴方でしょう?」 レオの妻のルディアは事実を知ってしまう。 子どもが出来たことでルディアと別れてメアリーと再婚するが………。 ルディアはレオと別れた後に妊娠に気づきエイミーを産んで育てることになった。 そしてレオとメアリーの子どものアランとエイミーは13歳の時に学園で同級生となってしまう。 レオとルディアの誤解が解けて結ばれるのか? エイミーが恋を知っていく 二つの恋のお話です

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ
恋愛
「ただいま」 朝早く小さな声でわたしの寝ているベッドにそっと声をかける夫。 そして、自分のベッドにもぐり込み、すぐに寝息を立てる夫。 わたしはそんな夫を見て溜息を吐きながら、朝目覚める。 そして、朝食用のパンを捏ねる。 「ったく、いっつも朝帰りして何しているの?朝から香水の匂いをプンプンさせて、臭いのよ! バッカじゃないの!少しカッコいいからって女にモテると思って!調子に乗るんじゃないわ!」 パンを捏ねるのはストレス発散になる。 結婚して一年。 わたしは近くのレストランで昼間仕事をしている。 夫のアッシュは、伯爵家で料理人をしている。 なので勤務時間は不規則だ。 それでも早朝に帰ることは今までなかった。 早出、遅出はあっても、夜中に勤務して早朝帰ることなど料理人にはまずない。 それにこんな香水の匂いなど料理人はまずさせない。 だって料理人にとって匂いは大事だ。 なのに…… 「そろそろ離婚かしら?」 夫をぎゃふんと言わせてから離婚しようと考えるユウナのお話です。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

【完結】家族に冷遇された姫は一人の騎士に愛を捧げる。貴方を愛してもいいですか?

たろ
恋愛
王妃が死んだ。 冷遇していた夫の国王は今更ながら愛していたのにと後悔をしている。 実の娘を生け贄にしようとした国王。それを庇い代わりに生け贄として源泉に身を投げ死んでいった王妃。 生け贄を勧めた宰相は王妃を愛していた。 娘を殺した夫と離縁するだろうと考えた宰相は、王妃であるセリーヌを我が物にしようと画策したのだった。 セリーヌが愛した娘のクリスティーナはその時の記憶をなくしてしまった。大好きだった母のこともそして目の前で自分を庇って死んだことも。 全てを忘れて生きてきた。 その生活は地獄のような日々だった。 そんなクリスティーナを陰から支えるのは王妃の幼馴染で近衛騎士のヴィルだった。 ヴィルの初恋はセリーヌだった。と言っても少年の頃の淡い初恋。 そしてクリスティーナの初恋はヴィルだった。 彼が自分を愛してくれることなどないとわかっているのに……それでも諦められないクリスティーナ……

処理中です...