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三章
反逆
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「殿下!」
「セシリア!」
反逆当日。
殿下が水面下で反逆の準備をしていたおかげで、わりと早くその日はやって来た。
「どうしてここに?」
「言いたいことがあったからです!」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「殿下、私も一緒に王宮へ行きます!皆さんと一緒に戦わせてください!」
「セシリア、何を言っているんだ。お前は安全なところに……」
「――私、聖女の力をある程度使えるようになったんです」
「……何だって?」
父が目覚めて反逆を決めたあの日から、私は密かに特訓をしていた。
魔術師であるダリウス様に頼んで稽古をつけてもらっていたのだ。
そのおかげか、今では能力をだいぶコントロールできるようになった。
「私も行きます。じっとなんてしていられません」
「セシリア……」
きっとこの力は戦場でかなり役に立つ。
今度こそ、絶対に足手まといにはなったりしない。
決意を込めた瞳を殿下に向けると、彼は折れたようにゆっくりと頷いた。
「分かった、お前の意思を尊重しよう」
「殿下、ありがとうございます……!」
嬉しさのあまり、殿下に抱き着いた。
彼は普段通りに私の体を抱き締め返した。
しかし何故かいつもより抱きしめる力が弱い。
それだけではなく、私を抱く彼の体が小刻みに震えていた。
(殿下……?)
不思議に思っていると、いつもより弱気な彼の声が聞こえた。
「……今日、父は死ぬだろう」
「……はい」
その言葉でようやく私は殿下が暗い表情をしている理由に気が付いた。
彼がこれから倒す相手は血の繋がった父親だった。
(殿下は優しい人だから……)
いくら最低な男だったとはいえ、実の父を殺すことに対しては思うところがあるのだろう。
私は震えが収まらない彼の背中を優しく撫でた。
「殿下、落ち着いてください」
「……」
「殿下は正しいことをしています。国王は人間ではありません」
「……」
彼の父親はかつて愛した私の母親だけでは足りず、血の繋がった息子までもを殺そうとした。
私を始めとした多くの者の人生を台無しにした。
死を以て償うほかはない。
「たとえ国中の人間が殿下を親殺しと罵ろうとも、私だけはずっと貴方の味方でい続けますから」
「セシリア……」
その言葉で次第に殿下の震えが収まっていった。
しばらくして、殿下は私をそっと腕の中から解放した。
「セシリア……ありがとう」
「これくらい殿下の恋人として当然のことです」
「恋人」という言葉を気に入ったのか、彼はフッと笑った。
そして腰に下げていた剣を抜くと、声高らかに叫んだ。
「――父は、俺がこの手で殺る」
剣を片手に持った状態で彼は再び私を抱き寄せた。
そして耳元で優しく囁いた。
「必ず守り抜いてみせる。――国も、お前も」
「セシリア!」
反逆当日。
殿下が水面下で反逆の準備をしていたおかげで、わりと早くその日はやって来た。
「どうしてここに?」
「言いたいことがあったからです!」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「殿下、私も一緒に王宮へ行きます!皆さんと一緒に戦わせてください!」
「セシリア、何を言っているんだ。お前は安全なところに……」
「――私、聖女の力をある程度使えるようになったんです」
「……何だって?」
父が目覚めて反逆を決めたあの日から、私は密かに特訓をしていた。
魔術師であるダリウス様に頼んで稽古をつけてもらっていたのだ。
そのおかげか、今では能力をだいぶコントロールできるようになった。
「私も行きます。じっとなんてしていられません」
「セシリア……」
きっとこの力は戦場でかなり役に立つ。
今度こそ、絶対に足手まといにはなったりしない。
決意を込めた瞳を殿下に向けると、彼は折れたようにゆっくりと頷いた。
「分かった、お前の意思を尊重しよう」
「殿下、ありがとうございます……!」
嬉しさのあまり、殿下に抱き着いた。
彼は普段通りに私の体を抱き締め返した。
しかし何故かいつもより抱きしめる力が弱い。
それだけではなく、私を抱く彼の体が小刻みに震えていた。
(殿下……?)
不思議に思っていると、いつもより弱気な彼の声が聞こえた。
「……今日、父は死ぬだろう」
「……はい」
その言葉でようやく私は殿下が暗い表情をしている理由に気が付いた。
彼がこれから倒す相手は血の繋がった父親だった。
(殿下は優しい人だから……)
いくら最低な男だったとはいえ、実の父を殺すことに対しては思うところがあるのだろう。
私は震えが収まらない彼の背中を優しく撫でた。
「殿下、落ち着いてください」
「……」
「殿下は正しいことをしています。国王は人間ではありません」
「……」
彼の父親はかつて愛した私の母親だけでは足りず、血の繋がった息子までもを殺そうとした。
私を始めとした多くの者の人生を台無しにした。
死を以て償うほかはない。
「たとえ国中の人間が殿下を親殺しと罵ろうとも、私だけはずっと貴方の味方でい続けますから」
「セシリア……」
その言葉で次第に殿下の震えが収まっていった。
しばらくして、殿下は私をそっと腕の中から解放した。
「セシリア……ありがとう」
「これくらい殿下の恋人として当然のことです」
「恋人」という言葉を気に入ったのか、彼はフッと笑った。
そして腰に下げていた剣を抜くと、声高らかに叫んだ。
「――父は、俺がこの手で殺る」
剣を片手に持った状態で彼は再び私を抱き寄せた。
そして耳元で優しく囁いた。
「必ず守り抜いてみせる。――国も、お前も」
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