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三章

襲撃

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「殿下……どうかなさったのですか?」
「まずいな……セシリア、大変なことになった」


翌日の朝。
国へ帰る準備を進めていた私たちだったが、とある問題が発生した。


「不穏な影……?」
「ああ、父の動向を監視していた密偵が何か不穏な動きを掴んだらしい」
「それは一体……」


殿下は頭を悩ませた。


「分からない。だが何か嫌な予感がする」
「殿下……」
「今王宮から騎士たちを呼び寄せている。念のため時間をずらそう」


私たちは当然、最善の注意を払って隣国へと旅立った。
今回の婚前旅行の行き先を知っている人間は王妃陛下くらいだ。
しかし、王妃様が陛下たちに情報を流すとは思えない。


(一体何を企んでいるのかしら……)


何だか胸騒ぎがする。
良くないことが起こらないといいが。


「――セシリア」
「殿下」


顔を上げると、殿下が私に手を差し出していた。


「騎士たちが到着したようだ、すぐ国に帰ろう」
「あ、はい……」


それから私たちは新しく手配した馬車に乗り、その周りを騎士たちが取り囲んで宮殿へと戻った。
護衛を多く付けているため今のところは安心だが、私の胸に渦巻く嫌な予感が消え去ることは無かった。


(何かが起こるような……そんな気がしてたまらないわ)


「セシリア、大丈夫だ。ウチの騎士たちを信じろ」
「殿下……」


私を安心させるように手を握って微笑む殿下を見て、不安はいっそう増すこととなった。
彼がいなくなってしまうような、そんな気がしてならないのだ。


「はい、殿下。ありがとうございま―――」


そう言いかけたとき、馬車の外から大きな音がした。


「「!?」」


殿下はすぐに腰に下げていた剣に手を当て、私を片手で胸に抱き締めた。


「一体何の音だ!!!」
「殿下、これは……」


再び言葉を発そうとしたとき、突然私の頭の中に外の映像が流れてきた。


(うっ……何これ……)


どうやら今私たちが乗っている馬車の外で起きていることのようだ。
外では黒いローブをかぶった多くの暗殺者が、馬車を取り囲んでいたのだ。


「殿下……大変なことになっています……」
「どうしたセシリア!何か分かるのか!?」
「暗殺者が……馬車を取り囲んでいます……」
「何だって?」


殿下は驚いた様子で私を見た。
突然の出来事に、もちろん私も驚いている。


「セシリア、外にいる暗殺者の数は分かるか?」
「十……いえ、二十人くらいはいるかと」
「そんなにもたくさん……」


殿下はチッと舌打ちをすると、倒れそうになっている私を椅子に座らせた。


「セシリア、俺は外に加勢しに行く。だからお前はここでじっとしていろ」
「殿下!待ってください!」
「大丈夫だ、必ず帰ってくるから」


殿下はフッと笑うと、剣を抜いて馬車の外へと出て行った。


「殿下!!!」


遠ざかる彼の背中に必死で手を伸ばすが、到底届かない。
そうして私は馬車の中で一人になった。




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