110 / 127
三章
襲撃
しおりを挟む
「殿下……どうかなさったのですか?」
「まずいな……セシリア、大変なことになった」
翌日の朝。
国へ帰る準備を進めていた私たちだったが、とある問題が発生した。
「不穏な影……?」
「ああ、父の動向を監視していた密偵が何か不穏な動きを掴んだらしい」
「それは一体……」
殿下は頭を悩ませた。
「分からない。だが何か嫌な予感がする」
「殿下……」
「今王宮から騎士たちを呼び寄せている。念のため時間をずらそう」
私たちは当然、最善の注意を払って隣国へと旅立った。
今回の婚前旅行の行き先を知っている人間は王妃陛下くらいだ。
しかし、王妃様が陛下たちに情報を流すとは思えない。
(一体何を企んでいるのかしら……)
何だか胸騒ぎがする。
良くないことが起こらないといいが。
「――セシリア」
「殿下」
顔を上げると、殿下が私に手を差し出していた。
「騎士たちが到着したようだ、すぐ国に帰ろう」
「あ、はい……」
それから私たちは新しく手配した馬車に乗り、その周りを騎士たちが取り囲んで宮殿へと戻った。
護衛を多く付けているため今のところは安心だが、私の胸に渦巻く嫌な予感が消え去ることは無かった。
(何かが起こるような……そんな気がしてたまらないわ)
「セシリア、大丈夫だ。ウチの騎士たちを信じろ」
「殿下……」
私を安心させるように手を握って微笑む殿下を見て、不安はいっそう増すこととなった。
彼がいなくなってしまうような、そんな気がしてならないのだ。
「はい、殿下。ありがとうございま―――」
そう言いかけたとき、馬車の外から大きな音がした。
「「!?」」
殿下はすぐに腰に下げていた剣に手を当て、私を片手で胸に抱き締めた。
「一体何の音だ!!!」
「殿下、これは……」
再び言葉を発そうとしたとき、突然私の頭の中に外の映像が流れてきた。
(うっ……何これ……)
どうやら今私たちが乗っている馬車の外で起きていることのようだ。
外では黒いローブをかぶった多くの暗殺者が、馬車を取り囲んでいたのだ。
「殿下……大変なことになっています……」
「どうしたセシリア!何か分かるのか!?」
「暗殺者が……馬車を取り囲んでいます……」
「何だって?」
殿下は驚いた様子で私を見た。
突然の出来事に、もちろん私も驚いている。
「セシリア、外にいる暗殺者の数は分かるか?」
「十……いえ、二十人くらいはいるかと」
「そんなにもたくさん……」
殿下はチッと舌打ちをすると、倒れそうになっている私を椅子に座らせた。
「セシリア、俺は外に加勢しに行く。だからお前はここでじっとしていろ」
「殿下!待ってください!」
「大丈夫だ、必ず帰ってくるから」
殿下はフッと笑うと、剣を抜いて馬車の外へと出て行った。
「殿下!!!」
遠ざかる彼の背中に必死で手を伸ばすが、到底届かない。
そうして私は馬車の中で一人になった。
「まずいな……セシリア、大変なことになった」
翌日の朝。
国へ帰る準備を進めていた私たちだったが、とある問題が発生した。
「不穏な影……?」
「ああ、父の動向を監視していた密偵が何か不穏な動きを掴んだらしい」
「それは一体……」
殿下は頭を悩ませた。
「分からない。だが何か嫌な予感がする」
「殿下……」
「今王宮から騎士たちを呼び寄せている。念のため時間をずらそう」
私たちは当然、最善の注意を払って隣国へと旅立った。
今回の婚前旅行の行き先を知っている人間は王妃陛下くらいだ。
しかし、王妃様が陛下たちに情報を流すとは思えない。
(一体何を企んでいるのかしら……)
何だか胸騒ぎがする。
良くないことが起こらないといいが。
「――セシリア」
「殿下」
顔を上げると、殿下が私に手を差し出していた。
「騎士たちが到着したようだ、すぐ国に帰ろう」
「あ、はい……」
それから私たちは新しく手配した馬車に乗り、その周りを騎士たちが取り囲んで宮殿へと戻った。
護衛を多く付けているため今のところは安心だが、私の胸に渦巻く嫌な予感が消え去ることは無かった。
(何かが起こるような……そんな気がしてたまらないわ)
「セシリア、大丈夫だ。ウチの騎士たちを信じろ」
「殿下……」
私を安心させるように手を握って微笑む殿下を見て、不安はいっそう増すこととなった。
彼がいなくなってしまうような、そんな気がしてならないのだ。
「はい、殿下。ありがとうございま―――」
そう言いかけたとき、馬車の外から大きな音がした。
「「!?」」
殿下はすぐに腰に下げていた剣に手を当て、私を片手で胸に抱き締めた。
「一体何の音だ!!!」
「殿下、これは……」
再び言葉を発そうとしたとき、突然私の頭の中に外の映像が流れてきた。
(うっ……何これ……)
どうやら今私たちが乗っている馬車の外で起きていることのようだ。
外では黒いローブをかぶった多くの暗殺者が、馬車を取り囲んでいたのだ。
「殿下……大変なことになっています……」
「どうしたセシリア!何か分かるのか!?」
「暗殺者が……馬車を取り囲んでいます……」
「何だって?」
殿下は驚いた様子で私を見た。
突然の出来事に、もちろん私も驚いている。
「セシリア、外にいる暗殺者の数は分かるか?」
「十……いえ、二十人くらいはいるかと」
「そんなにもたくさん……」
殿下はチッと舌打ちをすると、倒れそうになっている私を椅子に座らせた。
「セシリア、俺は外に加勢しに行く。だからお前はここでじっとしていろ」
「殿下!待ってください!」
「大丈夫だ、必ず帰ってくるから」
殿下はフッと笑うと、剣を抜いて馬車の外へと出て行った。
「殿下!!!」
遠ざかる彼の背中に必死で手を伸ばすが、到底届かない。
そうして私は馬車の中で一人になった。
440
お気に入りに追加
5,913
あなたにおすすめの小説
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。
たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。
だけど今回は無理だった。
突然の婚約。
え?なんで?嫌だよ。
幼馴染のリヴィ・アルゼン。
ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの?
好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。
なのに気がつけば結婚させられて……
意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。
戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。
なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて……
「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。
リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど……
◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。
申し訳ありません。
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
【完結】浮気などしません、愛しているのは貴方だけです
たろ
恋愛
愛しているのはヴィオラだけなのに、王女セシリアの所為で、婚約破棄されそうになっている。
なんとか回避したい。
なのに手紙を書いても返事がこない。会うことも出来なくなって…….
セシリアと浮気をしていると噂されなんとかセシリアの護衛を辞めてヴィオラの愛を取り戻したい近衛騎士のお話です。
短編で書いてみました。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる