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三章

殺意 国王side

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「陛下、王太子殿下とフルール公爵令嬢の旅先を掴みました」
「それは本当か!?」


執務室に入ってきた側近のローレルが不敵な笑みを浮かべて言った。


(どれだけ人を使って調べても痕跡すらつかめなかったというのに……)


王太子は用心深い男で、今回の旅行の行き先を誰にも知らせなかった。
私が密かに付けていた監視も全く役に立たないほどだ。


「たしかな情報か?」
「はい、王妃陛下から得たものなので間違いないかと……」
「王妃からだと……?」


王妃の名を聞いて、私は思わず眉をひそめた。
たしかに母親である王妃ならば行き先を知っている可能性が高い。
しかし――


(あの女が私の側近を相手に本当のことを言うとは思えない……アレは昔から生意気な女だからな。きっとデマだろう)


そんな私の考えを読んでいるのか、ローレルがすぐに付け加えた。


「ご安心ください、陛下」
「何をだ?」
「――魔術を使い、王妃陛下を少々強引な方法で自白させました」
「……!」


やはりこの男は間抜けな他の奴らとは違う。
世界一優秀な私の忠臣だ。


「つまり、情報はたしかだということか」
「はい、間違いないかと」


それからローレルは調査結果を手短に報告した。


「王太子殿下は隣国にあるカルミタ王国でバカンスを満喫しているようです」
「何だと……?」


何となく予想していたことではあったものの、いざ直接確認を受けると無性に腹が立つ。


(こっちは一人寂しくしょうもない仕事をこなしているというのに、あいつは恋人と旅行か!)


さっさと殺してやりたい。
アイツの死体をセシリアに見せたらさぞ気持ちが良いだろうな。


「陛下、一つ提案があるのですが……」
「何だ?」


ローレルが私にそっと耳打ちをした。


「王太子殿下を今ここで始末してしまうというのはどうでしょう?」
「……何だと?」


王太子はいつか殺すつもりだったが、今やるのはいくら何でも早すぎるのではないか。
まだまだ利用価値があるし、今殺してしまえばアイツを慕う側近たちが黙っていないはずだ。


「何を言っている……アイツを殺るのはもう少し……」
「陛下、実は今回の旅行で予期せぬ事態が起こりました」
「……予期せぬ事態?」


ローレルが私の言葉を遮った。
そして私は彼の口からとんでもない事実を知ることになる。


「――王太子殿下がフルール公爵令嬢に手を出されました」
「……何?」


頭の中が真っ白になった。
そんなはずはない、嘘だと思いたかった。


「旅行二日目の夜、二人に付けていた密偵がただならぬ雰囲気を感じ取ったそうです」
「それは……本当なのか……」
「はい、残念なことですが……紛れも無い事実のようです」


ローレルは痛ましそうに目を伏せた。
それを聞いた私は怒りでわなわなと体を震わせていた。


(セシリアに手を出しただと……?あの餓鬼が……!)


それから実の息子に強烈な殺意を抱くようになるまで、そう時間はかからなかった。
怒りで我を失った私は、大声でローレルに命じた。


「どんな手を使ってもかまわない!!!アイツを今すぐ八つ裂きにしろ!!!」
「……陛下の仰せのままに」


(ブチ殺す……絶対に生かしてはおかない……)


「……」


このときの私は王太子に対する憎しみで全く気付いていなかった。
目の前で膝をついているローレルが「全ては計画通り」だとでもいうようにニヤリと笑みを深めていたことに――


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