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三章

婚前旅行④

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「今日で最後かぁ……」
「あっという間だったな」


旅行二日目の夜。
時刻は既に夜の十時。


宿泊先のベッドサイドに隣同士で腰掛けた私たちは、自然と肩を寄せ合った。
今日は婚前旅行の最終日だ。


(明日、国に帰ることになるのよね……)


そうしたらまた忙しい日々を送ることとなる。
お父様もまだ目覚めていないし、国王陛下だって私を諦めていないからだ。
そのことを考えるととても気が重くなるが、いつまでも目を背けているわけにはいかない。


殿下と二人で平和に過ごす。
こんな時間が次はいつ訪れるだろうか。
少なくとも、陛下たちの問題が解決するまでは永遠に無いだろう。


「殿下、とっても楽しかったです。連れて来てくださってありがとうございました」
「ああ、俺もお前と旅行出来て嬉しかった」


ベッドの上で、殿下はクスッと笑った。


「また一緒に旅行しよう。今度は俺たちの子も連れてな」
「子……!?」


彼の突然の発言に顔が真っ赤になる。


(気が早いんじゃ……?私はまだ17歳で……)


そんな私の心の中を完全に読んだのか、殿下がフッと笑いながら口を開いた。


「気が早いだなんて、別にそんなことは無いだろう。お前に似ていたら可愛いだろうな」
「で、殿下……」


思っていたことを言い当てるだなんて、読心術でも持っているのか。


(私に似ていたらだなんてそんな……)


そうは思いながらも私は、自分と彼の子供を想像してみた。
王家の特徴である黒い髪に黒い瞳を持った、殿下に似た男の子。
彼に似ていたらそれはそれは愛らしいだろう。


(早く会いたいな)


「良い提案ですね、殿下」
「ああ、お前となら温かい家庭を築いていけるような気がする」


私たちはお互いの顔を見て笑い合った。


「セシリア、明日は早い。そろそろ寝よう」
「はい、殿下」


それから私たちは同じベッドに横になった。
私に布団をかけた殿下が優しく髪に触れた。


「今日も手出したりしないから、安心しろ」
「……」


昨日の夜も私たちは同じベッドで寝たが、殿下が寝てる間私に触れることは一度も無かった。
彼は誠実な人だから当然のことなのだが、そうやってキッパリ言われてしまうと何だか寂しく感じる。


(私たちの子……)


子を作るとなると、当然そういう行為をすることとなる。
私は既に殿下と一生を添い遂げることを心に決めている。
だから今ここで関係を持ったとしても、ただ時期が早まっただけだ。


「……出しても良いですよ」
「……え?」


殿下が驚いたように目を丸くした。
自分でもこのようなことを口にするとは思わなかった。


それを聞いた彼が正気かというような目で私を見た。


「お前、後悔するぞ?」
「後悔……とは一体何のことですか?」
「俺から一生逃げられなくなる」
「元より逃げるつもりなんてありませんから。今ここで寝たところで私たちの関係は何も変わりません」


そう言いながら私は彼の服をギュッと掴んだ。


「……」



彼はしばらくその手をじっと見つめていたが、突然私の顔の横に手を付いて覆いかぶさった。


「本気で言ってるのか?後で嫌と言われても止められないぞ」
「はい、殿下になら抱かれてもかまいません」


私がそう言うと、彼は私の唇にそっとキスをした。
優しく落ちたキスは次第に深くなり、私は自然と彼の首に腕を回した。





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