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三章
婚前旅行③
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次の日の朝。
「殿下、これ可愛いと思いませんか!?」
「……そうか?」
私たちは宿泊先の近くにある町へと訪れていた。
どうやらこの国で最も栄えている都市のようで、普段から観光客が多く訪れるという。
人混みがそこまで好きではないのか、隣にいる殿下はそれほど乗り気では無かったが。
(それでもなんだかんだ付き合ってくれるところは彼の優しさよね)
「お父様にお土産を買って帰ろうと思って!きっとすぐに良くなるって信じてますから」
「そうだな、公爵はきっといつも通りになる」
笑いながらそう言った私の頭を、殿下はポンポンと撫でた。
「殿下も王妃陛下にお土産を買ったらどうですか?」
「……母上に?」
私の発言が意外だったのか、殿下が目を丸くした。
(良い提案だと思ったけれど……あまり乗り気ではないみたいね)
しばらく考え込むような素振りをした後、彼は視線を下に下げて言った。
「俺は…………母上が何を好むのかなんてほとんど知らない。昔から母はあまり感情を表に出す人では無かったから」
「殿下……」
(彼と王妃様の仲はだいぶ良くなったと思っていたけれど……まだ少し溝があるみたいね)
それでも以前と比べれば大幅に改善されたようだが。
殿下の不安そうな顔を見ていると、やはりまだ少し王妃陛下との間には蟠りがあるみたいだ。
「それなら、私と殿下の二人からの贈り物として用意しましょう」
「……何?」
「万が一王妃様が気に入らなかったとしても私が選んだんです!って言えば済む話ですから」
「セシリア、お前そこまで……」
「気にしないでください、私はいつも殿下にしてもらってばかりですから。たまには私が殿下のために動きたいんです」
「……」
(前世ではとても苦手な人だったけれど……今は違う)
王妃様と仲を深めて共に時間を過ごしていくうちに、彼女がごく普通の貴族令嬢と変わらないのだということに気が付いた。
だからきっと、普通の女の子が喜ぶものなら王妃様にとっても嬉しいはずだ。
それを踏まえて、私は近くにあった香水を手に取った。
この国にしか咲かない花を使って作られているため、ここでしか買うことが出来ないものだ。
「殿下、これはどうでしょうか?」
「……母上が好むだろうか」
「王妃様の好みは私が知っていますから。それに――」
「それに?」
私は殿下の目を正面から見つめて、ハッキリと言葉を発した。
「――殿下から贈られたものであれば、王妃様は何だって嬉しいと思います」
「……!」
私がそう言うと、彼は少しだけ嬉しそうな顔をした。
(ふふふ、殿下ったらお母様に好かれたいっていう気持ちが隠しきれてないわ)
なら、ここからは殿下に任せよう。
「品物は私が選んだので、色は殿下が選んでください」
私が選んだ香水には、色違いが五種類ほどあった。
その中にどれを選ぶかは彼に委ねることにした。
(そうね……私なら、あれを選ぶわ……)
「――これがいい」
「殿下……」
殿下が選んだのは薄い紫色の香水だった。
そして私が心の中で密かに選択していたものでもあった。
彼がそれを選んだ理由はきっと私と同じだろう。
「王妃様の瞳の色と同じで、とても綺麗ですね……」
「……ああ」
――王妃様の瞳の色とよく似ていたから。
彼は自身の母親とそっくりな色をした香水を手に取って、心からの笑みを浮かべた。
「殿下、これ可愛いと思いませんか!?」
「……そうか?」
私たちは宿泊先の近くにある町へと訪れていた。
どうやらこの国で最も栄えている都市のようで、普段から観光客が多く訪れるという。
人混みがそこまで好きではないのか、隣にいる殿下はそれほど乗り気では無かったが。
(それでもなんだかんだ付き合ってくれるところは彼の優しさよね)
「お父様にお土産を買って帰ろうと思って!きっとすぐに良くなるって信じてますから」
「そうだな、公爵はきっといつも通りになる」
笑いながらそう言った私の頭を、殿下はポンポンと撫でた。
「殿下も王妃陛下にお土産を買ったらどうですか?」
「……母上に?」
私の発言が意外だったのか、殿下が目を丸くした。
(良い提案だと思ったけれど……あまり乗り気ではないみたいね)
しばらく考え込むような素振りをした後、彼は視線を下に下げて言った。
「俺は…………母上が何を好むのかなんてほとんど知らない。昔から母はあまり感情を表に出す人では無かったから」
「殿下……」
(彼と王妃様の仲はだいぶ良くなったと思っていたけれど……まだ少し溝があるみたいね)
それでも以前と比べれば大幅に改善されたようだが。
殿下の不安そうな顔を見ていると、やはりまだ少し王妃陛下との間には蟠りがあるみたいだ。
「それなら、私と殿下の二人からの贈り物として用意しましょう」
「……何?」
「万が一王妃様が気に入らなかったとしても私が選んだんです!って言えば済む話ですから」
「セシリア、お前そこまで……」
「気にしないでください、私はいつも殿下にしてもらってばかりですから。たまには私が殿下のために動きたいんです」
「……」
(前世ではとても苦手な人だったけれど……今は違う)
王妃様と仲を深めて共に時間を過ごしていくうちに、彼女がごく普通の貴族令嬢と変わらないのだということに気が付いた。
だからきっと、普通の女の子が喜ぶものなら王妃様にとっても嬉しいはずだ。
それを踏まえて、私は近くにあった香水を手に取った。
この国にしか咲かない花を使って作られているため、ここでしか買うことが出来ないものだ。
「殿下、これはどうでしょうか?」
「……母上が好むだろうか」
「王妃様の好みは私が知っていますから。それに――」
「それに?」
私は殿下の目を正面から見つめて、ハッキリと言葉を発した。
「――殿下から贈られたものであれば、王妃様は何だって嬉しいと思います」
「……!」
私がそう言うと、彼は少しだけ嬉しそうな顔をした。
(ふふふ、殿下ったらお母様に好かれたいっていう気持ちが隠しきれてないわ)
なら、ここからは殿下に任せよう。
「品物は私が選んだので、色は殿下が選んでください」
私が選んだ香水には、色違いが五種類ほどあった。
その中にどれを選ぶかは彼に委ねることにした。
(そうね……私なら、あれを選ぶわ……)
「――これがいい」
「殿下……」
殿下が選んだのは薄い紫色の香水だった。
そして私が心の中で密かに選択していたものでもあった。
彼がそれを選んだ理由はきっと私と同じだろう。
「王妃様の瞳の色と同じで、とても綺麗ですね……」
「……ああ」
――王妃様の瞳の色とよく似ていたから。
彼は自身の母親とそっくりな色をした香水を手に取って、心からの笑みを浮かべた。
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