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三章

聖女

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「フルール嬢、聖女の肖像画を見たんだって?」
「ダリウス様、どうしてそれを……?」


数日後。
いつものように父の診察に訪れた魔術師のダリウス様が、ふとそんなことを口にした。


「グレイから聞いたよ。俺にも調べてほしいって言ってきたからな」
「そうだったんですね……」


ダリウス様は殿下が信頼している魔術師様だ。
私はつい最近まで全くその存在を知らなかったが。


「はい、肖像画を見つけたのは本当です。しかし、私には何が何だか……」
「……あの肖像画、アンタによく似てたな」
「それは……そうですね……」


私とお母様によく似た初代聖女の肖像画。
絵の中で優しく微笑む聖女の顔は今でも頭から離れない。


「ダリウス様は……何かそのことについてご存知なのですか?」
「さぁ、俺はこの国の歴史については詳しくないからな。ただ、グレイから聖女に関しては何回か聞いたことがある」
「何を……お聞きになったのですか?」


私が尋ねると、ダリウス様は手を止めてこちらを振り向いた。
そして、視線を逸らして頭を掻いた。


「あー……これ言ったらアイツに怒られちゃうかな」
「……ダリウス様?」
「まぁ、いいか。もし怒られたらアンタが俺を庇ってくれよ」
「……?」


ダリウス様は私としっかりと目を合わせると、真剣な面持ちで口を開いた。


「昔アイツが言ってたんだ。聖女は国の奴隷だったって」
「………………え?」


(国の奴隷?一体どういうこと?聖女は国を守る神聖な存在じゃ……)


この国に奴隷などという身分は存在しない。
そのはずなのに聖女が奴隷だったなんて、一体どういうことなのだろうか。


「その名前の通りだ。国のために生き、国のために尽くして、最後は国のために死ぬ。それが聖女として生きる道だ」
「そ、そんな……」
「信じられないのも無理はない。だが、少なくとも初代聖女はそうやって死んでいったらしい。だからこそ、貴族や国民たちには存在が秘匿されているんだと」
「それは……本当に殿下が言っていたことなのですか?」


そんなのは初耳だ。
聖女といえば王太子妃教育でも少し触れられる程度だったのに、何故殿下がそこまで……。
そもそも聖女についての情報はほとんどない状態で、どうやってそんなことを知ったのかも気になる。


「フルール嬢はオルレリアン王国の初代国王を知っているか?」
「もちろんです。初代国王アルテールといえば、賢王として有名ですから」
「ああ、そうだな。でもあれも実は聖女のおかげだったんじゃないかって憶測がある」
「え!?」
「初代国王アルテールが様々な功績を残し、国を豊かに出来たのは全部裏で聖女が暗躍していたからなんじゃないかってグレイが言ってた。初代聖女が存在していた時期はちょうどアルテールが王位に就いていた頃だからな」
「そ、それは……」


もしその憶測が正しいのなら。


(秘匿されていた聖女の功績は全て国王のものになっていたということ……?)


そんなことを考えて愕然とした。


「お嬢さん、このことは内緒にしてくれよ?バレたら俺が打ち首になる」
「も、もちろんです!誰かに言ったりしません!」


こんなこと他の誰かに言えるはずが無い。
それに初代国王は国民全員から崇められる存在だから、口にしたところで信じてもらえないだろう。


(でも何だか、とんでもない話を聞いてしまったわ)


ダリウス様はいたって平然としていたが、こんなこと私が知って本当に良かったのだろうか。


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