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三章

肖像画

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禁書庫から出ると、その先で偶然殿下とお会いした。


「セシリア、何か見つけられたか?」
「あ、殿下……」


私は禁書庫で見たものを包み隠さず殿下に話した。


「聖女の肖像画……?何故そんなものがあそこに……?」
「分かりません、でも……描かれていた人物は私とお母様にそっくりでした」
「お前とフルール公爵夫人によく似た人物……」


殿下は顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、私の手をギュッと握った。


「セシリア、俺をそこに連れて行ってくれるか?」
「あ、はい、殿下!」


私は殿下の手を引いて聖女の肖像画が置かれていた場所まで戻った。


「これが私がさっき言っていた物です」
「たしかに……お前によく似ているな……」


殿下は肖像画を手に取ってじっと見つめた。


(殿下は何か知っているのかしら……この肖像画について……)


彼は王太子だから私よりもオルレリアン王国の歴史については詳しいだろう。
だからもしかすると、私の知らない何かを知っているかもしれない。


「聖女か……これはなかなか厄介だな……」
「殿下、どうかなさったのですか?」


その声に振り返った殿下は、突然私の肩をガシッと掴んだ。


「殿下……?」
「いいか、セシリア。ここで見たことは誰にも話すんじゃない。どれだけ信頼出来る相手でもだ」
「え、それはどうして……」
「とにかく、分かったな?」
「は、はい……」


私が頷くのを確認した彼は肖像画を懐に閉まった。


「俺は急用が出来た。マルクに送らせよう」
「え……」


呆然とする私に、殿下は背を向けてそれだけ言った。
これから一体何をするつもりなのか。
それは危ないことではないのか。


途端に不安になった私は、遠ざかる彼の背中に向かって尋ねた。


「殿下、何をなさるおつもりで……?」
「……」


尋ねられた殿下は、足を止めた。
それからゆっくりとこちらを振り返った。


振り向いた彼の瞳は、少しだけ切なそうに揺れていた。


「――セシリア、落ち着いたら全部話すから。だから今は少しだけ待っていてくれないか」
「殿下……」


深刻な表情の彼に、私は結局何も聞くことが出来なかった。







***





「聖女か……」


公爵邸へ戻った私は、その日一日の出来事を整理していた。
王宮へ行ったらヘレイス男爵令嬢と出会って、禁書庫で聖女の肖像画を発見して。


(今日は何だか、色んなことがあった一日だったな……)


そしてお父様は相変わらず目覚めないままだ。
先ほど様子を見に行ったが、目が覚める気配は今のところない。


(きっとお父様が全快するまでこんな気持ちなんだろうな……)


表では平気なフリをしているが、本当は父親のことが心配でたまらなかった。
こんなに気持ちが落ち着かないのは初めてかもしれない。
私は今それほどまでに、心に余裕が無かった。


(ダリウス様によると、お父様の体は既にボロボロの状態……一刻も早く治療をしないと命が危ないわ)


残された時間は後僅かだ。
今さらこんなことをしたところで、手遅れになる可能性の方が高いだろう。


だけど、諦めたりはしない。
何が何でも、お父様を救ってみせる――



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