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二章

いつも通りの日常

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王妃陛下と殿下と三人で話をしたあの日から一ヶ月が経った。
今日は定期的に行われる婚約者とのお茶会の日である。


「殿下、最近王妃陛下とよくお茶をなさっているようですね?」
「だ、誰から聞いたんだ!?」
「ふふふ、噂話は王宮の外にまで届いてるんですよ」
「じょ、冗談だろ……」


殿下と王妃様はかなり仲良くしているらしい。
今社交界はその話題で持ち切りだ。
そうなるのも当然だろう。


グレイフォード王太子殿下と両親の仲があまりよろしくないことはこの国では有名な話だったからだ。
だからこそ、話を聞いた全員が信じられないというような顔をした。


(本当に二人の仲が改善されて良かった~!頑張った甲斐があったわ)


決して楽なものでは無かったが、大変だったからこそやりきったときの達成感は大きい。
そしてそれと同時に、私と王妃様が和解したという情報まで広まっていた。


(これで国王陛下は無暗に私と殿下に手を出せなくなるはずよ)


全てが思惑通りだ。
王妃様の良心を利用したかのような形になるのは心苦しいが、私も今では本心から王妃陛下を慕っている。


(それほど悪い人ではなかったのよね)


話してみて分かったのは、王妃様は言葉足らずで素直になれない人だということ。
冷たい容姿と高い身分から周囲の人間からは敬遠され続けて今に至るらしい。


(うふふ、もっと仲良くなったらマークさんについての話も聞いてみようっと!)


目標は王妃陛下との恋バナだ。
今では陛下とのお茶の時間が楽しみにもなっている。
もちろん、殿下の次だが。


「殿下、恥ずかしがらないで王妃陛下との話してくださいよ!私たちの間に隠し事は無しです!」
「……分かったよ、もう」


ねだるようにそう言った私を見て、彼は困ったように眉を下げた。


「王妃様とどんなことを話していらっしゃるのですか?」
「どんなこと、か……まだ幼かった頃の俺の話とかだな……」
「へぇ、殿下の子供の頃の話聞いてみたいです!」
「お前は知らなくていいよ」


殿下がぷいっと顔を背けた。


(みんなの前では完璧な王子様なのに……)


彼のこの一面を知っているのが私だけだと思うと何だか嬉しくなる。


「時間が合えばまた三人でお茶しましょう、私と殿下と王妃様で」
「お前も母上とよくやってるみたいだな。嬉しいよ」
「はい、王妃様は素直じゃないんです。そこのところ殿下にそっくりです」
「……それ褒めてるのか?」
「もちろんです、私はそんな殿下が大好きですから」


大好きというその言葉に、殿下の顔が真っ赤になった。


(まだ恥ずかしいみたい……)


いつものように思っていることだが、私はそんな彼がとても愛おしい。


「――おい」
「はい、殿下」


そのとき、突然彼が私に手を差し出した。


「……殿下?」


疑問に思いながらもその手を取ると、突然私は体を引っ張られた。


「……え」


そして気が付けば、私は殿下の膝の上にいた。


「で、殿下!?」
「じっとしてろ」


私の腰をギュッと抱き寄せると、彼はそのまま肩口に顔をうずめた。


(ちょ、ちょっと待って!私こんな……)


彼の髪の毛からほんのりと甘い香りが鼻をくすぐった。
心臓が破裂しそうなほど脈を打っていたが、必死で抑えた私はそっと殿下の背中を抱き締めた。


そして彼の耳元でそっと囁いた。


「殿下、愛しています」


彼はしばらくの間何も言わずじっとしていたが、私を抱き締める手に力を込めると低い声で言った。


「――俺もだ、世界で一番愛してる」


肩口に顔をうずめたまま返ってきた言葉に、私はクスリと笑みを溢した。






―――――――――――――――――


二章終わりです!
三章もよろしくお願いします!

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