82 / 127
二章
間違った愛 王妃エリザベスside
しおりを挟む
息子のことはとても大切だ。
しかし、それ以上に夫の当たりが強くなることへの恐怖の方が勝った。
(こうするしかないのよ……ごめんね……)
私の唯一の息子をあの男から守るためには、これしかなかった。
息子に対する罪悪感で胸がいっぱいだったが、悲惨な死を遂げるよりかはマシだ。
そして私は、息子の婚約者となったリーナの娘にさえキツく当たった。
「王妃様!こんにちは!」
「……」
歩み寄ろうとするリーナの娘――セシリアに徹底的に冷たく接した。
理由は……おそらく後ろめたさがあったからだろう。
セシリアの母親を殺した人物は、他でもない私の夫だったから。
そんなことを知らず、母親を殺した男を義父として慕う彼女を見ると酷く同情した。
そしてもう一つ、私はあの男に関する衝撃的な事実を知った。
(まさかあの人、リーナの娘を一人の女として見ているの……?)
夫に対する気持ち悪さと嫌悪感で心が埋め尽くされた。
まだ幼いリーナの娘、セシリア。
成長前ではあるが、周囲の人間は口々に母親であるリーナに瓜二つだと言った。
国王はリーナを愛している。
愛しすぎて、最後は自分の手で殺害してしまった。
今度は娘を標的にしたのか。
本当に何て男なんだ。
このときばかりはセシリアを不憫に思った。
夫の考えていることは私にも分かった。
おそらくセシリアと自分の息子を結婚させ、永遠に自分の手元に置いておくつもりなのだろう。
絶世の美女・リーナにそっくりな容姿に、王国屈指の名門フルール公爵家の令嬢という高い地位。
セシリアを手に入れれば父親であるフルール公爵さえも配下に置くことが出来るのだ。
(本当に、ずる賢い男ね……)
彼の両親である先代の国王陛下と王妃陛下はあれほど優しい人だったのに。
何故このような怪物が生まれてしまったんだろう。
(私の息子は絶対にこの男のようにはならないわ)
必要以上に厳しくするという私の教育方針は変わることはなかった。
いや、そんな男の姿を見て私の決心はより強固なものになった。
――今思えば、それが間違っていたのかもしれない。
厳しすぎる教育により、息子は笑わなくなった。
そして私は、そんな息子に負い目を感じて親子の交流を最低限に抑えるようになった。
(私は……母親として、人として失格だったんだわ……)
ついさっき見たセシリアの姿が頭に浮かんだ。
リーナによく似ていて、心優しい女の子だった。
おとぎ話の中なら、私は間違いなく意地悪な継母という役柄になるだろう。
それほどに私の仕打ちは酷いものだった。
「セシリア……」
久しぶりに見た愛する息子の笑顔。
もしかすると、あの子なら息子を幸せにしてくれるかもしれない。
そんな思いが、私の中で芽生え始めた。
しかし、それ以上に夫の当たりが強くなることへの恐怖の方が勝った。
(こうするしかないのよ……ごめんね……)
私の唯一の息子をあの男から守るためには、これしかなかった。
息子に対する罪悪感で胸がいっぱいだったが、悲惨な死を遂げるよりかはマシだ。
そして私は、息子の婚約者となったリーナの娘にさえキツく当たった。
「王妃様!こんにちは!」
「……」
歩み寄ろうとするリーナの娘――セシリアに徹底的に冷たく接した。
理由は……おそらく後ろめたさがあったからだろう。
セシリアの母親を殺した人物は、他でもない私の夫だったから。
そんなことを知らず、母親を殺した男を義父として慕う彼女を見ると酷く同情した。
そしてもう一つ、私はあの男に関する衝撃的な事実を知った。
(まさかあの人、リーナの娘を一人の女として見ているの……?)
夫に対する気持ち悪さと嫌悪感で心が埋め尽くされた。
まだ幼いリーナの娘、セシリア。
成長前ではあるが、周囲の人間は口々に母親であるリーナに瓜二つだと言った。
国王はリーナを愛している。
愛しすぎて、最後は自分の手で殺害してしまった。
今度は娘を標的にしたのか。
本当に何て男なんだ。
このときばかりはセシリアを不憫に思った。
夫の考えていることは私にも分かった。
おそらくセシリアと自分の息子を結婚させ、永遠に自分の手元に置いておくつもりなのだろう。
絶世の美女・リーナにそっくりな容姿に、王国屈指の名門フルール公爵家の令嬢という高い地位。
セシリアを手に入れれば父親であるフルール公爵さえも配下に置くことが出来るのだ。
(本当に、ずる賢い男ね……)
彼の両親である先代の国王陛下と王妃陛下はあれほど優しい人だったのに。
何故このような怪物が生まれてしまったんだろう。
(私の息子は絶対にこの男のようにはならないわ)
必要以上に厳しくするという私の教育方針は変わることはなかった。
いや、そんな男の姿を見て私の決心はより強固なものになった。
――今思えば、それが間違っていたのかもしれない。
厳しすぎる教育により、息子は笑わなくなった。
そして私は、そんな息子に負い目を感じて親子の交流を最低限に抑えるようになった。
(私は……母親として、人として失格だったんだわ……)
ついさっき見たセシリアの姿が頭に浮かんだ。
リーナによく似ていて、心優しい女の子だった。
おとぎ話の中なら、私は間違いなく意地悪な継母という役柄になるだろう。
それほどに私の仕打ちは酷いものだった。
「セシリア……」
久しぶりに見た愛する息子の笑顔。
もしかすると、あの子なら息子を幸せにしてくれるかもしれない。
そんな思いが、私の中で芽生え始めた。
210
お気に入りに追加
5,965
あなたにおすすめの小説
【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。
たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。
だけど今回は無理だった。
突然の婚約。
え?なんで?嫌だよ。
幼馴染のリヴィ・アルゼン。
ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの?
好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。
なのに気がつけば結婚させられて……
意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。
戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。
なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて……
「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。
リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど……
◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。
申し訳ありません。
【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる