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二章

兄との会話 王妃エリザベスside

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「お兄様……」


父親の執務室から出た私は、廊下を歩いている途中で王太子である実の兄と出くわした。
兄は私の四つ上で、幼い頃はよく一緒に遊んだものだがここ最近は王太子教育が忙しくほとんど話をしていなかった。


「エリザベス、父上と話したんだって?」
「はい、お父様から大事なお話がありました」
「そうか……」


お兄様は心当たりがあるのか、少し視線を下に向けた。


(私を心配しているのかしら?お兄様は厳しくも、とても優しい方だったから……)


兄は父と似た容姿をしているが、性格は厳格な父親と違って比較的穏やかだった。
そして私はそんなお兄様が大好きだった。
若い頃のお父様にそっくりだと言われているものの、その優しさは今は亡きお母様を感じさせた。


「オルレリアン王国の王太子殿下との縁談が決まったそうです。輿入れの準備をしなければいけませんね」
「エリザベス……!」


嫁ぐのは嫌だったけれど、お兄様にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
父が決めたことなのだから、私は大人しく従うだけ。


「エリザベス、お前は……」
「はい、お兄様」


兄は言うのを渋っていたようだったが、しばらくして何かを決めたかのように口を開いた。


「お前は、本当にそれでいいのか?」
「……?何を言って……」


お兄様の言っていることの意味は分からなかったが、兄の目は真剣そのものだった。


(お兄様は誰よりも責務を果たす人なのに、こんなことを言うなんて珍しい)


もしかして、私に選択肢を与えようとしているのだろうか。
お兄様はたった一人の妹に幸せな人生を送ってほしいのかもしれない。


「お兄様、そのようなことを言ってはいけません」
「エリザベス……」
「私は王女です。いつかはこんな日が来ること、分かっていましたから」
「だが、相手は……」
「大丈夫ですよ、お兄様」


そう、オルレリアン王国の王太子は見目麗しい方だがある一人のご令嬢に長年想いを寄せていると話題になっている人物でもあった。
他に想う人のいる相手に嫁いで、幸せになれることなんてほとんど無い。
お兄様はそれを知っているからそんな風にするのだろう。


(私だってそんな人……)


御免だったが、拒否権など存在しないのだ。
お兄様は私の気持ちを痛いほど理解しているのか、悲しそうに目を伏せた。


(立場に縛られ、愛の無い結婚をするのは私もお兄様も同じ……)


私たち王族は自由な結婚なんてものは諦めている。


「元気でいてください、お兄様。私もオルレリアン王国で幸せになってきますから」
「ああ、そうだな。私も立派な王になる」


次にお兄様に会えるのは、他愛もない話が出来るのはいつになるだろうか。
考えるだけ考えて、何だか泣きそうになってしまった。


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