75 / 127
二章
兄との会話 王妃エリザベスside
しおりを挟む
「お兄様……」
父親の執務室から出た私は、廊下を歩いている途中で王太子である実の兄と出くわした。
兄は私の四つ上で、幼い頃はよく一緒に遊んだものだがここ最近は王太子教育が忙しくほとんど話をしていなかった。
「エリザベス、父上と話したんだって?」
「はい、お父様から大事なお話がありました」
「そうか……」
お兄様は心当たりがあるのか、少し視線を下に向けた。
(私を心配しているのかしら?お兄様は厳しくも、とても優しい方だったから……)
兄は父と似た容姿をしているが、性格は厳格な父親と違って比較的穏やかだった。
そして私はそんなお兄様が大好きだった。
若い頃のお父様にそっくりだと言われているものの、その優しさは今は亡きお母様を感じさせた。
「オルレリアン王国の王太子殿下との縁談が決まったそうです。輿入れの準備をしなければいけませんね」
「エリザベス……!」
嫁ぐのは嫌だったけれど、お兄様にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
父が決めたことなのだから、私は大人しく従うだけ。
「エリザベス、お前は……」
「はい、お兄様」
兄は言うのを渋っていたようだったが、しばらくして何かを決めたかのように口を開いた。
「お前は、本当にそれでいいのか?」
「……?何を言って……」
お兄様の言っていることの意味は分からなかったが、兄の目は真剣そのものだった。
(お兄様は誰よりも責務を果たす人なのに、こんなことを言うなんて珍しい)
もしかして、私に選択肢を与えようとしているのだろうか。
お兄様はたった一人の妹に幸せな人生を送ってほしいのかもしれない。
「お兄様、そのようなことを言ってはいけません」
「エリザベス……」
「私は王女です。いつかはこんな日が来ること、分かっていましたから」
「だが、相手は……」
「大丈夫ですよ、お兄様」
そう、オルレリアン王国の王太子は見目麗しい方だがある一人のご令嬢に長年想いを寄せていると話題になっている人物でもあった。
他に想う人のいる相手に嫁いで、幸せになれることなんてほとんど無い。
お兄様はそれを知っているからそんな風にするのだろう。
(私だってそんな人……)
御免だったが、拒否権など存在しないのだ。
お兄様は私の気持ちを痛いほど理解しているのか、悲しそうに目を伏せた。
(立場に縛られ、愛の無い結婚をするのは私もお兄様も同じ……)
私たち王族は自由な結婚なんてものは諦めている。
「元気でいてください、お兄様。私もオルレリアン王国で幸せになってきますから」
「ああ、そうだな。私も立派な王になる」
次にお兄様に会えるのは、他愛もない話が出来るのはいつになるだろうか。
考えるだけ考えて、何だか泣きそうになってしまった。
父親の執務室から出た私は、廊下を歩いている途中で王太子である実の兄と出くわした。
兄は私の四つ上で、幼い頃はよく一緒に遊んだものだがここ最近は王太子教育が忙しくほとんど話をしていなかった。
「エリザベス、父上と話したんだって?」
「はい、お父様から大事なお話がありました」
「そうか……」
お兄様は心当たりがあるのか、少し視線を下に向けた。
(私を心配しているのかしら?お兄様は厳しくも、とても優しい方だったから……)
兄は父と似た容姿をしているが、性格は厳格な父親と違って比較的穏やかだった。
そして私はそんなお兄様が大好きだった。
若い頃のお父様にそっくりだと言われているものの、その優しさは今は亡きお母様を感じさせた。
「オルレリアン王国の王太子殿下との縁談が決まったそうです。輿入れの準備をしなければいけませんね」
「エリザベス……!」
嫁ぐのは嫌だったけれど、お兄様にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
父が決めたことなのだから、私は大人しく従うだけ。
「エリザベス、お前は……」
「はい、お兄様」
兄は言うのを渋っていたようだったが、しばらくして何かを決めたかのように口を開いた。
「お前は、本当にそれでいいのか?」
「……?何を言って……」
お兄様の言っていることの意味は分からなかったが、兄の目は真剣そのものだった。
(お兄様は誰よりも責務を果たす人なのに、こんなことを言うなんて珍しい)
もしかして、私に選択肢を与えようとしているのだろうか。
お兄様はたった一人の妹に幸せな人生を送ってほしいのかもしれない。
「お兄様、そのようなことを言ってはいけません」
「エリザベス……」
「私は王女です。いつかはこんな日が来ること、分かっていましたから」
「だが、相手は……」
「大丈夫ですよ、お兄様」
そう、オルレリアン王国の王太子は見目麗しい方だがある一人のご令嬢に長年想いを寄せていると話題になっている人物でもあった。
他に想う人のいる相手に嫁いで、幸せになれることなんてほとんど無い。
お兄様はそれを知っているからそんな風にするのだろう。
(私だってそんな人……)
御免だったが、拒否権など存在しないのだ。
お兄様は私の気持ちを痛いほど理解しているのか、悲しそうに目を伏せた。
(立場に縛られ、愛の無い結婚をするのは私もお兄様も同じ……)
私たち王族は自由な結婚なんてものは諦めている。
「元気でいてください、お兄様。私もオルレリアン王国で幸せになってきますから」
「ああ、そうだな。私も立派な王になる」
次にお兄様に会えるのは、他愛もない話が出来るのはいつになるだろうか。
考えるだけ考えて、何だか泣きそうになってしまった。
159
お気に入りに追加
5,930
あなたにおすすめの小説
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる