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二章

王女の責務 王妃エリザベスside

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もう何十年も前の話だ。
それは、ここに嫁いでくる前、私がまだ隣国の第一王女だった頃。


「第一王女殿下よ!」
「いつ見ても本当に美しい方だわ……」
「美しい容姿に王女という身分。淑女の鑑とも言われているし、あんな方と親しくなれたらどれほど幸せかしら……」


王女だった私は、いつか他国へ嫁に行くために厳しく育てられていたこともあり、マナーや礼儀作法に関して他の令嬢たちとは格が違った。
誰もが私を完璧な女だと褒め称える。
外見も身分も全てを持ち合わせた超人だと。


「……」


しかし、そんな人々の賞賛を聞いたところで特に何とも思わなかった。


(私はお父様にとってただの道具にすぎない……お兄様のように跡を継げるわけでもないのだから……)


私が生まれ育ったこの国で王位を継げるのは男児のみ。
女として生まれた私は、国のために他国へ嫁ぐことが代々定められている。
本当はよく知らない男の元になど嫁ぎたくは無かったが、王女として生まれた以上そんなことは言ってられない。


(歴代の王女たちだってみんなそうしてきたもの……我儘を言うわけにはいけないわ)


いっそ男として生まれたらどれほど良かっただろうか。
国を守る騎士になったり、もっと他に使い道があっただろうに。


私の人生は生まれたその瞬間から既に決められたようなものだ。
私はそんな自分の人生に嫌気が差していた。


(令嬢たちも家のための政略結婚を嫌がるけれど、母国に残れるだけ良いじゃない……私よりもずっとマシな状況だわ)


私の実の父親である国王陛下はとても厳格な人で、可愛がってもらった記憶はほとんど無い。
そんな父とは反対に、穏やかで優しい性格をしていた母親は幼い頃に病気で亡くなっている。


母が亡くなってからというもの、私の味方は四つ上の兄だけだった。
しかし、その兄も最近王太子教育が忙しくてなかなか会えていない。


(寂しいわ……)


整ってはいるが冷たい美貌と貴族たちから言われる私は、皆から敬遠されている。
親しくしている友人だっていない。


だからだろうか、遠く離れた見知らぬ国へ嫁ぐことに対してそれほど抵抗が無い。


(お兄様に会えなくなるのは寂しいけれど……)


そんなことは言ってられない。
好きな相手に嫁ぎたいだなんてお父様が認めるはずが無い。
家庭を顧みない仕事人間の父は、国のためなら喜んで私を差し出すだろう。


(……良いわ、別に想いを寄せている相手がいるわけでもないし)


それなら私はしきたりに倣って他国へ行くまでだ。


このときの私は自分の人生についてそんな風に思っていた。
国のために自分が犠牲になるのは仕方のないことだと。


しかし、ある少年と出会い、私の考えは大きく変わってしまうこととなる。


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