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二章
王妃様へのプレゼント
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「セシリア、俺がお前について行けるのはここまでだ」
「殿下……」
彼は私を王妃陛下のいる庭園のすぐ近くまで送ると、名残惜しそうな表情でそう言った。
私も殿下と離れるのは寂しいが、こればっかりは仕方がない。
彼は王太子という立場で、とても忙しい人だったから。
「殿下、送ってくださってありがとうございました」
「気にするな、婚約者として当然のことだ」
殿下はフッと微笑んだ。
そして顔をグッと近づけると、耳元でそっと囁いた。
「頑張れよ」
「……!」
思いがけない殿下からのエールに、何だか胸が熱くなる。
「……はい、殿下」
私が小さく返事をすると、彼は満足そうな笑みを浮かべてこの場を去って行った。
私はそんな殿下の後ろ姿を見ながら心の中で呟いた。
(今までたくさん助けてもらったから……今度は私が……)
――殿下のことを助けたい。
そんな強い思いを胸に抱いて、庭園へと足を踏み入れた。
(相変わらず綺麗だなぁ……)
王妃陛下が管理している場所だと聞いているが、離れにある庭園と同じくらい美しい場所だった。
私は手に持ったガーベラの花束をじっと見つめた。
(王妃陛下……喜んでくれるかな……)
不安な気持ちが無いことはなかったが、こんなにも美しい花たちを見ていると自然とそんな思いも消えていくようだった。
しばらくして、王妃陛下の姿が見えた。
(いたわ!)
前と変わらず、庭園でお茶をしているようだった。
そしてその顔はいつもよりもかなり穏やかなものに見える。
(普段は氷のようなお方だと思っていたけれど……)
今は全くそんな風には見えない。
公の場でしか陛下を見たことがない人なら信じられないほどだろう。
私はお茶の香りと美しい花々を楽しんでいる王妃陛下にそっと近付いた。
「王妃陛下」
「……?」
声に気付いた陛下がこちらを振り向いた。
「陛下、お久しぶりでございます」
「……どうして貴方がここに」
私を視界に入れた途端に、先ほどまで見せていた王妃陛下の朗らかな笑みは一瞬にして消えた。
(うう!辛いけど耐えるのよ、セシリア!)
私は口元に笑みを浮かべて陛下を見つめた。
「王妃陛下、今日は陛下に渡したいものがあってここまで来たのです」
「……渡したいもの?」
そこで私は、背に隠していた花束を前に出した。
「王妃陛下と仲良くなりたいと思い、用意したのです」
「……」
「お近付きの印です、陛下」
そう言いながら私は王妃陛下に花束を差し出した。
平然を装ってはいたが、内心かなりドキドキしていた。
しかし陛下はしばらくの間花をじっと見つめた後、突然ぷいっと顔を背けた。
「帰ってくれないかしら」
「……!」
陛下はまるで見たくないとでも言うかのように私の方を見ずに言った。
(そりゃあ、最初から素直に受け取ってくれるとは思っていなかったけれど……)
それでも私はめげなかった。
「王妃陛下、この花だけでも……」
「貴方からのそれは受け取らないわ。今すぐ帰ってちょうだい」
「……」
”私からのプレゼントは受け取らない”という王妃陛下の意志は強いようで、なかなか折れてはくれなかった。
そこで私はある作戦を実行に移すことにした。
(もし王妃陛下が花好きな方なら……これは見過ごせないはず……)
私はわざとらしく悲しげな顔をした。
「そうですか……なら、この花は捨てることにしますね……」
「!?」
陛下は驚いたように勢いよく振り返った。
「なっ……捨てるだなんて……どうして……」
「王妃陛下が受け取ってくださらないのならそうするしかありませんから。悲しいですが、仕方の無いことです。突然こんなことをして申し訳ありませんでした、陛下」
私がそう言って立ち去ろうとすると、王妃陛下が慌てて私を引き留めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「……陛下?」
彼女はひどく焦ったような顔をしていた。
「気が変わったわ。その花は私の方で管理することにしたわ」
「陛下……この花は受け取れないのでは?」
「ふん、ただの気まぐれよ」
結果として、王妃陛下は私が用意した花を受け取ってくれたのであった。
もちろんこれは私の策略である。
最初から簡単に退く気などなかったから。
(作戦、成功!)
私は心の中でガッツポーズをした。
「殿下……」
彼は私を王妃陛下のいる庭園のすぐ近くまで送ると、名残惜しそうな表情でそう言った。
私も殿下と離れるのは寂しいが、こればっかりは仕方がない。
彼は王太子という立場で、とても忙しい人だったから。
「殿下、送ってくださってありがとうございました」
「気にするな、婚約者として当然のことだ」
殿下はフッと微笑んだ。
そして顔をグッと近づけると、耳元でそっと囁いた。
「頑張れよ」
「……!」
思いがけない殿下からのエールに、何だか胸が熱くなる。
「……はい、殿下」
私が小さく返事をすると、彼は満足そうな笑みを浮かべてこの場を去って行った。
私はそんな殿下の後ろ姿を見ながら心の中で呟いた。
(今までたくさん助けてもらったから……今度は私が……)
――殿下のことを助けたい。
そんな強い思いを胸に抱いて、庭園へと足を踏み入れた。
(相変わらず綺麗だなぁ……)
王妃陛下が管理している場所だと聞いているが、離れにある庭園と同じくらい美しい場所だった。
私は手に持ったガーベラの花束をじっと見つめた。
(王妃陛下……喜んでくれるかな……)
不安な気持ちが無いことはなかったが、こんなにも美しい花たちを見ていると自然とそんな思いも消えていくようだった。
しばらくして、王妃陛下の姿が見えた。
(いたわ!)
前と変わらず、庭園でお茶をしているようだった。
そしてその顔はいつもよりもかなり穏やかなものに見える。
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今は全くそんな風には見えない。
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私はお茶の香りと美しい花々を楽しんでいる王妃陛下にそっと近付いた。
「王妃陛下」
「……?」
声に気付いた陛下がこちらを振り向いた。
「陛下、お久しぶりでございます」
「……どうして貴方がここに」
私を視界に入れた途端に、先ほどまで見せていた王妃陛下の朗らかな笑みは一瞬にして消えた。
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私は口元に笑みを浮かべて陛下を見つめた。
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「……渡したいもの?」
そこで私は、背に隠していた花束を前に出した。
「王妃陛下と仲良くなりたいと思い、用意したのです」
「……」
「お近付きの印です、陛下」
そう言いながら私は王妃陛下に花束を差し出した。
平然を装ってはいたが、内心かなりドキドキしていた。
しかし陛下はしばらくの間花をじっと見つめた後、突然ぷいっと顔を背けた。
「帰ってくれないかしら」
「……!」
陛下はまるで見たくないとでも言うかのように私の方を見ずに言った。
(そりゃあ、最初から素直に受け取ってくれるとは思っていなかったけれど……)
それでも私はめげなかった。
「王妃陛下、この花だけでも……」
「貴方からのそれは受け取らないわ。今すぐ帰ってちょうだい」
「……」
”私からのプレゼントは受け取らない”という王妃陛下の意志は強いようで、なかなか折れてはくれなかった。
そこで私はある作戦を実行に移すことにした。
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「!?」
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「陛下……この花は受け取れないのでは?」
「ふん、ただの気まぐれよ」
結果として、王妃陛下は私が用意した花を受け取ってくれたのであった。
もちろんこれは私の策略である。
最初から簡単に退く気などなかったから。
(作戦、成功!)
私は心の中でガッツポーズをした。
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