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二章
殿下と王妃陛下
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(す、すごく緊張する……!)
前世でも王妃陛下と会うのは国王陛下以上に緊張したものだ。
私の記憶の中にいる王妃陛下はとても気難しい方で、誰に対しても心を閉ざしているように見えた。
(そんな方が私の願いなんて聞いてくださるのかしら……)
血の繋がりを持った息子である殿下が直々に頼み込めば話は別かもしれないが、何だか複雑な心境だ。
王妃陛下の傍までやってくると、近くに控えていた侍女と騎士が私たち二人を見て一礼した。
それに気付いた陛下がくるりと後ろを振り返った。
「グレイフォード……?どうしてここに……って、貴方は……」
陛下は最初に殿下を視界に入れた後、隣を歩いていた私に目をやった。
もちろん不快そうな顔は隠しきれていない。
(やっぱりそうなるわよね……)
予想していた反応だが、こうも顔に出されるとショックだ。
そんな私の気持ちに気付いたのか、殿下が私を庇うようにして前に出た。
「母上、今日は頼みがあってここまで来たのです」
「頼み……?」
殿下の背中に視界を遮られた。
まだまだ成長途中だが、私よりも背は高くその背中はとても逞しく見えた。
(殿下……)
優しい彼についつい甘えたくなってしまう。
でもそれではダメだ。
私は大丈夫だと視線で殿下に伝え、再び王妃陛下の前に出た。
「二人揃って何の用かしら?」
「その前に、人払いをお願い出来ますでしょうか」
「……貴方たち、離れていなさい」
王妃陛下は面倒臭そうにしながらも、しっかりと人払いをしてくれた。
「わざわざそんなことをしなければいけないだなんて、余程大事な話のようね」
「はい、母上」
「それは隣にいるフルール公爵令嬢に関することなのかしら?」
「その通りです」
「やっぱりね」
王妃陛下は私を見てムスッとした顔になった。
私はその隙を逃さず、陛下に挨拶をするためにカーテシーをした。
「王妃陛下、お久しぶりでございます」
「ええ、そうね」
陛下はぶっきらぼうにそれだけ返すと、すぐに殿下の方に視線を戻した。
(私の顔は見たくもないようね……)
以前の私は母娘になるのだからと王妃陛下とも仲良くしたいと思っていた。
しかし、今の王妃陛下の様子を見るとやはり不可能なのではないかと不安感が押し寄せてきた。
「それで、何かしら?早く頼みというものを言ってみなさい」
「はい、実は――」
殿下は王妃陛下の前で包み隠すことなく全てを話した。
国王陛下が私を狙っていること、私を守ってほしいこと。
王妃陛下は自身の夫が企んでいることを知っていたのか、驚く様子を見せずにただじっと殿下の話を聞いているだけだった。
「母上、どうかお願いします」
全てを言い終えた殿下は深く頭を下げた。
それに倣って私も同じように頭を下げる。
殿下と私のこの想いは、果たして王妃陛下に届くのだろうか。
ドキドキしながら王妃陛下の返事を待っていたが、頭上から降ってきたのは非常に冷たい声だった。
「ハッ……それが頼みですって?」
「……」
その声に私と殿下は顔を上げた。
目の前にいる王妃陛下は、不愉快極まりないと言った顔を私たちに向けていた。
「将来王妃になるというのに、そんなことも一人で解決出来ないだなんてハッキリ言って情けないわ」
「母上……」
その言葉に、殿下は悔しそうな顔をした。
「私が貴方たちの抱えている事情に関与することは無いわ。分かったなら早く帰りなさい」
「待ってください、母上」
「王妃陛下……!」
それから私たちは王妃陛下によってすぐに庭を追い出されてしまった。
前世でも王妃陛下と会うのは国王陛下以上に緊張したものだ。
私の記憶の中にいる王妃陛下はとても気難しい方で、誰に対しても心を閉ざしているように見えた。
(そんな方が私の願いなんて聞いてくださるのかしら……)
血の繋がりを持った息子である殿下が直々に頼み込めば話は別かもしれないが、何だか複雑な心境だ。
王妃陛下の傍までやってくると、近くに控えていた侍女と騎士が私たち二人を見て一礼した。
それに気付いた陛下がくるりと後ろを振り返った。
「グレイフォード……?どうしてここに……って、貴方は……」
陛下は最初に殿下を視界に入れた後、隣を歩いていた私に目をやった。
もちろん不快そうな顔は隠しきれていない。
(やっぱりそうなるわよね……)
予想していた反応だが、こうも顔に出されるとショックだ。
そんな私の気持ちに気付いたのか、殿下が私を庇うようにして前に出た。
「母上、今日は頼みがあってここまで来たのです」
「頼み……?」
殿下の背中に視界を遮られた。
まだまだ成長途中だが、私よりも背は高くその背中はとても逞しく見えた。
(殿下……)
優しい彼についつい甘えたくなってしまう。
でもそれではダメだ。
私は大丈夫だと視線で殿下に伝え、再び王妃陛下の前に出た。
「二人揃って何の用かしら?」
「その前に、人払いをお願い出来ますでしょうか」
「……貴方たち、離れていなさい」
王妃陛下は面倒臭そうにしながらも、しっかりと人払いをしてくれた。
「わざわざそんなことをしなければいけないだなんて、余程大事な話のようね」
「はい、母上」
「それは隣にいるフルール公爵令嬢に関することなのかしら?」
「その通りです」
「やっぱりね」
王妃陛下は私を見てムスッとした顔になった。
私はその隙を逃さず、陛下に挨拶をするためにカーテシーをした。
「王妃陛下、お久しぶりでございます」
「ええ、そうね」
陛下はぶっきらぼうにそれだけ返すと、すぐに殿下の方に視線を戻した。
(私の顔は見たくもないようね……)
以前の私は母娘になるのだからと王妃陛下とも仲良くしたいと思っていた。
しかし、今の王妃陛下の様子を見るとやはり不可能なのではないかと不安感が押し寄せてきた。
「それで、何かしら?早く頼みというものを言ってみなさい」
「はい、実は――」
殿下は王妃陛下の前で包み隠すことなく全てを話した。
国王陛下が私を狙っていること、私を守ってほしいこと。
王妃陛下は自身の夫が企んでいることを知っていたのか、驚く様子を見せずにただじっと殿下の話を聞いているだけだった。
「母上、どうかお願いします」
全てを言い終えた殿下は深く頭を下げた。
それに倣って私も同じように頭を下げる。
殿下と私のこの想いは、果たして王妃陛下に届くのだろうか。
ドキドキしながら王妃陛下の返事を待っていたが、頭上から降ってきたのは非常に冷たい声だった。
「ハッ……それが頼みですって?」
「……」
その声に私と殿下は顔を上げた。
目の前にいる王妃陛下は、不愉快極まりないと言った顔を私たちに向けていた。
「将来王妃になるというのに、そんなことも一人で解決出来ないだなんてハッキリ言って情けないわ」
「母上……」
その言葉に、殿下は悔しそうな顔をした。
「私が貴方たちの抱えている事情に関与することは無いわ。分かったなら早く帰りなさい」
「待ってください、母上」
「王妃陛下……!」
それから私たちは王妃陛下によってすぐに庭を追い出されてしまった。
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