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一章
閑話 公爵令嬢が死んだ後②―グレイフォード編―
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俺は男爵令嬢の前に立って向かい合った。
「……」
「……」
話すと言ってもお互いに言葉が出てこない。
男爵令嬢は先ほどからずっと悲しそうに目を伏せている。
おそらくセシリアが死んだことを心の底から悲しんでいるのだろう。
(当然だよな……)
俺はそう思うと同時に、彼女がまだ生きていた頃のことを思い出した。
***
俺は長い間、あることで悩んでいた。
「……」
セシリアを婚約者として大切にしたかったが、大きな問題があったからだ。
それは、父がセシリアを自分のものにしようとしていることだ。
おそらく父は俺と彼女を結婚させ、自分も手を出すつもりなのだろう。
セシリアが王太子である俺と結婚すれば、彼女は必然的に王宮へ来ることとなるからだ。
彼女はかつて父が唯一愛した女性――リーナ・フルール公爵夫人に瓜二つだった。
その公爵夫人は既に亡くなっているからその娘であるセシリアに狙いを付けたのだろう。
気持ち悪くてたまらない。
(……ダメだ、絶対に)
俺はセシリアにそんな扱いを受けてほしくなかった。
数々の悪意にさらされ、多くの人間に愛されて育つはずだった彼女が、誰からも愛されない少女となっているのだ。
胸がズキズキと痛んだ。
正直に言うと、セシリアが婚約者で良かったと思ったことも何度かあった。
しかし、俺との結婚が彼女をさらに不幸にしてしまう。
それだけは耐えられなかった。
このままではいけないと思った俺は、とにかくセシリアに冷たく当たった。
彼女が俺を嫌いになるように。
俺から婚約破棄は絶対に不可能だったからだ。
父は俺がどんな大きな問題を起こそうとも俺とセシリアを結婚させるだろう。
だからこの婚約を白紙にするためにはフルール公爵家側から破棄するしか方法はなかった。
王族との婚姻を貴族側から破棄するのは簡単なことではなかったが、例えば相手が婚約者を蔑ろにしている、相手が不貞をしているなどの理由があれば出来ないこともなかった。
俺はそれに賭けることにした。
しかし、それでもセシリアはなかなか婚約を白紙にしようとしなかった。
それどころか、俺に――こんな男に歩み寄ろうとしているようだ。
そんな彼女の優しさと俺への想いに嬉しさを覚えながらも、俺はさらに彼女にキツく当たった。
胸は痛むが、仕方がない。
これも全て彼女の幸せのためだったから。
しかしやはり婚約は継続され、俺たちの結婚の日も近くなってきた。
どうするべきか。
俺は頭を悩ませた。
このまま結婚してしまえば、セシリアはいよいよ父から逃げられなくなる。
あの男の彼女に対する執着は異常だ。
(どうする……どうすれば……)
俺は途方に暮れた。
そんなときに出会ったのがマリア・ヘレイス男爵令嬢だった。
王宮の舞踏会で一人庭園にいるセシリアを陰から隠れてじっと見つめている人間がいた。
(なんだこいつは……?)
俺はその不審者の喉元に剣を突き付けた。
「ひゃっ!」
不審者は驚いて小さな悲鳴をあげた。
「おい、こんなところで何をしている?何故セシリアを見つめている?」
「も、申し訳ありませんッ!!!セシリア様が好きすぎるんです!!!」
「何だと……?」
話を聞いてみて意外なことが分かった。
どうやらこの女はセシリアに憧れを抱いていて、ストーカーのように付きまとっているらしい。
(……変な女だな)
俺はそれから時々その女と話すようになった。
その女はヘレイス男爵家の娘で、舞踏会でセシリアに一目惚れしたらしい。
「その時のセシリア様はまるで女神のようで……!」
セシリアを語るときの目がキラキラしていたから、おそらく嘘はついていないのだろう。
(家族仲も良好……か)
俺は念のため、その女の身辺調査もしたが怪しいところは何も無かった。
つまり、この女はただのセシリアの大ファンということだ。
「……」
俺はそのとき、ある思いが頭をよぎった。
この女になら全てを話してもいいだろうかと。
俺はそう思い、男爵令嬢に全てを話した。
それを聞いた男爵令嬢は顔を真っ赤にして「今すぐ国王を殺しに行く!」と行って部屋を飛び出しそうになった。
慌てて止めたが、今にも父を殺しかねない勢いだった。
貴族令嬢とは思えないほどに力が強く、止めるのにも一苦労だった。
そんな男爵令嬢を見た俺は思った。
(……こいつはセシリアのためだったら何でもするのか……?)
そう考えた俺はこの女に「セシリアのための」協力を要請した。
するとその女は俺の思った通り、セシリア様のためならと快く引き受けた。
そしてその協力というのが「俺の恋人のふりをすること」だった。
「……」
「……」
話すと言ってもお互いに言葉が出てこない。
男爵令嬢は先ほどからずっと悲しそうに目を伏せている。
おそらくセシリアが死んだことを心の底から悲しんでいるのだろう。
(当然だよな……)
俺はそう思うと同時に、彼女がまだ生きていた頃のことを思い出した。
***
俺は長い間、あることで悩んでいた。
「……」
セシリアを婚約者として大切にしたかったが、大きな問題があったからだ。
それは、父がセシリアを自分のものにしようとしていることだ。
おそらく父は俺と彼女を結婚させ、自分も手を出すつもりなのだろう。
セシリアが王太子である俺と結婚すれば、彼女は必然的に王宮へ来ることとなるからだ。
彼女はかつて父が唯一愛した女性――リーナ・フルール公爵夫人に瓜二つだった。
その公爵夫人は既に亡くなっているからその娘であるセシリアに狙いを付けたのだろう。
気持ち悪くてたまらない。
(……ダメだ、絶対に)
俺はセシリアにそんな扱いを受けてほしくなかった。
数々の悪意にさらされ、多くの人間に愛されて育つはずだった彼女が、誰からも愛されない少女となっているのだ。
胸がズキズキと痛んだ。
正直に言うと、セシリアが婚約者で良かったと思ったことも何度かあった。
しかし、俺との結婚が彼女をさらに不幸にしてしまう。
それだけは耐えられなかった。
このままではいけないと思った俺は、とにかくセシリアに冷たく当たった。
彼女が俺を嫌いになるように。
俺から婚約破棄は絶対に不可能だったからだ。
父は俺がどんな大きな問題を起こそうとも俺とセシリアを結婚させるだろう。
だからこの婚約を白紙にするためにはフルール公爵家側から破棄するしか方法はなかった。
王族との婚姻を貴族側から破棄するのは簡単なことではなかったが、例えば相手が婚約者を蔑ろにしている、相手が不貞をしているなどの理由があれば出来ないこともなかった。
俺はそれに賭けることにした。
しかし、それでもセシリアはなかなか婚約を白紙にしようとしなかった。
それどころか、俺に――こんな男に歩み寄ろうとしているようだ。
そんな彼女の優しさと俺への想いに嬉しさを覚えながらも、俺はさらに彼女にキツく当たった。
胸は痛むが、仕方がない。
これも全て彼女の幸せのためだったから。
しかしやはり婚約は継続され、俺たちの結婚の日も近くなってきた。
どうするべきか。
俺は頭を悩ませた。
このまま結婚してしまえば、セシリアはいよいよ父から逃げられなくなる。
あの男の彼女に対する執着は異常だ。
(どうする……どうすれば……)
俺は途方に暮れた。
そんなときに出会ったのがマリア・ヘレイス男爵令嬢だった。
王宮の舞踏会で一人庭園にいるセシリアを陰から隠れてじっと見つめている人間がいた。
(なんだこいつは……?)
俺はその不審者の喉元に剣を突き付けた。
「ひゃっ!」
不審者は驚いて小さな悲鳴をあげた。
「おい、こんなところで何をしている?何故セシリアを見つめている?」
「も、申し訳ありませんッ!!!セシリア様が好きすぎるんです!!!」
「何だと……?」
話を聞いてみて意外なことが分かった。
どうやらこの女はセシリアに憧れを抱いていて、ストーカーのように付きまとっているらしい。
(……変な女だな)
俺はそれから時々その女と話すようになった。
その女はヘレイス男爵家の娘で、舞踏会でセシリアに一目惚れしたらしい。
「その時のセシリア様はまるで女神のようで……!」
セシリアを語るときの目がキラキラしていたから、おそらく嘘はついていないのだろう。
(家族仲も良好……か)
俺は念のため、その女の身辺調査もしたが怪しいところは何も無かった。
つまり、この女はただのセシリアの大ファンということだ。
「……」
俺はそのとき、ある思いが頭をよぎった。
この女になら全てを話してもいいだろうかと。
俺はそう思い、男爵令嬢に全てを話した。
それを聞いた男爵令嬢は顔を真っ赤にして「今すぐ国王を殺しに行く!」と行って部屋を飛び出しそうになった。
慌てて止めたが、今にも父を殺しかねない勢いだった。
貴族令嬢とは思えないほどに力が強く、止めるのにも一苦労だった。
そんな男爵令嬢を見た俺は思った。
(……こいつはセシリアのためだったら何でもするのか……?)
そう考えた俺はこの女に「セシリアのための」協力を要請した。
するとその女は俺の思った通り、セシリア様のためならと快く引き受けた。
そしてその協力というのが「俺の恋人のふりをすること」だった。
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