41 / 127
一章
王宮へ
しおりを挟む
帰路についた私は、近くで迎えに来ていた騎士たちと合流して公爵邸へと帰った。
「もう、セシリア様ったら!はぐれないようにとあれほど言ったではありませんか!」
「ごめんごめん!はしゃぎすぎてつい……」
邸に帰った後はもちろんミリアからのお説教を食らうはめになってしまったが。
(ふふふ、何だかお母さんみたいね)
私は実の母と会ったことがない。
だからこそ、ミリアがお母様のようなものだった。
「ミリア、今度は気を付けるから」
「いいえ、その必要はございません」
「え?」
「セシリア様は当分の間お出かけ禁止です」
「……えっ!?」
ミリアは頬を膨らませながらぷいっと顔を背けた。
(ちょ、ちょっと待って……お出かけ禁止だなんて……!)
本当に母親並みの厳しさである。
「ちょ、ちょっと待ってよミリア……たしかに今回の件は私に非があったけれど……」
「いいえ、ダメです。本来なら旦那様にお伝えするところですからね」
「お、お父様に……」
このことがお父様に伝わるのだけは勘弁である。
もちろん私に無関心なあの人は心配などはしないだろう。
しかし「王太子の婚約者としての自覚を持て」だの「勝手な行動は慎め」だの口煩く言ってくるのであろうことが用意に想像出来た。
(それだけは御免だわ……!)
この邸にいる使用人たちはほとんどが私の味方なので、そんな私の気持ちを知ってかお父様にこういうことを伝えようとはしない。
むしろそれで良いし、彼らのそういうところに助けられているのだが。
私の顔が青くなっていったのに気付いたのか、ミリアが諭すように言った。
「セシリア様は当分謹慎です」
「……むぅ、分かった」
不満を感じながらも、私は渋々頷いた。
***
翌日。
私は一人邸の中を歩き回っていた。
(外出禁止……って言っても本当にすることが無いわね……)
ミリアによって出掛けることが禁じられている今、邸の外に出てはいけない。
しかし、だからといって部屋の中でじっとしていることも出来なかった。
そのため、こうやって邸の中を歩き回って退屈さを解消させているのである。
「お嬢様、おはようございます」
「あら、おはよう」
すれ違う使用人たちがニコニコしながら私に挨拶する。
これだけでも気分が良くなる。
ちなみに今日はお父様が家にいない日だ。
なので比較的自由に行動することが出来る。
(それだけはラッキーね)
厨房の前を通りかかると、良い香りがした。
どうやら朝食を準備している最中のようだ。
「お嬢様、朝食を摂られますか?」
「そうしようかしら」
「分かりました、では食堂に……」
「あ……今日はお部屋に持って来てくれないかしら」
「お部屋に……ですか?」
「ええ……今日はお父様もいらっしゃらないし……」
せっかくなら一人でゆっくりモーニングを楽しみたい。
そう思った私は、自室で食事をすることにした。
「承知しました、お嬢様」
「ありがとう、助かるわ」
それからしばらくして、部屋に戻った私の元に朝食が運ばれてきた。
(お腹空いてたのよね)
準備されるなり、私はすぐに食事に手を付け始めた。
ちょうどお腹がペコペコだったため、あっという間に食べ終えてしまった。
「とっても美味しかったわ」
「うふふ、料理長にお嬢様がそう言っていたとお伝えしておきますね」
侍女が食べ終わった食器を下げ、部屋になっていたそのとき突然扉がノックされた。
(……随分早いわね)
扉から顔を覗かせたのは先ほどの侍女ではなく、ミリアだった。
「お嬢様、お手紙が届いております」
「……手紙?一体誰から?」
「王太子殿下からです」
殿下が手紙を送ってくるだなんて。
滅多に無いことだから少しだけ驚いた。
私は侍女が持って来た手紙を受け取り、封を開けた。
「……」
「お嬢様、殿下は何て?」
「……今すぐ王宮に来てくれないかと」
「いくら何でも急すぎではありませんか?」
「そうね……」
私は国王陛下とお茶会をしたあの日から王宮へは一度も行っていない。
陛下からの誘いは全て適当な理由を付けて断っていた。
(殿下が……)
しかし、私は手紙の内容に少しだけ不審感を覚えた。
手紙には明確な理由もなくただ王宮に来てくれとだけ書かれている。
少なくとも、殿下はこのようなことをする人ではない。
(だけど……)
この筆跡には見覚えがあった。
間違いなく殿下のものだ。
「お嬢様、行かれるのですか?」
「……そうね、準備をお願い出来るかしら?」
「……分かりました」
私は手紙に書かれている通り、王宮に行く準備をした。
(今回は殿下からのお誘いよ……陛下と会ってしまうかもしれないけれど……一人にさえならなければきっと大丈夫……)
心の中で自分にそう言い聞かせるも、何だか妙な気分になった。
何より、この胸騒ぎは一体何だろうか。
「もう、セシリア様ったら!はぐれないようにとあれほど言ったではありませんか!」
「ごめんごめん!はしゃぎすぎてつい……」
邸に帰った後はもちろんミリアからのお説教を食らうはめになってしまったが。
(ふふふ、何だかお母さんみたいね)
私は実の母と会ったことがない。
だからこそ、ミリアがお母様のようなものだった。
「ミリア、今度は気を付けるから」
「いいえ、その必要はございません」
「え?」
「セシリア様は当分の間お出かけ禁止です」
「……えっ!?」
ミリアは頬を膨らませながらぷいっと顔を背けた。
(ちょ、ちょっと待って……お出かけ禁止だなんて……!)
本当に母親並みの厳しさである。
「ちょ、ちょっと待ってよミリア……たしかに今回の件は私に非があったけれど……」
「いいえ、ダメです。本来なら旦那様にお伝えするところですからね」
「お、お父様に……」
このことがお父様に伝わるのだけは勘弁である。
もちろん私に無関心なあの人は心配などはしないだろう。
しかし「王太子の婚約者としての自覚を持て」だの「勝手な行動は慎め」だの口煩く言ってくるのであろうことが用意に想像出来た。
(それだけは御免だわ……!)
この邸にいる使用人たちはほとんどが私の味方なので、そんな私の気持ちを知ってかお父様にこういうことを伝えようとはしない。
むしろそれで良いし、彼らのそういうところに助けられているのだが。
私の顔が青くなっていったのに気付いたのか、ミリアが諭すように言った。
「セシリア様は当分謹慎です」
「……むぅ、分かった」
不満を感じながらも、私は渋々頷いた。
***
翌日。
私は一人邸の中を歩き回っていた。
(外出禁止……って言っても本当にすることが無いわね……)
ミリアによって出掛けることが禁じられている今、邸の外に出てはいけない。
しかし、だからといって部屋の中でじっとしていることも出来なかった。
そのため、こうやって邸の中を歩き回って退屈さを解消させているのである。
「お嬢様、おはようございます」
「あら、おはよう」
すれ違う使用人たちがニコニコしながら私に挨拶する。
これだけでも気分が良くなる。
ちなみに今日はお父様が家にいない日だ。
なので比較的自由に行動することが出来る。
(それだけはラッキーね)
厨房の前を通りかかると、良い香りがした。
どうやら朝食を準備している最中のようだ。
「お嬢様、朝食を摂られますか?」
「そうしようかしら」
「分かりました、では食堂に……」
「あ……今日はお部屋に持って来てくれないかしら」
「お部屋に……ですか?」
「ええ……今日はお父様もいらっしゃらないし……」
せっかくなら一人でゆっくりモーニングを楽しみたい。
そう思った私は、自室で食事をすることにした。
「承知しました、お嬢様」
「ありがとう、助かるわ」
それからしばらくして、部屋に戻った私の元に朝食が運ばれてきた。
(お腹空いてたのよね)
準備されるなり、私はすぐに食事に手を付け始めた。
ちょうどお腹がペコペコだったため、あっという間に食べ終えてしまった。
「とっても美味しかったわ」
「うふふ、料理長にお嬢様がそう言っていたとお伝えしておきますね」
侍女が食べ終わった食器を下げ、部屋になっていたそのとき突然扉がノックされた。
(……随分早いわね)
扉から顔を覗かせたのは先ほどの侍女ではなく、ミリアだった。
「お嬢様、お手紙が届いております」
「……手紙?一体誰から?」
「王太子殿下からです」
殿下が手紙を送ってくるだなんて。
滅多に無いことだから少しだけ驚いた。
私は侍女が持って来た手紙を受け取り、封を開けた。
「……」
「お嬢様、殿下は何て?」
「……今すぐ王宮に来てくれないかと」
「いくら何でも急すぎではありませんか?」
「そうね……」
私は国王陛下とお茶会をしたあの日から王宮へは一度も行っていない。
陛下からの誘いは全て適当な理由を付けて断っていた。
(殿下が……)
しかし、私は手紙の内容に少しだけ不審感を覚えた。
手紙には明確な理由もなくただ王宮に来てくれとだけ書かれている。
少なくとも、殿下はこのようなことをする人ではない。
(だけど……)
この筆跡には見覚えがあった。
間違いなく殿下のものだ。
「お嬢様、行かれるのですか?」
「……そうね、準備をお願い出来るかしら?」
「……分かりました」
私は手紙に書かれている通り、王宮に行く準備をした。
(今回は殿下からのお誘いよ……陛下と会ってしまうかもしれないけれど……一人にさえならなければきっと大丈夫……)
心の中で自分にそう言い聞かせるも、何だか妙な気分になった。
何より、この胸騒ぎは一体何だろうか。
221
お気に入りに追加
5,910
あなたにおすすめの小説
【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。
たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。
だけど今回は無理だった。
突然の婚約。
え?なんで?嫌だよ。
幼馴染のリヴィ・アルゼン。
ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの?
好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。
なのに気がつけば結婚させられて……
意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。
戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。
なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて……
「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。
リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど……
◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。
申し訳ありません。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】浮気された私は貴方の子どもを内緒で育てます 時々番外編
たろ
恋愛
朝目覚めたら隣に見慣れない女が裸で寝ていた。
レオは思わずガバッと起きた。
「おはよう〜」
欠伸をしながらこちらを見ているのは結婚前に、昔付き合っていたメアリーだった。
「なんでお前が裸でここにいるんだ!」
「あら、失礼しちゃうわ。昨日無理矢理連れ込んで抱いたのは貴方でしょう?」
レオの妻のルディアは事実を知ってしまう。
子どもが出来たことでルディアと別れてメアリーと再婚するが………。
ルディアはレオと別れた後に妊娠に気づきエイミーを産んで育てることになった。
そしてレオとメアリーの子どものアランとエイミーは13歳の時に学園で同級生となってしまう。
レオとルディアの誤解が解けて結ばれるのか?
エイミーが恋を知っていく
二つの恋のお話です
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。
たろ
恋愛
「ただいま」
朝早く小さな声でわたしの寝ているベッドにそっと声をかける夫。
そして、自分のベッドにもぐり込み、すぐに寝息を立てる夫。
わたしはそんな夫を見て溜息を吐きながら、朝目覚める。
そして、朝食用のパンを捏ねる。
「ったく、いっつも朝帰りして何しているの?朝から香水の匂いをプンプンさせて、臭いのよ!
バッカじゃないの!少しカッコいいからって女にモテると思って!調子に乗るんじゃないわ!」
パンを捏ねるのはストレス発散になる。
結婚して一年。
わたしは近くのレストランで昼間仕事をしている。
夫のアッシュは、伯爵家で料理人をしている。
なので勤務時間は不規則だ。
それでも早朝に帰ることは今までなかった。
早出、遅出はあっても、夜中に勤務して早朝帰ることなど料理人にはまずない。
それにこんな香水の匂いなど料理人はまずさせない。
だって料理人にとって匂いは大事だ。
なのに……
「そろそろ離婚かしら?」
夫をぎゃふんと言わせてから離婚しようと考えるユウナのお話です。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる