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一章

お祭り

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「ん~!やっぱり天気が良い日は外へ出るべきね!」


私は公爵邸にある広い庭へと来ていた。
空は快晴。
暖かい日差しが降り注いでいる。


(最近色んなことがあってまともに外出出来てなかったけれど……)


やはり外へ出て太陽を浴びるのは気持ちが良い。
悩みに悩んだときこそお出かけをするべきだろう。


「お嬢様が元気を取り戻されたようで良かったです」
「あら、そう?」


後ろにいたミリアが溌剌とした私を見て微笑んだ。
たしかにここ最近はずっと気分が沈んでいたかもしれない。


(ミリアを心配させてしまっていたなんて……)


変な心配をかけていたとは、主人失格である。


「お嬢様、お出かけをされますか?」
「ええ、そうしようかしら。でもどこへ行こう……」


出掛けたいのはやまやまだが、どこへ行くべきなのかに悩んだ。


(離れにある庭園?王都?選択肢が多すぎて悩んでしまうわね……)


そんな私の心の内を読んだのか、ミリアがクスクスと笑いながらアドバイスをしてくれた。


「それなら、今日から三日間に渡って行われる祭りへ行ってみてはいかがですか?」
「祭り?」
「はい、今も開催されているはずです」


ちょうどこの時期に、大きな祭りが王都で行われているという話は前世を含めて何度か聞いたことがあった。


(祭りだなんて……)


私は前世ではもちろんそのようなものに行ったことは無い。
人混みがあまり好きでは無かったし、あの頃はいつもお父様の顔色を窺っていたから。
きっとそんなところに行っていないで勉強でもしていろと叱責を受けるのだろうと思っていたのだ。


しかし、二度目の人生を思う存分楽しむことを決めた私は違う。
正直に言うと、すごく興味があった。


「……行ってみようかな」
「では、早速準備をいたしましょう」


私たちは一度邸の中へ戻ってお出かけの準備をした。



***


「こんな感じでいいかしら?」
「……いつも思うのですが、セシリアお嬢様は本当に平民には見えませんね」
「そう?」


平民の質素な服に着替えた私を見たミリアがそんなことを口にした。
おそらく、母譲りの金髪と翡翠色の瞳が目立っているのだろう。


(たしかに、いかにもどこかの貴族令嬢がお忍びで来てますって感じね……)


鏡を見た私は、あまりにもミリアの言うことが的を得ていたので思わず苦笑した。


「まぁ、とにかく行きましょう」
「はい、セシリア様」


再び邸を出た私とミリアは王都行きの馬車へと乗り込んだ。


(お祭りってどんな感じなんだろうな。楽しみ)


人生で初めての体験に、胸がワクワクした。


「ミリア、今日は夜までいてもいいかしら?」
「えっ、夜までですか……?」


私のお願いに、ミリアは予想通りと言うべきか難色を示した。
しかし、せっかく年に一度の祭りが開かれるのだ。
だからこそ、私もここで退くわけにはいかなかった。


「ねぇ、お願い!せっかくのお出かけを楽しみたいの!」
「…………わ、分かりました。ですが、くれぐれもお一人にはならないでくださいね」
「やった!ありがとう、ミリア!」


珍しい私のおねだりにミリアが困ったように笑った。


(これで今日は丸々遊べる!)


本当ならいけないことだが、前世で頑張った分たまにくらいなら良いだろう。
私は心の中で頷いた。


「セシリア様、着きましたよ」
「すぐに行くわ!」


どうやら色々しているうちに王都へ着いたようだ。
ミリアに続いて、私は御者の手を借りて馬車から降りた。


「わぁ……」


祭りが開かれているからか、王都の街はいつもより活気に満ちていた。
生まれて初めて見る光景に、私は完全に目を奪われていた。


(……何だか前よりも賑やかになっている気がする)


食べ物やゲームなど様々な屋台が立ち並んでいる王都は、前に来たときよりもたくさんの人で溢れかえっていた。


(私と殿下が結婚したときもこんな感じだったっけなぁ……)


前世で私と殿下が結婚したときもこんな風にお祝いムードになっていたような気がする。


「あら?」
「セシリア様、どうかなさいました?」
「ミリア、あれレーヌ伯爵家のご令嬢じゃないかしら?」
「あ、本当だ……多分セシリア様と同じくお忍びで来てるんでしょうね」


少し離れた場所で屋台の食べ物を買っているのは、お茶会で幾度か関わったことのあるご令嬢だった。
彼女もまた、私たちと同じく平民の服を身に纏っている。


「ねぇ、あっちはコール伯爵家の方じゃない?隣にいるのは婚約者様かしら?」
「あらまぁ、本当ですね……というかセシリア様、よく見つけましたね」
「……」


いたるところに知った顔の人間がいて、何だか悔しい気持ちになった。


「本当に色んな貴族が来ているのね……」
「まぁ、年に一度のお祭りですから……」


どうやら一度も来たことが無かったのは私だけのようだ。
ムスッとした様子の私に、ミリアが軽く笑った。


(まぁいいわ、今日は今までの分を思いっきり楽しんでやるんだから!)


そう心に決めた私は、ミリアに声を掛けた。


「ミリア、早く行きましょう!私、あれが食べたいわ!」
「あ、セシリア様!もう、一人にならないでくださいって言ったじゃないですか!」


私はまるで子供のように、人で賑わう王都の街を駆け出した。

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