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一章
心境の変化
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その翌日。
「これは……一体何の……」
朝一番、私は目の前にあるリボンが掛けられた小さな箱を見て目をパチクリさせた。
これはついさっき侍女であるミリアから受け取ったものだ。
私宛てに贈り物が届いていたようなのである。
ただそれだけなら、これほどまでに驚きはしない。
私が驚きを隠せなかったのは、贈り物の差出人が国王陛下だったからである。
(どうして私にプレゼントを……?)
前世でもこんなことは一度も無かった。
不思議に思いながらも、私は慎重に箱にかけられたリボンを解いた。
警戒心を強めながら、そっと箱を開けていく。
中から出てきたのはブレスレットだった。
「……」
国王陛下から贈られたブレスレットは異色な輝きを放っていた。
美しい紫色であったが、今の私にとっては何故かそれが禍々しいもののように感じた。
贈られたブレスレットに手を触れると、何故だか変な感覚に陥った。
(この感じは一体何……?何だか気持ち悪いわ……)
私はブレスレットを一旦机の上に置き、同封されていた手紙に目を通した。
国王陛下が直接書いたのであろう文が目に入った。
『昨日は驚かせて悪かったな。
これはせめてものお詫びだ。
また今度もう一度お茶会に誘わせてくれ。
君は将来私の娘になるのだから。
アルベルト』
アルベルトとは国王陛下の名前である。
一見、息子の婚約者を気遣う優しい義父のように見える文章だ。
しかしその手紙を見た私は、妙な気味の悪さを感じた。
「……」
私はすぐに陛下から貰ったブレスレットを箱に閉まってドレスルームの一番奥に押し込んだ。
以前の私ならきっとありがたく着けていただろう。
しかし今の私には、とてもじゃないがそうすることが出来なかった。
そしてこの先陛下からお茶会に誘われたとしても、きっと行くことは無いだろう。
礼儀上、お礼の手紙だけは書かなければならなかったが。
『素敵な贈り物をありがとうございます、陛下』
不思議とそれ以上の言葉は思い付かなかった。
前世では私にとって国王陛下は恩人だった。
親からも婚約者からも愛されていない私に、唯一優しくしてくれた人だったから。
だけど今は?
「……」
よく分からない。
自分があの人に対してどのような感情を抱いているのか。
――『もう父上とは茶会をするな。二人きりで会うのもダメだ』
「……!」
そこで私の頭をよぎったのは、昨日殿下に言われた言葉だった。
殿下の言うことをこんなにも素直に聞いている自分に驚いた。
少し前の私なら、殿下よりも陛下を信じていたはずだから。
(本当に、どうしちゃったんだろう……)
あのときの殿下の瞳に、嘘は無かったように思える。
前世の殿下と、今世の殿下は明らかに違う。
それはもう十分すぎるくらい分かりきっていた。
自分が何をしたいのか。
私はこのとき、どうしてもその答えを見つけることが出来なかった。
***
国王陛下とお茶会をしてから一週間が経った。
あれからというもの、何度か国王陛下からのお茶会の誘いが来たが殿下に言われた通り全て欠席した。
何の理由もなく国王の誘いを断るだなんて、本当なら下に付く者として不敬極まりないことである。
しかし、フルール公爵家は王国の中でも超が付くほどの名門だ。
いくら国王陛下とはいえ敵に回したくはないのか、特に罰せられたりはしなかった。
お父様も相変わらず私に無関心なようで、小言を言われることも無かった。
それに関してはひとまず安心だ。
(それにしても、たった一週間のうちにこんなにも招待状を送ってくるだなんて……)
本当にどうかしている。
忠告を受けたあの日から私は殿下にも陛下にも一度も会っていなかった。
私は王太子殿下の婚約者である。
王宮に行こうと思えば行ける身分ではあったが、どうも行く気にはなれなかった。
理由はただ一つ。
国王陛下にどうしても会いたくなかったから。
それは、お茶会を仮病で休んでいるという罪悪感から来るものだろうか。
それとも……
「……」
そこで私の頭の中に浮かんだのは、ある思いだった。
(グレイフォード殿下に……会いたいな……)
こんなにも不安な日は、彼に傍にいてほしかった。
いつもみたいに私の隣で軽口を叩いていてほしい。
それだけで何故だか安心出来るから。
「……!」
そこで私はハッとなった。
(私ったら、一体何考えているの!?)
私はすぐに慌ててその気持ちを脳内からかき消した。
これは抱いてはいけない思いだ。
またあのような辛い人生を歩むことになってしまうのだけは御免である。
(本当に最近の私はどうかしているみたいね……きっと部屋に引きこもりがちになっているからだわ)
そう思った私は、気分転換のために外へ出た。
「これは……一体何の……」
朝一番、私は目の前にあるリボンが掛けられた小さな箱を見て目をパチクリさせた。
これはついさっき侍女であるミリアから受け取ったものだ。
私宛てに贈り物が届いていたようなのである。
ただそれだけなら、これほどまでに驚きはしない。
私が驚きを隠せなかったのは、贈り物の差出人が国王陛下だったからである。
(どうして私にプレゼントを……?)
前世でもこんなことは一度も無かった。
不思議に思いながらも、私は慎重に箱にかけられたリボンを解いた。
警戒心を強めながら、そっと箱を開けていく。
中から出てきたのはブレスレットだった。
「……」
国王陛下から贈られたブレスレットは異色な輝きを放っていた。
美しい紫色であったが、今の私にとっては何故かそれが禍々しいもののように感じた。
贈られたブレスレットに手を触れると、何故だか変な感覚に陥った。
(この感じは一体何……?何だか気持ち悪いわ……)
私はブレスレットを一旦机の上に置き、同封されていた手紙に目を通した。
国王陛下が直接書いたのであろう文が目に入った。
『昨日は驚かせて悪かったな。
これはせめてものお詫びだ。
また今度もう一度お茶会に誘わせてくれ。
君は将来私の娘になるのだから。
アルベルト』
アルベルトとは国王陛下の名前である。
一見、息子の婚約者を気遣う優しい義父のように見える文章だ。
しかしその手紙を見た私は、妙な気味の悪さを感じた。
「……」
私はすぐに陛下から貰ったブレスレットを箱に閉まってドレスルームの一番奥に押し込んだ。
以前の私ならきっとありがたく着けていただろう。
しかし今の私には、とてもじゃないがそうすることが出来なかった。
そしてこの先陛下からお茶会に誘われたとしても、きっと行くことは無いだろう。
礼儀上、お礼の手紙だけは書かなければならなかったが。
『素敵な贈り物をありがとうございます、陛下』
不思議とそれ以上の言葉は思い付かなかった。
前世では私にとって国王陛下は恩人だった。
親からも婚約者からも愛されていない私に、唯一優しくしてくれた人だったから。
だけど今は?
「……」
よく分からない。
自分があの人に対してどのような感情を抱いているのか。
――『もう父上とは茶会をするな。二人きりで会うのもダメだ』
「……!」
そこで私の頭をよぎったのは、昨日殿下に言われた言葉だった。
殿下の言うことをこんなにも素直に聞いている自分に驚いた。
少し前の私なら、殿下よりも陛下を信じていたはずだから。
(本当に、どうしちゃったんだろう……)
あのときの殿下の瞳に、嘘は無かったように思える。
前世の殿下と、今世の殿下は明らかに違う。
それはもう十分すぎるくらい分かりきっていた。
自分が何をしたいのか。
私はこのとき、どうしてもその答えを見つけることが出来なかった。
***
国王陛下とお茶会をしてから一週間が経った。
あれからというもの、何度か国王陛下からのお茶会の誘いが来たが殿下に言われた通り全て欠席した。
何の理由もなく国王の誘いを断るだなんて、本当なら下に付く者として不敬極まりないことである。
しかし、フルール公爵家は王国の中でも超が付くほどの名門だ。
いくら国王陛下とはいえ敵に回したくはないのか、特に罰せられたりはしなかった。
お父様も相変わらず私に無関心なようで、小言を言われることも無かった。
それに関してはひとまず安心だ。
(それにしても、たった一週間のうちにこんなにも招待状を送ってくるだなんて……)
本当にどうかしている。
忠告を受けたあの日から私は殿下にも陛下にも一度も会っていなかった。
私は王太子殿下の婚約者である。
王宮に行こうと思えば行ける身分ではあったが、どうも行く気にはなれなかった。
理由はただ一つ。
国王陛下にどうしても会いたくなかったから。
それは、お茶会を仮病で休んでいるという罪悪感から来るものだろうか。
それとも……
「……」
そこで私の頭の中に浮かんだのは、ある思いだった。
(グレイフォード殿下に……会いたいな……)
こんなにも不安な日は、彼に傍にいてほしかった。
いつもみたいに私の隣で軽口を叩いていてほしい。
それだけで何故だか安心出来るから。
「……!」
そこで私はハッとなった。
(私ったら、一体何考えているの!?)
私はすぐに慌ててその気持ちを脳内からかき消した。
これは抱いてはいけない思いだ。
またあのような辛い人生を歩むことになってしまうのだけは御免である。
(本当に最近の私はどうかしているみたいね……きっと部屋に引きこもりがちになっているからだわ)
そう思った私は、気分転換のために外へ出た。
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