上 下
10 / 127
一章

贈り物

しおりを挟む
私は公爵邸に戻って早速マリアンヌ様からもらった箱を開けてみた。


(これは……)


箱の中に入っていたのはイヤリングだった。
二つのイヤリングにはめ込まれている石は私の瞳の色とよく似ており、箱の中でキラキラと光り輝いている。


(……もしかしたらずっと前から用意していてくれたのかしら)


私はヤリングを箱から取り出した。


(……自分で着けれるかな)


私は自室にあるドレッサーの前に座り、鏡を見ながらイヤリングを耳に着けてみる。


「……!」


私の瞳と似た色のそのイヤリングは驚くほど私に似合っていた。


(綺麗……)


不思議だった。
私が王太子妃として王宮に住んでいた頃によく身に着けていた高価な宝石たちよりもずっと美しく見えた。


私はそのまま鏡に映っている自分をじっと見つめた。


「……」


前世で最後に鏡を見たのはいつだっただろうか。
あの頃は自分の外見にあまり興味がなかった。


着る服も髪飾りも全てを侍女に任せていた。
だから自分の成長した姿はあまり覚えていない。


だけど、一つだけたしかなことがあった。


(…………前世の私は、いつも死にそうな顔をしていた)


勉強をするために睡眠時間をも削っていた。
そのせいか顔色が悪い日もあった。
いつも王妃教育で習った作り物の笑顔を浮かべていた。
もしかしたら心の底から笑ったことなど一度も無かったのではないだろうかと自分でも思う。


だが、今鏡に映っている自分は違った。


顔色も良く、目もキラキラしている。
どこからどう見ても普通の少女だ。


(…………マリアンヌ様にもう一度お礼を言わないとね。私からも何か贈り物をしよう。何がいいかしら?)


そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。


「お嬢様、失礼します」


部屋に入ってきたのはミリアだった。
ミリアは私の顔を見て固まった。


「ミリア……?」
「お嬢様……そのイヤリングはどうなさったのですか……?」


どうやら私が珍しくイヤリングを着けていることに気付いたようだ。


「今日のお茶会でマリアンヌ様から頂いたものなのだけれど……変かしら?」


ミリアの固まった顔を見て似合わなかっただろうかと不安になった。
だが、次にミリアが発した言葉は私の予想の斜め上をいくものだった。


「…………お嬢様、美しすぎます!!!!!」
「え?」


ミリアは目を輝かせて私を見た。


「まるで女神様のようです!あ、まだ幼いから天使の方が合ってるかな?まあこの際どちらでもいいですよね!マリアンヌ様は本当にセンスが良いですね!お嬢様のことをよく分かっていらっしゃいます!」
「そ、そうかしら……?」
「はい!お嬢様はもっと自分に自信を持たれてください!お嬢様ほど素敵な方はこの世界にはいらっしゃらないのですから」
「ミリア……」


そのとき私の頭に浮かんだのは前世での記憶だった。


完璧な令嬢、淑女の鑑、未来の王妃。
これらはどれも私を表す言葉だった。
しかし私はそう言われて嬉しいと思ったことは一度もなかった。


(……ありのままの私を見てくれる人なんて一人もいなかったもの)


それらは王太子の婚約者であるセシリア・フルール公爵令嬢への賛美だった。
セシリア・フルールは私であって私ではない。
社交界での私は常に仮面を着けて自分を偽っているのだから。


だけど、先ほどのミリアの言葉は紛れもなくありのままの私に対してのものだった。
その事実だけで、何だか嬉しくなる。


「…………ありがとう、ミリア」


二度目の人生が始まってから、彼女には助けられてばかりだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

【完結】浮気された私は貴方の子どもを内緒で育てます  時々番外編

たろ
恋愛
朝目覚めたら隣に見慣れない女が裸で寝ていた。 レオは思わずガバッと起きた。 「おはよう〜」 欠伸をしながらこちらを見ているのは結婚前に、昔付き合っていたメアリーだった。 「なんでお前が裸でここにいるんだ!」 「あら、失礼しちゃうわ。昨日無理矢理連れ込んで抱いたのは貴方でしょう?」 レオの妻のルディアは事実を知ってしまう。 子どもが出来たことでルディアと別れてメアリーと再婚するが………。 ルディアはレオと別れた後に妊娠に気づきエイミーを産んで育てることになった。 そしてレオとメアリーの子どものアランとエイミーは13歳の時に学園で同級生となってしまう。 レオとルディアの誤解が解けて結ばれるのか? エイミーが恋を知っていく 二つの恋のお話です

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

【完結】妹にあげるわ。

たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。 婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。 それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。 いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。 それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。 なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。 浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。 家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。 もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。 だったら、この生活もあげるわ。 だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。 キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...